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神様の椅子  作者: *amin*
三章
32/64

32 騎士団対評議会

「なんだ、この状況は……」


やっと2週間の長旅の末にファライアンに戻ってきたと思ったのも束の間、ファライアンは喧騒の渦だった。

その内容を聞いた俺とランドルフは正直、驚きを隠せなかった。



32 騎士団対評議会



「ランドルフ、処刑って……」


レオンと別れた俺とランドルフは走って城に向かう。けど途中でランドルフを見つけた市民達にもみくちゃにされてなかなか進まない。

街に配備されている騎士達が先に進ませてくれて、何とか少しずつだけど前に進む。

市民から聞こえて来るのは議員を処刑したのは真実か、議員は本当に裏切っていたのか、中には処刑した事に対して良くやったという声も聞こえ、正反対の国を牛耳るなと言う声も聞こえて来る。

その喧騒を拾いながら見えているのに中々辿り着かない城に舌打ちをした。

ルーシェルは大丈夫なんだろうか。


「ランドルフ!」

「メリッサ!」


やっとこさ城の門をくぐりぬけた先には赤毛に女が待っていた。どうやら俺達が帰ってくるのをずっとここで待ってたらしい。

駆け寄ったランドルフにメリッサは慌てて口を動かした。


「今回の件、もう聞いた?」

「あぁ、評議会の奴が女王をって……」

「それで処刑はしたんだけど、裏切ったのがリューツ議員だったから、リューツ議員を慕っている議員達が皆ボイコットして、市民に訴え出したんだよ。騎士団が国を乗っ取ろうとしてるって。それに対抗して騎士団も市民にリューツ議員が出した文書を公開するって言いだして……ジェレミー達が止めてるんだけど」


俺達がいない間にとんでもない事になったな。メリッサと言う女は青ざめた表情をしている。

ランドルフがそれをあやして、何とか平静を装うとしているようだ。


「貴方ダフネさんよね、早く行きましょう。王子様は女王の部屋にいる。王子様も狙われてるから、王子様も箱庭から出られないの」

「マジかよ!」

「話はそこで詳しくするから、行きましょう」


メリッサの後をついて、俺は走り出す。ランドルフはジェレミーに報告するから、お前は先に行けって言ってくれたからお言葉に甘えよう。

ルーシェルは大丈夫なんだろうか。メリッサが言わないから怪我とかはしてないんだろうけど……こんな状態でゲーティアを探せるのか?探せる訳がない。

ファライアンはクーデター寸前だ。議員の情報操作で市民が怒りの声を上げるかもしれない。

どっちが正しいんだ?評議会と騎士団、どっちが……

城内は正直言って最悪と言っていいだろう。騎士団と評議委員がにらみ合っている。評議委員たちは自分達が普段使用している東の塔から出て来ないし、騎士団も東の塔に一切近寄らない。

城の内部にいる議員と騎士団はいがみ合っている。


「くそっ……女王の名を借りた反逆者達め。騎士団が女王を既に殺しているのではないのか?」

「評議委員は国を売る売国奴だ。全て一掃できればいいのに、なぜジェレミー様は許可しない」


それぞれ嫌味の応酬だ。こんなんじゃ国として機能する訳がない。

バルディナとパルチナの脅威は目前に迫っている。それなのにどうしてこんなにいがみ合ってるって言うんだ。

こんなんで戦争が起こった時、勝てると思ってるのか?ただでさえ軍事力でも不利なのに、統率がとれていないとなると致命的だ。メリッサもやっぱり言い合いが気になるのか、チラチラ色んな方に視線を回している。

そして俺達は人通りの少ない北の離宮に足を運ばせた。この先に女王がいるのか。北の離宮の先には騎士たちが待機している。

メリッサは顔パスなんだろう、その先に進んでいった。


「メリッサさん?」

「声を出さないで。どこに人がいるか分からないの」


メリッサは小さな声で返事をして首に賭けているペンダントを手に取った。

それを離宮の門に埋め込んだ途端、景色が歪んでいく。


「これ……」

「入って」


言われたままに入った先には色んな花が咲き乱れている。メリッサが入った後にはさっきの空間の歪みが無くなっていて、後ろには門しか見えない。

これは一体どういう事だ?


「これはオルヴァーが作った魔術障壁。まぁカモフラージュよ」

「すげぇな……エデンの技術か」

「こんなすごい力があるから羨む人達に迫害されてしまったんだけどね」


花が咲き乱れる場所に1軒の家がある。余り大きいとは言えない。まさかこんな場所に女王がいるのか?

