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神様の椅子  作者: *amin*
三章
29/64

29 パルチナとヴァシュタン

ランドルフの空気を感じたのか、笑っていたアウグスの表情が少しだけ険しい物になった。

女の人とメガネの男エルネスティもこっちに視線をよこしてくるし、部屋の隅にはイースとジェシカが小声で何かを話しながらも俺達に注目していた。



29 パルチナとヴァシュタン



ランドルフはアウグスに単刀直入で話を切り出した。

その声は緊張からか少し震えていた。


「話は知ってるはずだアウグス、猶予はない。パルチナとバルディナが手を組んだ今、こっちも早急に対策を立てなければ侵略戦争食らう羽目になる」

「あぁ、アルトラントの話を聞いたときゃ、背筋が震えやがったぜ。元々信用ならねぇ国だったが、まさかあそこまでやるとはな。聞く限り、ザイナスも正式に協力してたみたいじゃねえか」

「あぁ、バルディナにパルチナにザイナス、それだけでも脅威に変わりねぇだろ」

「俺達ヴァシュタンはおめぇらが予想してる通りファライアンに協力する意思は固めてる。だがこっちも勝てねぇ勝負をする気はねぇ、おめぇらがどれだけの奴らを率いる事が出来るかが問題だ」

「今の所はエデンだけだ。後はオーシャンに協力要請を出している」

「おいおい、エデンとオーシャンだけじゃバルディナとパルチナには敵わんぜ」


豪快に笑いながらも内容は正直笑える内容じゃない。

確かに軍事国家であるパルチナとバルディナ、更に銃の技術を持つザイナス相手にファライアンとエデン、オーシャンだけじゃ役不足だ。それほど特にバルディナとパルチナの軍事力はでかい。

アルトラントの十数倍の兵力を持ち、士官学校だって充実してる。ファライアンよりも軍事力だけで言えば大きいはずだ。

そんな国を2つも相手にするのだ。こっちもそれ相応の数がいる。でも仕方ない、少し無理な話でもこうするしかないんだ。


「俺達ヴァシュタンが引き受けられるのは海戦だけだ。パルチナの艦隊なら全て引き受けてやる。だが地上戦を行う機動部隊の相手は俺達はできねぇ。それにバルディナの海軍も一気に来られると、こっちも流石に数で負けちまう」

「わかってる。ファライアンも海軍の派遣を考えている」

「馬鹿、おめぇらはパルチナとバルディナを相手にしなきゃいけねぇんだから海軍に手を割いてる余裕はねぇだろ。ザイナスはエデンが何とかしてくれるだろうが、向こうはアルトラントの兵も差し向けてくんじゃねぇのか?」


その言葉に肩が跳ねたのをエルネスティは見逃さなかった。女性に何かを話して、2人は俺に視線を送っている。

それを気づいてるのか、気づいてないのか、アウグスはランドルフとの話に集中してる。レオンに至っては、流石に深く関われないのか会話に入ろうとしない。


「おいランドルフ、まだ中立貫いてんのは東天とビアナと忍びの集落とマクラウドとオーシャンだけか。まぁオーシャンは手ぇ打ってんだろ?」

「あぁ」

「じゃあ俺達がやるべきは1つ。何が何でも東天と忍びの集落とビアナを引きいれるしかねぇ。マクラウドはさすがにパルチナ領土内だ。奴らも下手に動きゃしねぇだろうが、東天の力は絶対に必須だ。奴らがバルディナに正式に参加表明する前に何とか引き入れなきゃ勝ち目はねぇだろう。ビアナだって商人の国っつってっが、奴らは中々でけぇ海軍を所持してやがる。ビアナと俺達ヴァシュタンが組めば100%パルチナの海軍は何とかなる。更にバルディナの海軍にも手を伸ばせるだろう」

