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神様の椅子  作者: *amin*
三章
34/64

34 オーシャンへの出航

「ジャネス、第1部隊を集めて第5ゲートに向かってちょうだい。オーシャンに出向するわよ」

「エデュサ様、それは!」

「バルディナがオーシャンに侵略を始めたという情報が入った。牽制のために第5騎士団が派遣されたのよ」



34 オーシャンへの出航



騒がしい広場を抜けて、人がいない地下への階段を下りる。その間、エデュサの間に会話はなかった。

そして地下室の中にある扉を目の前にし、エデュサが鍵を開けて中に入った先には、いくつもの軍艦が並んでいた。大きい物と小さい物様々だ。これの小さい奴を使うんだろうけど、それでも中々のでかさだ。

あの騒ぎはどうなったんだろう。あれはしばらく収まらないだろう。

エデュサが船に乗り込み、俺も後をついて船に乗り込む。また暫く船内生活か。でもこれは軍艦だから普通の船よりもスピードは出るはずだ。そんなに時間はかからないだろう。

そして第5騎士団の連中も集まり、大量の物資やらなんやらを船に積んでいく。

そして全員が甲板に出たのを確認してエデュサが先頭に立った。


「聞け、第5騎士団の猛者達!バルディナがオーシャンに侵攻したとの連絡があった!オーシャンは我らの盟友になる相手かもしれん。我ら第5騎士団は直ちにオーシャンの援護に向かうぞ!」

「しかし団長、この人数じゃバルディナには……」

「今回はあくまで牽制、向こうも本気で今はオーシャンを潰す気はないでしょう」

「この状況で出るのは危険なのでは?今ファライアンは内紛寸前ですよ!?」

「だが我らには同盟国が必要だ。パルチナがバルディナに付いた今、一刻も早く我らも対応を求められる。ローレンツが手引きしてくれている、心配はいらない。フィッシャー湾から出るぞ。舵をきれ!」


エデュサのかけ声に兵たちが慌ただしく走り出す。何もすることの無い俺はその光景を眺めているしかなかったけど。

ゲートが開き、外の光が薄暗い室内に流れ込んでくる。

待ってろよライナッ!


