31 初めてのお友達
「ダフネ君、ちょっといいかしら」
「クラーリアさん、どうかしましたか?」
「少し話が……」
寝る前にクラーリアさんに呼び出されて部屋を出る。
ランドルフが一応警戒しておけよって言うもんだから短剣を持って部屋を出た。
31 初めてのお友達
外にいたのはクラーリアさんとエルネスティさんだった。この2人は俺に何の話があるんだろうか。
エルネスティさんが部屋を移ろうと言ってきて、その後を小走りで追いかけた。
そして少し広い部屋に通されてソファに座らされた。クラーリアさんがホットミルクを持って来てくれて、頭を下げてそれを飲んだ。
エルネスティさんは少し言いづらそうな顔をしていたが、意を決したのか口を動かしす。
「ダフネ、君は知っているか?―――を」
―ルーシェルside――――-
あの後、結局ジェレミーさん達は戻ってこなかった。俺はメリッサさんに途中まで送ってもらう間、なんだかお城の中が騒がしかったから眉を顰めた。
メリッサさんにお部屋の前まで送ってもらって別れたけど、ダフネがいないからやる事が無い。仕方ないからお城の中を探検しよう。
部屋には入らず、そのまま真っ直ぐ走り出した。
綺麗な花が咲き誇るお庭には沢山のお花が咲いている。いいなぁ、綺麗だな。でもアルトラントのお花もすごく綺麗だったなぁ。
庭師の人達が綺麗にしてるんだよね。俺はお話しした事ないけど、ダフネは庭師の人と仲がいいって聞いた。ダフネと歳が近いんだって。庭の中はのんびり休憩する人や、ベンチに座って本を読む人、様々だ。
俺もどこかに座れないか首を動かしていると、1人の男の子が座っているベンチを発見した。まだ空きはある。それに仲良くなるチャンスかもしれない。
俺、お友達いないから、お友達欲しいなぁ。
少し気恥しいけど、意を決して彼に話しかける事にした。
「あ、あの……隣に座ってもいいですか?」
少し上ずってしまった声に男の子はびっくりしてたけど、すぐに優しそうに笑い返してくれた。
「いいよ」
「あ、ありがとう」
俺の為に少しずれてくれてスペースが空く。そのスペースにお尻をつけた。
男の子をチラチラ見てみると、男の子は何をする訳でもなく、ただお花を見ている。好きなのかなぁ?
「お花、好きなの?」
「好きだよ。可愛いよね」
そう言ってにっこり笑い返してくれた。うわーうわー!今ちゃんとお話できてるよね?
いつの間にか顔が赤くなってたみたい、男の子が心配そうに大丈夫?って聞いて来てくれた。とっても優しい子だなぁ。この子とお友達になりたい!
勇気を振り絞って名前を聞いてみる事にした。
「あの、俺ね、ルーって言うんだ!君のお名前は?」
「俺?俺はライ。君の事はルーって呼んでいいの?俺の事はライでいいよ」
「う、うん!嬉しいな、年が近いお友達ってあんまりいないんだ。よろしくね」
「こちらこそ。パパの仕事の都合で来たから、長い間はここにいれないけど、よろしくね」
「お父さんと来てるの?」
「ううん、パパの仕事をしてる代理の人と一緒に来てるんだ。俺はする事ないから何もしてないんだけどね」
「じゃあ君はどこの人なの?ファライアンの人?」
「そうだよ。俺はファライアンの南西の町、バーカー地方の村から来たんだ」
ファライアンは首都のファーディナンドしか来た事ないけど、他の場所も行ってみたいな。
俺、アルトラントでもダフネに連れられるまで城から出た事無かったから、シースクエアもダフネのお家も知らなかった。
そう考えてパパとママの顔が浮かんで泣きそうになった。ダフネのパパとママも捕まったって言ってた。
俺を助けてくれたから捕まっちゃったんだ。
「どうしたの?俺何か悪い事言った?」
「え?ううん!全然だよ!君はいつもここにいるの?」
「そうだよ。ここ綺麗だからね。俺、こんな沢山のお花に囲まれる機会が無かったから嬉しくて」
「そうなんだ」
その後もちょこちょこと話をした。すっごく盛り上がる訳でもなかったけど、居心地が良くてのんびりできた。
ライは不思議な子だなぁ。なんだかすごく落ち着くんだ。ライはお話し上手なのかな?
気づいたら外は真っ赤な夕日に照らされていた。もう帰らなくちゃいけないのかな?まだもう少しお話ししたかったのに。
ライも家に帰るって言ってたから俺も帰らなくちゃいけない。
「じゃあねルー、また会えるといいね」
「うん!俺、明日もここに来るね!」
「じゃあ俺もここにいる」
ライがそう言って走って行った先にはおじさんの姿があった。多分あの人がパパの代理の人なんだろう。
ライはその人と手を繋いで帰って行った。
早くダフネ帰ってきて~!話したい事沢山あるよ!