でも家の前に立っていたルーシェルを見て、そんな考えはどこかに吹き飛んでしまった。


「ルーシェル!」

「あ、ダフネ!」


俺に気づいたルーシェルが走り出す。こんな所に閉じ込められてたのか。

ルーシェルを力いっぱい抱きしめたら、ルーシェルは緊張の糸が溶けたのか、グスグス泣き出した。それをあやしながらメリッサに案内されるまま家の中に案内される。

室内はミッシェルが好きそうなぬいぐるみや可愛らしい小物で満たされている。廊下の先には1つの部屋。

その中に金髪の華奢な女性がソファに腰かけていた。その人が俺達に視線を向ける。


「ルーシェル君?メリッサ?」

「イヴさん、この人がね、俺の御世話係のダフネなんだよ!」

「イヴ?」

「ちょっとダフネさん、イヴは女王なんだから初対面で呼び捨てはどうなの?」


女王なのか!?いや、そんな事言われても俺知らなかったし!

ワタワタしている俺の声が聞こえたのか、オルヴァーが顔を出してくる。

オルヴァーに助けを求めれば、とりあえずソファに座る様に言われたので、ルーシェルを膝に乗せて、俺は失礼しますとだけ呟いて腰かけた。


「ダフネ、まぁお前ももう分かってるだろうけど、この御方がファライアンの女王イヴ様だ」

「じょ、女王陛下」

「止めて、そんな大層な事はしてないの。イヴでいいからね。貴方の事はダフネさん?ダフネ君?」

「あ、どちらでも……」

「じゃあダフネ君て呼ぶね」


今更だけど、女王は本当にいたんだな。可愛らしく笑っているイヴさんが青の国宝石の継承者だなんて信じられない。

そしてこの箱庭の存在も。ジェレミーやオルヴァー達が必死でイヴさん達を隠し続ける理由も。

とりあえず今俺が知りたいのは、なぜここまでファライアンの内部がごたごたになっているかだ。ファライアンが最後の頼みの俺達にとって、今の状態は望ましくない。


「オルヴァー、聞きたい事が……」

「わかってる。それには答えるから俺の質問を先に聞いていいか?ヴァシュタンとはどうなった?」


オルヴァーはイヴさんに一瞬視線を向けて、俺の質問には答えなかった。言いたくないことでもあるのか?

とりあえずオルヴァーに質問された事を先に答える事にした。


「大丈夫だ、協力を取り付ける事に成功はした。パルチナの海軍はすべて引き受けてくれるって。でもバルディナの海軍まで出てきたら勝ち目がないから、ヴァシュタンはビアナにも協力要請するべきだって言ってたけど……」

「ビアナは無理だろ。あそこは中立だからこそ今までどこの支配下にもならなかったんだ。こんな泥沼の戦に参加する訳がない。バルディナの艦隊はファライアンから海軍を派遣するしかないな。痛手だがな……まぁオーシャンが手を貸してくれたらオーシャンにも一部負担してもらうだろうが」

「だよな……」


やっぱりファライアンから海軍を派遣するしかないのか。ただでさえ人数的にも不利なのに、海兵に駒割ってらんねぇよ。ファライアンに来てからもう3カ月程度が経過する。その間アルトラントでは着々と奴隷政策が進んでるんだろうな。

俺の返答に満足したらしい、オルヴァーの質問は終わった。次は俺の番だ。


「オルヴァー」

「ん?あぁ、そうだな。こっちに来い」


オルヴァーに言われたまま、俺はルーシェルを置いて部屋を出る。どうして出る必要があるんだ?

首をかしげた俺にオルヴァーは振り返った。


「女王の耳に入る情報は出来るだけ少なくしたい。御自身のストレスになるからな」

「それって……」

「評議会の中でも若手議員の筆頭格リューツ議員、そのリューツ議員が女王を国宝石と共にバルディナに売り渡して戦争回避させようとしていたのが分かった」

「どうやって……」

「リューツ議員と友好関係にある若手議員に送った密書が発見されたんだ。リューツ議員はお前が戻ってくる前に処刑された。勿論リューツ議員に密書を送っていた奴もだ」


そんな事が……確かにこれは反逆行為だ。でもどうして急に。

まだバルディナと繋がっていた訳じゃない。反逆罪で処罰はあっていいだろうけど、処刑はやりすぎる。

これじゃ議員が反発しても仕方がない。


「ジェレミーは処刑は反対だったんだけどな、他の騎士団達の声に押されたのが大きい。騎士団と議会の確執はここまで大きくなってたんだよ。いや、いつまでも武力行使に出ない議会に俺達騎士団が嫌気をさしたのが正しい。バルディナの奴隷政策を知っているはずなのに、向こうに譲歩して歩み寄ろうとする姿勢にな、俺達騎士団はそれでは何のための存在だ?そう言う事になる。そして今回の密書の発見、決定的だった。俺達騎士団の怒りはピークに達しているんだ」


気持ちは分かるんだ。処刑だって納得が行くかもしれない、国を売ろうとしてたんだから。

だけど処分をしたんだ、今みたいに議会と騎士団がこんなに争う必要なんてないのに。議会だって自分たちの間に反逆行為をする奴が出たんだ、あんなに怒る立場でもない。騎士団だって議会の全てが悪い訳じゃないんだ、全てを駆逐するみたいな言い方は可笑しいと思う。

納得がいかない顔をしてたんだろう俺にオルヴァーが冷えた視線を送る。


「ダフネ、ファライアンはバルディナから招待状が届いている。アルトラントの国王と后の公開処刑を特等席で見れるとな」

「なっ!」

「ここまで馬鹿にされたのは初めてだ。だが議会はなんて言ったと思う?ここで直接イマニュエル・ネイサンに交渉しようと言ったんだ。つまりお前の国の国王と后の処刑現場を見に行く気でいたんだよ」


なんで……ファライアンは、俺達を助けてくれる気はなかったのか?戦争をしたくないのは分かってる。でも、こんなのただの犬じゃないか!