オーシャンに向かって船が走り出す。出だしだけどかなりの速度が出ている。

この速度だったら、結構早くオーシャンの領海に入れそうだ。俺はドリンに命令した。


「ドリン、ライナに伝えてくれ。オーシャンの第5騎士団が援軍として派遣されたってな」


ドリンを空に放てば、オーシャンの方向にまっすぐ飛んで行った。大丈夫かな……

俺は部下にあれこれ指揮を出して、状況を観察しているエデュサに声をかけた。


「何日くらいで着くんだ?」

「出せるスピードを出してる。早くて3日、遅くて4日」


すげぇな……オーシャンからビアナまで行くのに4日かかったのに、たった3日でファライアンからオーシャンに向かえるのか。

アルトラントのシースクエアからオーシャンまで船で確か3、4日かかるはずだ。軍艦となるともう少し早いから、まさか2日で着くとかはないよな。それだけは考えたくない。

だとしたら手遅れになってしまうから。

エデュサに部屋で休んどけと言われて、特にやる事の無い俺は言われるがまま部屋に向かって横になった。


次の日からは俺も色々下働きだけど船の動かし方を手伝うようになった。

第5騎士団の中にも友達っつーか話をするような奴も出来たし、急いでなきゃ結構楽しい空間なんだけどな。

3日後、オーシャンの代表的な島オルハ島を双眼鏡で確認した兵がエデュサに告げる。

まだバルディナの艦隊は見つかってないようだ。準備に少し時間がかかったのかもしれないな。

そしてオルハ島には十数隻の小型船と3隻の大型船が見える。あれは多分オーシャンの船だろう。向こうはバリバリ戦う気みたいだ。流石戦闘民族なだけはある。

俺達の船を向こうも見つけたのかラボッサを吹いて威嚇してきたが、その音もすぐに止んだ。


「どうやら味方だと判断してくれたようね」

「向こうには知り合いがいるんだ。そいつは俺がファライアンにいる事を知ってるから」

「あぁ、あの変な鳥の飼い主ってわけね」


領海内に入り船に近づいて行く俺達にライナが甲板に出てきた。

その姿を確認した俺は慌てて甲板の先頭に駆け寄った。良かった、怪我とか何もしてないな。


「ライナ、助けに来たぞ!無事か!?」

「おーダフネ助かるよ!まだ戦は始まってないよ!」


ライナは手を振った後に1人の青年を甲板に連れてきた。面倒そうに煙草をふかしながらも、その青年は真っ直ぐ俺を見据えた。

誰だこいつ……髪の色からオーシャン人だろうけど……

近づいた船に移動用の板が賭けられる。代表として俺とエデュサがオーシャンの船に移動した。

待っていたのはライナと青年とカーシーだった。

前に出たエデュサに対応したのはライナが連れていた青年だ。もしかしてこいつがリーダーなのかもしれないな。


「蒼き慈悲の国ファライアン、此度は我が国の窮地に賭けつけていただき感謝の意を示す」

「バルディナの暴虐をこれ以上許す訳にはいかない。我らも少ない人数で申し訳ない」


エデュサが頭を下げれば、青年は煙草を潰し頭を下げた。


「ライナ、あいつ誰だ?」

「あいつはリイン、オーシャン民族なら誰もが知ってる英雄の直属の子孫だよ。オーシャンの総大将を務める。本人も戦争の知識、世界を見る目、全てに長けている。まぁ幼馴染のあたしからしたら、そんな出来た奴じゃないけどね」

「悪口言うなよお前……」


なるほど、じゃあやっぱあいつがリーダーって訳だ。オーシャン人特有の赤紫色の髪に細身だが筋肉がしっかり付いている肉体。確かに身体は鍛えてそうだなぁ……

でもそれと同時に1つの疑問。


「あいつ、俺達がオーシャンに行った時の部族会議には姿を出さなかったけど……戦争の大将を務めるぐらいなんだから参加するのが普通じゃないか?」

「仕方ないさ、あいつはオーシャンを捨てて国を出て行った。戻ってきたのは1カ月前だ」


国を捨てた奴を大将にするなんて……議論が起こらなかったのか?普通だったら英雄の子孫なんて、皆が希望を抱く役割じゃないか。それなのにその責任を全て捨てて世界に飛び出した奴が今更戻ってきても、皆信用しないんじゃないか?


「それでいいのか?反対する奴いなかったのか?」

「勿論大問題さ。でもさ、世界に出てたあいつの先見の目はオーシャン一だったし、国を守りたい気持ち一つでオーシャンに戻ってきた。拒む理由も無かったし、バルディナとの戦争を指揮できるのはあいつしか居ないって結論になったんだよ」

「そっか、ならいいんだけど」


ライナのリインを見る目は優しくて穏やかだ。あれ、もしかしてこいつリインって奴のこと……


「ライナはあいつの事が好きなのか?」

「ただの幼馴染だよ。まぁ確かにあいつが国を出て行く際、一緒に行こうって誘われたけどね。それにあたしがあいつに取られたら、あんたが悲しむじゃないか」

「な、なんでそうなるんだよ!?」


断じて違うぞ!

それなのにライナがそんな事言うから顔が真っ赤になってしまって説得力が無い。まるで本当に俺がライナの事好きみたいじゃないか!絶対違う、違う違う違うぞ!

