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神様の椅子  作者: *amin*
一章
3/64

3 クラウシェルとお勉強

「さぁ駒使い!今日も勉強の時間だ!」

「……お前さぁ」


クラウシェルのこの人に物を頼む態度は何とかならんのか。

でも俺も仕事だし、言い返しはしないから何も言わないけど。



3 クラウシェルとお勉強



「むっ!王子の僕にお前だと!?駒使いのくせに生意気な!」

「物を教えてやってんだから今は俺の方が立場上だろ。先生って言えよ先生って」

「貴様言わせておけば!大体貴様駒使いのくせに生意気だぞ!生意気なのは顔だけにしろ!」

「待てっどんな顔が生意気なんだよ!そんな事一度も言われた事ないぞ!」

「それはお前の友が気を遣っていただけだ!お前の眉の形、口角、目つき、全てが物語っている!そういう角度や顔つきの奴は大抵生意気なんだ!」

「データ出せよデータ!それにお前は人の事言えるのか!?」

「だから王子の僕にお前と言うな無礼者!僕が寛大でなければ不敬罪で首が飛んでいたぞ!」


どこが寛大なんだ!この糞ガキが!

クラウシェルがヘロパンチをかましてくるけど、やっぱ勉強ばっかしてるせいか力が全くない。これは今度体力トレーニングをやらせた方がいいな。

最初は自分も戸惑ってたけど、1回敬語を使うのを止めたら意外と向こうは平気だった。今では相手の事を王子、姫とは呼ばない。名前で呼んでいる。

向こうも特別に呼ばせてやる。とか高飛車な事言ってたけど、これは少しは信頼されてるって思っていいんだよな。

クラウシェルが舌打ちをしてテキストを机の上に広げていく。

まぁ俺も一応士官学校を卒業できたんだから、年下のクラウシェルの勉強を今の所は何とか教える事が出来る。

でも知りたがりのクラウシェルに勉強教えるのは正直言ってかなり大変だ。あれはこれは質問してくるからな。

今回広げてきたテキストはどうやら地理の様だ。大陸が描かれてる世界地図をクラウシェルは持ってきた。


「僕は最近世界情勢が気になってるんだ。もうすぐ隣国のバルディナとは友好条約の終結が近付いてるからな」

「詳しいな」

「もちろんだ。父上は聞けば何でも教えてくれるからな」


……それいいのか国王。これは完全な情報漏洩じゃ……現に俺にも広まってるんだし。


「父様が友好条約を新たに結ぼうとしてるみたいだけど、正直僕はバルディナとの友好関係は危険だと思ってる。向かいのファライアンの方がいいと思ってるんだが、あそことはビアナを介してしか交流がないからな」


この王子は幼い癖して優秀だ。国王になったらいい手腕を発揮するだろう。

王子の言う通り、この世界は5つの国家が占めている。

1つはこの国アルトラント、もう1つが同じ大陸内で地図で言うと、この国の上に位置するバルディナ、アルトラントと海を隔てて向かい側にあるファライアン、そしてファライアンから見て東、アルトラントから見て西に位置する国が東天、最後に北に存在する雪国がパルチナ。

その5つの国が世界を動かしているが、その国の領土内に独立国家がどれぞれ1~2個程度存在する。

独自すぎる掟やらなんやらを持ってるせいで、国が吸収できなかったって言うのが正しい。


その1つがビアナ、商人達が形成してる貿易国家。中立の立場をとる事で、世界の貿易を担っている国だ。

他にもファライアンならエデン魔術国家と言う魔術専門の民族が独立国家をつくってるし、東天も国内に忍びと言われる集団が形成している独立した集落があると聞く。

パルチナとファライアンの間の海にはヴァシュタンと言う海賊が島を占拠して独立国家を形成してる。そしてパルチナ領内にある独立国家である謎に包まれた国、マクラウド。

またアルトラントの南側に小さな島がいくつも形成された南国の島国オーシャンも独立国家だ。

バルディナには銃火器を専門に扱う独立国家、ザイナスと言う国がある。アルトラント領土内には独立国家は無いけど。


でもたしかに今は世界情勢が不安定と言ってもいい。

この国アルトラントとバルディナは同じ大陸に面している事から小競り合いも多い。

元々アルトラントは軍事力で大きくなった訳ではなく、肥沃な土地があった為、貿易や農業で大きくなった国だ。

他国からの侵略は友好条約を結んでいるバルディナに頼っていた節がある。

しかしその友好条約の期限がもうすぐ切れるのだ。そして今は小競り合いも続いている事からバルディナから新しい条約は持ちかけられてこない。

国王たちの頭を悩ましてるのがこれだ。

クラウシェルは賢い奴だから独自に情報を探って、ここまで辿り着いたんだろう。


「それにバルディナは最近国宝石の研究をし出したと聞いた」

「国宝石?」

「あぁ、お前は知らないのか。僕も父様が会議で話しているのを盗み聞きして聞いたんだ。城の奴らは知ってる者も多いが、一般市民の中には知らない奴も多いだろう」

「クラウシェルは知ってるのか?」


「あぁ、国宝石と言うのは名ばかりの言ってみれば宝の地図だ」


「宝の?」

「遥か昔、この世界は2つの国が世界を動かしていたらしい。そして世界を手に入れる為に戦争になったんだ。その時に英雄が使ったと言われる禁断の魔術を記した著書“ゲーティア”。奴らはそれを探してる。国宝石と言うのはそのゲーティアを隠したとされる場所を示すヒントが書かれてると聞いた。勿論ゲーティアが悪用されたらとんでもない事になる。だからその戦争で勝利に大きく貢献した5人の英雄がそれぞれの領土を手に入れる時に、その宝石を5つに分けて国宝とする事でゲーティアが見つからないようにしたんだ」

「それが今の国になるってことだな?」

「あぁ、ゲーティアは持ち主を選ぶ禁断の魔術書。勿論国宝石に記された文字も一般の人間には読めない構造になってるらしい。それを読む事が出来るのが、その英雄の力を受け継ぎし者って訳だ。まぁここはお伽話みたいだけどな」


クラウシェルの説明で俺が納得してしまった。今はクラウシェルが先生だ。

でもそれを研究するなんてバルディナはかなりヤバい状況なんじゃないのか?放っておいていいのか?


