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神様の椅子  作者: *amin*
四章
35/64

35 オーシャン死守戦争

バルディナの艦隊は俺達の船の数百メートル手前で停止した。ざわつく中、甲板に出てきたのは青年と少女の姿だった。


「あれは誰だ?」

「……良く見えないね。奴らが話すのを待とう」



35 オーシャン死守戦争



「ダフネ、私達も船に戻るわよ。急いで」


エデュサが持ち場に戻るように促してくる。仕方ない、今の俺はファライアンに従属してる身だ。ライナと頷き合って、自分の船に戻る。

騎士達が弓の準備をしている。俺は弓とか使えないから専らサポートだな。

その時、船が更にこっちに接近してきて、船の甲板に立っていた男が声を出した。


「我が名はイヅナ・チェンバレン!此度のオーシャンの対応にバルディナは異を唱える!なお且つファライアン等に頼るなど笑止!もはや貴方達と話しあいの場を設ける機会はない!」

「こっちは元々お前達と話す気はないさ、話し合いが通じる相手でもねぇからな!」


リインのかけ声にオーシャン人達の間でもイヅナに向かってヤジが飛ぶ。

それにしてもイヅナって誰なんだ?


「エデュサ、イヅナって知ってるか?」


しかしただ単に俺が無知なだけだったようだ。

エデュサは顔を少し青くしている。どう言う事だ?そんなにあの青年は武勇に長けている、とでも言うんだろうか。

海戦は中々接近が出来ない分、頭がいる戦だ。

もしかしたらイヅナって奴は物凄くクレバーな奴なのかもしれない。


「ダフネ、貴方聞いた事ないのチェンバレンと言う名を……」

「チェンバレン?さっきの奴の名字だよな。苗字があるのは貴族の証拠ってくらいしか……」

「チェンバレンは王の家来と言う意味のバルディナでも有数の騎士の名家。いいえ、バルディナ皇帝の腹心中の腹心である最強の騎士に与えられる姓、それがチェンバレンの称号」

「な、なんだって……」

「あの男はバルディナ第1騎士団団長であるレナード・チェンバレンの息子よ」


レナード。その名前を聞いて背筋が凍った。苗字まで覚えなかったけど、バルディナ第1騎士団のレナードっつったら百戦錬磨の英雄だ。皇帝の腹心であり、発言力も強く、英断力も高い、バルディナ人でなくても、軍人ならば誰もが耳にした事がある騎士だ。

そのレナードの息子……じゃあ横にいるのは……


「恐らく彼女もレナード・チェンバレンの娘のナズナ・チェンバレンね。まさかチェンバレン家の人間と戦えるなんて、軍人として最高の死に場ね」

「お、おい!死んだら不味いだろ!」

「死にはしないわよ。ただそう言われるほどチェンバレンと言う名はすごいって事よ。チェンバレンの人間に負けるのは恥ではない。むしろ戦える事自体を誇りに思え。分かる?そう言われてるのよ」


そんな凄い奴が早速登場だなんて可笑しいだろう。

イヅナは言いたい事だけを言って奥に引っ込んでしまった。始まるんだな、オーシャンを死守する戦争が。

エデュサとリインが視線を合わせて頷き合う。

そしてお互い手を上げて振り下ろした。


「全軍、進め!」

「おめぇら散り際も派手に行こうじゃねぇか!奴らにオーシャンの大地を踏ませんなよ!」


オーシャンの弓と矢の強度は世界最強と言われてる。オーシャンにしか存在しない木が材料になってて、すごく打ちやすいうえに威力も高いんだそうだ。海戦はある程度近づけばオーシャンの弓に敵う物はない。

エデュサとリインのかけ声に兵たちの声が聞こえ船が動きだす。

弓兵は既に自分達の持ち場についている。そして船の中で一番高い場所にいる兵は銃を手に取った。


「エデュサ、あれ!」

「そうよ、ザイナスの技術を真似て作ったの。でもどうしてもザイナスの物の様に耐性がないし威力も弱い。30発撃ったら壊れてしまう。それなのに莫大なお金かけて1丁できあがるの。今回は試作よ」


銃を持ってる奴らは10人程度だけど、それでもザイナスの技術に似た物があるのは心強い。

それにしても向こうは偉く距離を取りたがる。それに向こうの船は横側に何か筒の様な物がついている。あれは一体何に使うんだ?