「ビアナ、ね」


ランドルフの視線の先にはレオンの姿。レオンは気まずそうに視線を逸らしたが、ハッキリと拒否の言葉を述べた。


「それはできない。俺たちビアナはあくまでも中立だ。どの国にも加勢しない傍観者だ」

「おめぇは完全にファライアンに傾倒してっがな」

「……俺個人の意見で国を動かせる訳がないだろう。海軍の指揮権はイグレシアと軍団長モルガンが持っている。彼らが行動を起こさない限りビアナは絶対中立だ」

「ちっ……面倒くせぇ国だ」


アウグスは舌打ちをしただけで突っ込む気はないらしい。まぁレオンに言ってもな。

じゃあやっぱり東天の力は絶対に必須だ。それともう1つ、俺には聞きたい事があった。

完全にファライアンの協力してくれるとヴァシュタンは言った。後もう1つだ。


「アウグスさん、ゲーティアは御存じありませんか?」

「ゲーティア?あの魔術書の事か?残念だがここにはねぇよ」

「違います。俺はゲーティアを探してます。アルトラントを取り戻す為に」


俺の言葉にアウグスは目をパチクリさせて首をかしげた。あまり良く理解できなかったようだ。

でも女の人は何かを感じたらしく、エルネスティに耳打ちをした。

それを聞いたエルネスティが声に出して女の人の言った事を代弁した。


「あんたもしかしてアルトラントの脱走者か?ファライアンに何人か逃げ込んだと聞いたが」

「はい、ダフネと言います。俺は祖国奪還の為にゲーティアを欲してる。少しでも情報があれば手伝っていただきたいんです」

「残念だがヴァシュタンにゲーティアに関する情報はない。元々国宝石自体この国にはないからな」

「そう、ですか……」


まぁ俺が単体で探してもどうにかなるもんじゃないよな。ルーシェルが国宝石の文章を解読してくれない限りは。

本気でゲーティアを探す俺を見て、エルネスティは眉を顰めた。ゲーティアがどんなものか、ある程度は理解しているんだろう。それを探す俺を少し信じられないような目で見ている。

でもまずヴァシュタンの協力は得られた。後は何としても東天を引きいれるしか手段はない。でもどうやって?

東天は書簡を送っても基本返事を返してこないし、鎖国体制を貫いてるから貿易するにも一苦労。そんな国の中に入れてもらえるのか?ましてや受け入れてくれるのか?


英雄ダレンが未だに統治している国。過去の戦争の悲惨さを知る者、そしてゲーティアを所持した人物。

恐らくダレンはゲーティアの隠し場所を知ってるはずだ。だって使用者はダレンだったんだから。

東天のリーダーがダレンだって事を知ってるのは多分エデンの村長だけだろう。だからバルディナもパルチナも東天に関心を示さない。

何としても先に東天に行く手立てを見つけないと。

話し合いがひと段落ついたのか、アウグスが立ち上がりエルネスティと女の人に告げた。


「さて、と……俺はそろそろ処分に向かうか。ディズ達はもう行ってんだろ?エルネスティ、クラーリア、お前らはどうする?」

「正直処分はもう飽きたわ。ディズとシェリルがやってくれるのなら私達はここにいる。2人が出来る限りの情報を吐かせて処分するから、貴方だって出ていかなくてもいいのよ」

「そう言う訳にはいかねぇよ。一応形式上な。家族にも会えなくなる哀れな人間だ。最後は慈悲に包まれながらの処刑も悪くねぇだろう」


処刑って……確かに領海侵犯を犯したのは問題だけど、だからって殺すまでするのか?

流石にアウグスの言葉に懸念を抱いたのは俺だけじゃなく、ランドルフも身を乗り出した。


「おい、処刑はやり過ぎなんじゃねぇのか?」

「火事場のねこばば国家には、この程度しなきゃ刺激になんねぇからな。俺たちゃ70年前の内部紛争の騒ぎに紛れて一度シュワン諸島を奴らに実効支配されてんだよ。そんな目にならねぇように見せしめは必要じゃねぇか」


これが冷戦状態の国家間の対応なんだろうか。これじゃ火に油を注ぐようなものだ。

でもヴァシュタンとパルチナはお互い今までそうやってきたんだろう。それを今更どうこう言う気はないが、でも処刑まで行かなくても……

アウグスはコートを羽織って、イースとジェシカの頭を軽く叩いて部屋を出て行った。残された2人はお互いに顔を見合わせて手を振っている。

気まずい雰囲気の中、溜め息をついてクラーリアが立ち上がる。


「もう今日はここに泊るのでしょう?私もアルトラントの貴方に聞きたい事がある。今日はゆっくりするといいわ」


それだけを言い残してクラーリアも部屋を出ていく。エルネスティもクラーリアに続いた。

残されたイースとジェシカはお互いに顔を見合わせて、この部屋を好きに使っていいと言って、2人も出て行った。

急に緊張感が抜けて、ソファに深く凭れかかった俺とランドルフ。でもやっぱこの国も一筋縄じゃいかなそうだ。協力はしてくれる、頼りになると思う。でも少し考え方が暴力的だ。