「国王はバルディナに何も言わないのか?」

「言っても聞かないんだよ。バルディナはここ十数年作物の干ばつが続いてる。元々雨の少ない地域だしな。バルディナからしたら魔術研究の一環で水を使う魔術研究だと言ってるけど、僕的にはアルトラントの武力行使を狙ってるんじゃないのかって思ってる」

「おいおい、それは考え過ぎなんじゃ……」


「この間、密使だが使いが届いた。お前は知らないだろうな。国宝石を盗みに来たバルディナの密使をアルトラントが処刑した」


「はっ!?」

「バルディナは濡れ衣だと反発してきたが、条約に関する議論を持ちかけてきたバルディナの使いが国宝石の部屋に侵入したんだ。そんな言い訳は聞き入れられない。国の法律で決まってる。国のやり方で片をつけたのにバルディナが因縁吹っかけてきたんだ。謝罪と死刑を議決した議員を1人よこせ。同じ痛みを償わせて公開処刑にするってね。勿論国王からしてもそれは聞き入れられない。それを断ったからバルディナは友好条約の継続を拒否してきた。わかるかダフネ、僕の予想ではバルディナは近いうちにこの事を国民に発表して世論の支持を受けてアルトラントに戦争を吹きかける気だと思う」


クラウシェルの言ってることは確かに正しいようにも思えるが、どうにも深読みし過ぎなする。

そんな国宝石を狙って戦争を起こした国を他の国が放っておく訳がない。国宝石を奪われたら不味いんだから。バルディナは世界を敵にしたともいえる物だ。

そんな事が本当にあり得るのか?

でも考えても仕方がない。しがない御世話係の俺がどうしたって状況が変わる事は無い。俺に出来るのはこの王子様を立派に育て上げて、未来を託すしかないんだからな。

未だに渋い顔をしているクラウシェルに勉強の続きを俺は促した。

勉強しながらクラウシェルはポツリと呟く。


「ダフネ、僕は怖いんだ」

「クラウシェル?」

「もし僕が思っていた通りの事が起こったら、僕はミッシェルやルーシェルを守れるのか?と聞かれたら自信を持って答えられない」

「……」

「僕は第1王子、いずれはこの国の国王になるんだ。でも僕には自信がない」

「お前はまだ13歳だ。そんな自信、今つけなくていいんだよ」

「だけど……皆楽観視し過ぎているんだ!世界は刻一刻と変わる。絶対の友好関係なんて国同士には存在しないんだ!自国の利があるから友好関係を偽るだけで、それがない国とヨロシクなんてしないだろう!だから自国は自分で守らなきゃいけない!なのにこの国は軍事には無関心でバルディアに頼りきりだ!バルディアの友好条約が切れたらどうするつもりなんだ!」


こんな幼いのに、そんなとこまで考えなきゃいけないのか王子様ってのは……自分が13歳の時は何も考えずに馬鹿やってたのになぁ。

クラウシェルは賢い、それは認める。でもこんな幼い子供に国を背負わせるのは余りに重い。

それは国王もクラウシェル自身も分かってる。

でもクラウシェルはそれじゃ満足できないんだ。自分がしっかりしなきゃと思ってる。

そんなクラウシェルに俺がしてやれることはきっと少ないはずだ。


「クラウシェル、そんなに言うなら俺と打ち合いしてみるか」

「打ち合い?」

「剣だよ剣。俺こう見えても士官学校で実技の成績は良かったんだよ。ミッシェルとルーシェルを守りたいなら、まずは自分が強くなってからだ」

「……そうか、いいだろう」


テキストを閉じてクラウシェルが立ち上がる。

初めて剣を使うと言うクラウシェルに少しだけ先が遠くなったが、俺だって始めてからここまでなったんだ。

まだ13歳のクラウシェルが今から始めたら、俺の年には俺より強くなってるだろう。

2人で部屋を出た先にはセラの姿があった。


「クラウシェル様、お茶の時間ですが」

「すまない後にしてくれ。僕はこれからダフネに稽古をつけてもらう」

「クラウシェル様が?」

「そうだ、僕は強くならなきゃいけないからな」

「……そうですか。気をつけてくださいませ。終わり次第持っていかせてもらいます」

「あぁ」


クラウシェルが歩いて行くのを見て、俺はセラに声をかけた。


「剣ってどこで借りれる?俺は自分のがあるけどクラウシェルは初めてだし、最初は新米兵が使う木剣でいいんだけど」

「稽古場の隣に武器倉庫があります。そこで借りれるはずです。でもクラウシェル様が自ら稽古なさるとは意外でした」

「あいつは賢い奴だよ。いい国王になりそうだ」

「それもそうですが、私には貴方もすごく感じられます」

「ん?」

「いえ、お気をつけて」

「サンキュー」


この後、クラウシェルの余りの運動音痴に俺は早くも教えるのが嫌になったのである。


「お前はまずは基礎トレからだな。腕立て50回だ」

「お、王子の僕がか!?」

「誰だって通る道だ。ほら早くしろ」

「くっ……絶対お前より強くなってやる!」



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