「攻めてきたな。ナヅナ、オーシャンの攻撃パターンは分かってるな?」

「勿論、オーシャンの弓はさすが世界最強の弓って言われてるだけあって射程が長く威力も高い。ギリギリ届かない距離を保つわ。ファライアンもあの人数だし問題ないんじゃない?」

「大砲の準備ができるまで銃火器で応戦する。ザイナスの兵たち、目標を定めろ!」


なんだ?なんであいつら距離を取るんだ?

あんなに距離を取ったら弓が届かない。お互い攻撃ができないじゃないか。

でも望遠鏡でバルディナの艦隊を監視している兵から声が上がった。


「団長、銃が来ます!プロテクトで応戦してください!」

「お前達、こっちも奴らにかましてやりな!」


またザイナスを連れて来てるのか……この距離から撃てるとなると、銃の射程範囲は相当な広さになる。さすが最強の武器と言われるだけある。弓よりも射程も長いし、威力も高いんだよな。

パンパンと弾かれる音が聞こえて、鉛玉が俺達に向かってきた。

この軍艦には鉄のプレートがいたるところに用意されている。その後ろに隠れる事で鉛玉は防げるけど、それを装備してないオーシャンの兵たちは次々と打ち抜かれて海に落ちていく。

こっちも銃で応戦して、何人か海に落としてるみたいだけど、銃の絶対量が足りない。あっちの方が有利に決まってる。その時、オーシャンの船2隻が突き抜けて真っ直ぐ船に向かって行く。


「な、何やってるんだ!?」


あんなに突出してたら格好の的になってしまう。

俺は慌てて甲板に身を乗り出し、隣の船のライナに大声を出した。


「ライナ、止めさせろ!あのままじゃ沈むぞ!」

「黙って見てなダフネ!あの距離を取られたんじゃ、どちらにせよ弓も使えない。ファライアンは引き続き銃で援護してくれ!」

「ライナ!」

「大丈夫だ!あたし達を信じてくれ!」


勿論信じたいさ!だけど銃火器を扱うザイナスに近づくのは危険だ。向こうに取っちゃ的がでかくなって当てやすくなるだけなんだ。いくら弓が届く距離まで行きたいとしても、これじゃジリ貧だ!


「エデュサ?」

「ダフネ、オーシャンには確かに考えがある。私達は援護射撃する。この程度の銃でどれだけ援護できるか分からないけどね。ザイナスが出て来るなら、ある程度魔術が使えるオルヴァーも連れてくれば良かったわ」


2隻の船は銃弾などモノともせずに海に進んでいく。そしてその1隻の船の先頭に立っていたのはカーシーだった。

カーシーは舵を真っ直ぐ切り、バルディナの船に向かって突進していく。

バルディナの船は密集してる。確かに割り込めたら、かなり有利になるだろうけど。


「あはは!なぁにあの船、格好の的じゃない。兄さんいい?」

「あぁ、そろそろいいだろう。敵の戦意を喪失してやろう。お前達、基準を合わせろ!」


なんだ?バルディナの戦艦が横にずれていく?

射程距離に入ったのか、オーシャンも弓で応戦する。玉と矢が飛び交い、悲鳴も聞こえて来る。

これが戦争……これが戦争なんだ!途端に恐ろしさが増す。士官学校の訓練なんかと全然違う緊迫感。本当に死と隣り合わせの世界。

その時、バルディナの戦艦に取り付けられている筒がオーシャンの船に向いた。


「撃て!!」


その声が聞こえた瞬間、ドンっと言う今まで聞いた事も無いような大きな音が響き渡り、筒から黒くて大きな鉛玉が放出された。

その鉛玉はオーシャンの船に直撃し、大きな穴をあける。


「な、なんだあれ……」


その筒からは何発も鉛玉が飛び、オーシャンの2隻の船は一瞬でボロボロになってしまった。

こんな……こんな犠牲を出したのに、なんでライナ達は止めなかったんだ!カーシー達はどうなるんだ!