これが海賊が祖先の国って奴なのか?まぁとにかくルーシェルを連れて来なくて良かった。絶対泣いてるだろうからな。


ルーシェルは大丈夫かな。やっぱ1人残していくのはどうにも気が散ってならない。自分自身がルーシェルを守るのを使命にしてるから、離れているのが落ち着かない。

多分ジェレミー達が側にいるから大丈夫だとは思うけど、ファライアンの貴族と評議委員は気に食わない。

まともな志を持つ奴らは沢山いるのに、一部の議員達が全てを台無しにしている。そいつらがルーシェルに何かを嗅ぎつけて、何かをしでかしそうで怖い。そんな事が無いように祈るしかない。

それはそうと気になることがあるんだよな。これを機に聞いてみるか。


「でもパルチナはどうしてバルディナと組んだんだろうな。パルチナには南下戦争の恨みだってあるはずなのに」

「パルチナは6年前から王子2人の王位継承権争いが勃発して、実質内乱にまで発展している。第1王子率いる王国騎士団と第2王子率いる王国神聖軍も対立していると聞く。バルディナに背後を突かれない為だろうな。それと外に敵を作ることで国を団結させるのが狙いだろう」


そうか、そう言えばパルチナの王位継承権争いの話は聞いたことがある。王位継承権を持つ第1王子に第2王子が反発したことによって起こった内乱だ。

はじめは頻繁に話し合いを行っていたが、お互いに王位継承権を放棄しないことから兄弟なのに2人が争い始めたのだ。暗殺なども行われ、お互いの重臣も数名亡くなっているって聞いた。

パルチナも今は国内の治安が良くない状態で、バルディナを敵に回すと危ないから向こうに付く意思を固めたんだろう。もしかしたら協力の報酬で何かをもらえるのかもしれないな。


あーもう考えることがありすぎる!ライナがいたら相談できたのに……ライナは大丈夫なのかな。1人で行かせてしまったけど……世話になりっぱなしで何も返す事が出来なかった。豪快で頼りになったライナがいなくなったのは、何となく相談役がいなくなった様な寂しさを感じさせる。ライナが横にいるだけで少し安心してたんだけどな。あいつの言葉はいつも心を捕えて、ぶれる事が無かったから。

ライナに勇気づけられる事が何回会ったか……


でもいなくなってしまったライナを頼る訳にも行かない。俺が自分自身で考えてルーシェルを導かなきゃいけないんだ。

ゲーティアを探す事に疑問が無いと言えば嘘になる。ゲーティアの呪いの話を聞いて、継承するには恐ろしいと考えてしまう。自分がそんな器だとは思えないし、ルーシェルに継承させたくはない。

ファライアンの女王は呪いのせいで外に出られない。そして守っているジェレミー達を貴族や評議委員は怪しんでいる。ファライアンは内部崩壊一歩手前の綱渡り状態なのだ。


ルーシェルが国宝石を継承したらアルトラントもそうなってしまうんだろうか。フレイのせいでアルトラントの評議委員を信用できなくなった。あんな奴が議長を務めてたんだ。アルトラントの議員全てがスパイの様に感じて来る。

疑ったら駄目なのに……疑うしかできない自分が憎たらしい。


早く戻りたい。親父とお袋を助けたい。ミッシェルやクラウシェル、セラ達も。クラウシェルはちゃんと無事なんだろうか。俺達を逃がす為に命を張ってくれた。剣を持った事の無いクラウシェルが、あんな大胆な行動をとった。

怖かったはずだ。死を覚悟するなんて13歳の少年が中々できる物じゃない。俺自身だってすぐに出来るか分からない。でもあいつは弟と国の為に命をかけた。そんなクラウシェルの思いに答えないなんてできる訳がない。救わなきゃいけない。


肩の荷は降りない。



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