国王と后の処刑を見に行くなんて……どうしてそんな最低な事をっ!


「議員達は俺達騎士団の存在価値を奪おうとしている。何のための騎士団だ?俺達騎士団は議会の言いつけを守る為じゃない、国と女王に忠誠を誓っている。奴らの考えは俺達と違いすぎる」

「まさかオルヴァー、お前……」


嫌な予感に冷や汗が出た。

オルヴァーの目に狂気が移っているような感覚が前進に走る。処刑って事は人を殺しているんだ。それなのにオルヴァーは納得していない。もっと血を欲しているように感じた。


「あぁそうだ、リューツ議員を直接ギロチンで処刑したのは俺と第4騎士団団長グレインだ。俺はあいつが許せない。いや、議会自体もうファライアンには必要ない。俺達騎士団だけでファライアンは守って見せる」

「駄目だオルヴァー、それじゃ独裁者になっちまう!民主主義に反するぞ!」

「奴らのどこに民意がある!?お前は分かるだろう?バルディナに占拠された場所がどうなったか!自分達さえ良ければ自国の民衆を奴隷に貶めても平気なのか!?」


何も言い返せない。今のアルトラントのことを考えたらファライアンの国民を奴隷にしたいなんて思う奴がいるわけない。でもリューツ議員が戦争と引き換えに女王と国宝石を売ろうとした。

そしてそれが引き金となって最悪の方向に事態が進んでいく。

騎士団が少しずつ、少しずつ暴走をし始めたのだ。その原因を作ったのは議会だけど、騎士団の今の行動は暴挙とも取れるものだった。


「議会は信用できない。奴らは傭兵や密偵を雇って女王陛下の場所を嗅ぎまわってる。ルーシェル王子だって恐らくその対象だ。バルディナに引き渡すのに格好の餌だからな!」

「そんな……」


どうしてこんな事になったんだ……こんなんじゃ戦争も何もできる状態じゃない。

負けてしまう、何もかもがなくなってしまう。全てを1つにまとめなければ、この状況を打破しなければ……

それと同時に浮かんできたのは1つの言葉。


“赤の国宝石は民衆を導く大いなる希望の光”


それだ、赤の国宝石……それを手に入れれば。いや、ゲーティアを手に入れればいいんだ。英雄を作るんだ。やっぱりダレンに会わなきゃいけない。赤の国宝石を……過去の大戦の英雄を。なんとしてでも東天に行かなきゃいけないんだ。


「ちょっとオルヴァー、なんなのこの鳥」


その時、扉を開けて1人の女性が入ってきた。腰に剣を携えている事から騎士団の人間なんだろう。

その女が手に捕まえているのはカラフルな緑色の鳥。


「ドリン!」

「ダフネ、ダフネ!テーヘンダ!」


ドリンは俺を見つけてバサバサと羽をばたつかせて暴れ出す。それに苛立った女が半ば捨てるように投げればドリンは俺の腕にとまった。

まさかライナに何かあったのか?じゃなきゃドリンがライナから離れるはずがない。


「どうしたドリン」

「テーヘンダ、テーヘンダ!バルディナ攻メテキタ!オーシャン、文書、キタ!」

「どう言う事だよ!」

「オーシャン、バルディナ、支配下ニナラナケレバ武力行使!文書来タ!」

「マジかよ……」


バルディナの手はオーシャンに伸びていたんだ。アルトラントを完全制圧して、ある程度アルトラント内の騒ぎを鎮圧したら次はオーシャンだと?

奴らは本当に世界を征服する気でいるんだ。オーシャンを狙う目的は知らないが、まぁファライアンと手を組まれる前にって奴だろう。


「俺はジェレミーとローレンツ達に伝えて来る。ここで待ってろ!」


オルヴァーが走って行き、その場に俺と女だけが取り残される。


「オーシャンねぇ……残念だけど無理でしょうね。今のファライアンは到底兵が出せる状況じゃない」

「そこをなんとかできないのか?」

「あんた誰か知らないけど、騒ぎは知ってるでしょ?議会が承諾するはずがない。騎士団が単独で行動したら手薄の城を奴らに制圧されるわ。オーシャンには悪いけど、潰れてもらうしかないわよね……」

「そんな……」


駄目だ、諦めたら絶対に駄目だ。

俺はライナを助けなきゃいけない。ライナが俺を助けてくれたように、俺がライナを!



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