次の日も昨日と同じ位の時間に向かったらライはちゃんとベンチに座っていた。手を振ると気づいて手を振り返してくれた。嬉しいなぁ、ちゃんと覚えてもらえてる。
その日から、しばらく毎日この場所に通い、ライとお話をした。メリッサさんとイヴさんから何か言い事あった?って聞かれて友達が出来たって言ったらイヴさんが少し羨ましそうにしてたから、後悔した。
俺はこうやって好きに外に出てるけど、イヴさんは出れないから言っちゃ駄目だった。でもイヴさんは笑って、今度連れて来てねって言ってくれた。イヴさんは優しい人だ。
「ライ!」
「遅いよルー」
いつもの場所に向かうと、暇そうに足をプラプラしてたライの顔が華やぐ。
1週間の間にライとすっごく仲良くなった。もっと仲良くなったらライをメリッサさんの双子の弟のネルンとヨルンに紹介するんだ。
今日も食べたご飯の話とか、起きた時間とか一杯お話しした。でも今日は違った。
「ねぇルーってもしかして王子様?」
「え?」
「おじさんが言ってた。ルーはアルトラントの王子様にそっくりだって。本当なの?」
ばれちゃった。確かにここでこんな好き勝手に出たり入ったりしてたら、顔がばれてもおかしくないだろう。どうしよう、誤魔化した方がいいのかな。でもライなら大丈夫だよね。俺を受け入れてくれるよね……
意を決してライに自分が王子だと言う事を伝えた。ライはかなり驚いていた。
「ビックリした。本当なんだ」
「う、うん……」
「ルー、辛くない?ここで意地悪されてない?」
「されてないよ!俺、ちゃんとアルトラントに帰るつもりだから」
「帰る?でもバルディナにアルトラントは占領されてるでしょ?」
「そうだけど……でも頑張れば帰れるんだよ」
ライは少しだけ笑って、そうなるといいねって言ってくれた。信じてはいないみたいだけど、絶対取り戻してやるんだからね。
ゲーティアさえあれば、それが叶うのに……
その時、広場がざわめきだした。何かが始まるのかな?皆お庭からいなくなっちゃったけど……
「どうしたんだろう」
「処刑じゃない?評議委員の1人が売国行為をしたっておじさん言ってたよ。公開処刑なのかもね」
「処刑!?」
背筋が凍る。なんで処刑しなきゃいけないの?売国行為って何?一体何があったの?
ライはちゃんと知ってるのに、俺は何も知らない。
「議員の1人が女王をバルディナに売ろうとしてたらしいよ。国宝石と一緒に。バルディナはゲーティアを探そうとしてるみたいだし、バルディナに渡ったら危険だよね」
「イヴさんを!?」
うっかり女王様の名前を口にしてしまって、慌てて口を閉じる。ライは少し驚いた顔をしてたけど、何食わぬ顔に戻して、気をつけなよねって言ってくれた。良かった。ライは俺の気持ちを汲んで突っ込む事はしなかった。ありがとう。
「ねぇルー、ファライアンはゲーティアを探す気なの?そんな噂流れてるけど」
「え?噂?俺聞いた事ない」
「そりゃルーは知らないだろうね。議員の処刑も知らない位だもの」
「そんな……」
「国宝石にゲーティアの在り処が示されてるって聞くからね、戦争になったら嫌だなぁ」
ライはそう呟いて足元に視線を下げる。そのまま会話がなくなってしまった時、ローレンツさんが俺達を見つけて近寄ってきた。表情は硬い。
ローレンツさんは俺にギリギリ聞こえるような小さい声を発した。
「ルーシェル王子、丁度よかった。これから暫く女王の部屋に行ってもらえますか。女王の部屋から出ないでいただきたい」
「ローレンツさん?」
「……議員の1人をこれから処刑する。彼らのスパイが城内に紛れこんでいる可能性が高い。女王の所なら安心ですから」
「う、うん」
ローレンツさんはライをちらりと見て、手を引いた。
「あ、ライ!俺行かなきゃ」
「そっか。明日は会える?」
「王子、駄目です」
「……ごめんね、明日は無理みたい」
「俺明日帰るから残念だな。またなルー、また遊び行くよ」
「え、え?」
ライはそのまま走り去ってしまった。そんな……こんな別れ方ってないよ。折角出来たお友達なのに。
ローレンツさんに文句をつけてやろうと思ったけど、余りにも硬いローレンツさんの表情に何も言う事が出来なかった。
「王子、何も信じないでください。女王の間から出ないで、女王と共にいてください。火の粉は恐らく貴方にも降りかかる」
「……」
「議員の1人が女王を売ろうとしている。そして貴方も狙われているでしょう。貴方の護衛に騎士団の団長をローテーションで24時間つけます。絶対に彼らから離れない事」
「ローレンツさん?」
「……ファライアンは崩壊手前なのです。ここを凌がなければ、ファライアンは内部から崩壊する」
ファライアンが崩壊してしまったら俺達に行くあてはない。ライナお姉ちゃんが折角オーシャンに協力させるって戻っていって、ファライアンの協力するってなった時、ファライアンが無くなってたらどうしようもない。
バルディナに対抗できる国はなくなる。パパとママ達を助けられない。
どうしよう。どうしよう。
「ローレンツさん、ダフネは?」
「まだ連絡はありません。恐らく今帰りの船に乗っている所でしょう。後3日は戻ってこないと思ってください。その間はオルヴァーとグレイン、エデュサ、ハーヴェイをつけます。ダフネとランドルフが戻ったらランドルフも護衛につかせます。安心してください」
怖い、この国も安心できない。崩壊が目前に迫ってる。
お城の中では色んな声が聞こえて来る。評議委員が横暴だ、と叫び、騎士団が評議委員を口汚く罵っている。完全に評議会と騎士団は対立してしまった。
こんなんじゃ国は守れないよ。団結しないとバルディナに勝てないよ。
どうしよう、どうしよう……