ライナはこの反応にゲラゲラ大笑いした後に言葉を零した。


「まぁあんたは本当の所、セラって子が好きなんだろ?」

「セラはただの仕事仲間だ!確かにいい奴だけど!」

「はいはい」


俺たちが馬鹿みたいに騒いでいる間にエデュサとリインは淡々と話を進めていく。

俺たちもいつの間にか、その話を盗み聞きするように聞き入る。


「リイン殿、早速で悪いが状況を説明していただけないか?私達は詳しい事情を知らないんだ」

「あぁそうだな、数週間前にバルディナから書簡が届いた。バルディナと協力し世界調停を目指そう、と。礼としてアルトラントの一部を植民地として明け渡すってな」

「なんだって!?」


うっかり話に割り込んだ俺をライナが首根っこ捕えて隅に引きずっていく。

なんだかこの無言の突っ込みも懐かしい様な。こいつ女の癖にガチで力強いよな……俺の茶々のせいで少しだけ空気が凍ったが、リインは気にせずに続きを話した。


「俺達は否と回答した。すると向こうから今度は脅しの書簡が来た。協力を惜しまなければ武力で解決する、と。そして今の状態だ」

「信じられないな……どう言うつもりだ」

「パルチナと同盟組んだバルディナに対抗できる国はないからな。向こうも勢いを失いたくないんだろう。真っ向から対立できるのはあんた達ファライアンくらいのもんさ」


エデュサが顔をひきつらせた。そりゃそうだろう。今ファライアンは戦える状況じゃないんだ。クーデター一歩手前の危うい状況なんだ。

エデュサの反応を見逃さなかった目ざといライナが俺に耳打ちしてくる。


「ファライアンは何かあったのかい?そう言えば女王はどうなったんだい?」

「……最悪だよ。ファライアンは今崩壊寸前だ。騎士団と議会が対立して議員に数名の死者が出てる」

「なっ……それは騎士団がやったのかい?」

「そうだな、処刑したのは騎士団だ。詳しい事は後で話すよ」

「そうだね、あたしも詳しく聞きたいからね」


今はこっちに集中しなきゃいけないよな。話をしているリインとエデュサを俺とライナは見つめる。

2人は何か難しい顔をして話をしている。そう言えば正式にオーシャンはファライアンについてくれたのかな。


「ライナ、オーシャンはそう言えばどうなったんだ」

「まぁ今回のファライアンの対応は合格だ」

「はぁ?」

「前にも言ったね。オーシャンは捨て駒にされたって。皆その恐怖が根付いちまってね……今回バルディナ侵略の際にファライアンが援軍で来てくれなかったら同盟はしないって話になったんだ。まぁ来てくれなくてもオーシャンだけで戦うつもりだったけどねぇ」


なんじゃそりゃ、俺達はテストされてたって訳か。でも良かった。俺達がここに来たからオーシャンは裏切られないって思って同盟を結んでくれるはずだ。その時ラボッサが大きな音を出し、全員が海の先に視線を向ける。

そこには数隻の軍艦が向かっていた。大きさからしてファライアンの軍艦の2倍近くありそうだ。

それが5隻も向かって来てるのだ。遂にバルディナが来やがったな。これで多分海軍の1部って言うんだからタチが悪い。どんだけ軍備を増強してやがんだよ、あの国は……


―――――――――――――――――――――――――――――――

軍艦の甲板から髪を結った少女が出た。

バルディナの赤い軍服に身を包み、腰には剣が添えられている。


「さぁ私達の初舞台よ!パパに怒られないようにしなくちゃ!」

「はしゃぎすぎるなよ。仮にも戦争だ」

「イヅナ兄さんはお固いわね。私早く大砲って奴を試してみたいの!10年かけてやっとザイナスの技術提供の元に作られた試作品1号よ。弓のどれだけの破壊力があるか、見物じゃない」

「ふぅ、この1隻の軍艦の試作をする為だけにオーシャンに戦争だなんて……皇帝は何を考えておられるのやら……」


ため息をついたのは同じくバルディナの軍服を身に纏った青年。


「でも私達が上手くしなきゃパパの立場が危うくなるわ」

「分かってる、父上に恥をかかすつもりもない」

「……あれってファライアンの軍艦?随分小さいけど……どういうつもり?ファライアンは私達と戦争するつもりなの?」

「ファライアンは俺達バルディナからの挑戦を受けるつもりなんだろう。まぁ対抗勢力はファライアンしかない、当然と言えば当然か」

「遂に始まるわ。世界大戦が……」



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