その時、リインが声を荒げた。


「俺達も行くぞ!全軍突撃だ!」


オーシャンの船全てがバルディナの戦艦に向かって進み出す。どう言う事だ!?

そしてそれに合わせてエデュサも声を出した。


「私らも行くよ!チャンスだ!」

「チャンスって!」

「見てなさいダフネ、オーシャン達の策に彼らはまんまと嵌ったのよ。流石情報屋が率いてる船は相手の行動も何もかもお見通しね」


まさかライナは相手の鉛玉を知ってたのか?何が何だか分からない。

でも2隻のボロボロになった船から、一斉に小型船が数十隻放たれた。その船はバルディナの軍艦の近くまで行き、真下から船に弓を放って行く。まさかあの2隻は囮だったのか!?

再び鉛玉を打とうと船は動こうとしたが、2隻の船が邪魔でリイン達の船に鉛玉を放てない。その間にもリイン達は船に接近していく。

筒がついた船を守る様に、2隻の軍艦が行く手を阻む。そしてリインは声を出した。


「行くぞおめぇら!奴らの首を食いちぎるぞ!全員皆殺しにしてやれ!」


オーシャン人達がリインの声に掛け声を上げて、弓を捨て、腰の剣を取り出す。船は止まらず進み続け、バルディナの艦隊とぶつかり合う。そしてその接触した部分からオーシャンの兵たちが一気に軍艦になだれ込んだ。

完全な白兵戦だ。オーシャン達に対抗するかのようにザイナスを後ろに下げ、代わりにバルディナの兵たちが剣を持ち、オーシャン達との殺し合いに発展する。


「さぁ私達は援護射撃を続けるよ!あの鉛玉の動きを封じる為に、あの船を徹底的に狙うんだ!」


オーシャンの弓と銃も再び打ち合いを再開する。

そして軍艦に乗り込んだオーシャンが船からロープをたらし、小型船に乗っていた奴らが一斉にロープに群がり軍艦に登っていく。勿論向こうも銃で応戦してるけど、乗り込まれてあんなに揉みくちゃになったら味方に当たるかもしれない事から躊躇してる。

でもこっちからしたら筒の付いた軍艦を狙うんだ。そんなの関係ない。

これがオーシャンの策だったんだな。艦隊2つをオーシャンは攻め落とそうとしてる。バルディナの艦隊はかなり頑丈そうだ。乗っ取れば、かなりの武器になるだろう。


「兄さんどうする?蛮族のくせに中々やるわね」

「……あくまでもこの戦は砲台の試作品の威力を試すだけだ。だが船が丸ごと彼らの手に堕ちるのは忍びないな……砲台を準備しろ。オーシャン人もろとも船を沈める」

「は、はい!」

「いいの?」

「犠牲は最小限だ。サインを出せ、逃げるサインを出した10分後に大砲を打ちこむ」

「できるだけ大勢が逃げてくれればいいけど……」


なんだ?艦隊が動きだしたぞ……

今まで全く動かなかった筒の付いた艦隊が動きだした。そしてその先には白兵戦を繰り広げているバルディナの艦隊。

まさか……沈める気なのか!?


「ライナ逃げろぉ!!」


俺の声と共に鉛玉がバルディナの艦隊に発射された。それは見事に命中し、船はどんどんボロボロになっていく。

悲鳴が聞こえ、艦隊が沈んでいく。

オーシャン達が慌てて自分の船に戻っているが、砲撃を喰らい海に落ちた姿も確認できた。俺達があっけに取られている間に、残りのバルディナの戦艦は軌道修正を行い、逃げていく。追いかけてやりたいところだが、オーシャン達を助けるのが先だ。


「エデュサ!」

「あぁ、小型船を出せ!救助に向かうぞ!」


あれがバルディナの戦い方なのか?無差別に殺すのが……これに騎士の誇りなんて感じない。ただの非道な残虐行為だ!殺してしまった兵の事を考えないのか?その人に大切な人がいるって事も!ふざけてる!!

海に出された小型船に乗り込んでオールを漕ぐ。オーシャンの船も小型船で救助に向かっており、それに合流する。

現場に近づけば近づくほど、浮いている死体を見つけ吐き気がした。



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