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神様の椅子  作者: *amin*
三章
27/64

27 迫りくる脅威

「良く集まってくれたな。アルシェラ、アレクセイ、ボリス」


暫くしてオルヴァーの家には3人の男女がやってきた。

冷静そうな女がアルシェラ、少し髪の長い長身の男がアレクセイ、そしていかにも血気盛んな男がボリスだそうだ。

話し合いに俺とルーシェルとライナは参加させてもらえず、俺達は2階で待機を余儀なくされた。



27 迫りくる脅威



「どうなるんだろうね。なんだかとんでもない事になっちまってる気がするよ」


ルーシェルとドリンが遊んでいる光景を見ながらライナがぽつりと呟いた。

その通りだと思う。ヤバい事に巻き込まれてる気がする。国宝石自体にそんな恐ろしい代償があるなんて知らなかった。そのせいでファライアンの女王は幽閉されてる。そして緑の国宝石は……考えたくない。まだ大丈夫だ、ルーシェルは国宝石の主になってないんだから。

でもゲーティアを見つけた時……それが現実になる日が来るんだろうか?そう思うと気が気じゃない。

ゲーティアなんて探したくなくなってくる。でも探さなきゃクラウシェル達を助けられない。

力が無い俺にはゲーティアに頼るしか方法が無い。最悪だ……


項垂れている間にも下では話し合いが続いてるんだろうな。あいつらはどうするんだろう、ファライアンに協力するのかな。

でもバルディナの次の侵略対象はファライアンかオーシャンだろう。エデンだって人ごとじゃない。

バルディナの強大な軍事力にザイナスの銃火器までがついて来る。エデンの魔法技術でしかザイナスの銃火器は対応できないだろう。多分その時にはアルトラントも強制的に徴兵制が行われて戦争に行かされるんだろうな。

ジェイクリーナスなんて年齢的にも対象内だから確実に戦争に行かされるはずだ。嫌だな……あいつはいい奴なのに。あの城の中で初めて仲良くなった年の近い奴なのに。

マリアとミリアだって女の子だけど門番で戦う力を持ってるから前線で戦わさせられるはずだ。殺されてしまったらどうしよう……皆は今どんな生活をしてるんだ?最低限の自由は許されているのか?

わからない、何もかも情報が無いから。


「なぁライナ、お前は今のアルトラントの情報、何か知らないか?」

「……情報屋仲間から仕入れた情報が少しあるだけだ。聞くかい?」

「ん」

「アルトラントは今最悪の状態だ。シースクエアでも貿易関係者や漁業関係者が暴動を起こして鎮圧されてるし、奴隷政策の一環で5歳から12歳までの子どもが強制的にバルディナとアルトラントの国境ブラス城に移住させられていってるらしい」

「もしかして……」

「あぁ、同化政策が正式に始まったんだよ」


そんな恐ろしい事が起こってるのか……その子たちは、そこで理不尽な目に遭うかもしれないのか。いや、間違いなく遭うんだろう。

ちくしょうバルディナめ!幼い子供まで巻き込むなんてっ!


「城の中までの情報は無いが、王子と姫様は恐らく今は軟禁状態なんだろうな。こればかりはどうしようもない」

「くそっ!」

「ファライアンもあの調子じゃ戦争に持ってくのには時間がかかるだろうしね。まぁ戦争なんてハナからファライアンはする気はないさ。向こうが既成事実を作って来るまではね。アルトラントの物資が減少した事で物価も上昇してる。ビアナから経済状態を回復させるよう通達はされてるらしいが、それを跳ねのけてるらしい。本当に世界に喧嘩売ってやがるよ」


バルディナはそこまで根性腐ってるのか!国民は何とも思わないのか?これはれっきとした侵略だ!疑いようのない。東天もパルチナもなぜ黙ってるんだ?危険な国だって分かってるはずじゃないか!声明を出すくらいしてくれたって……

親父とお袋は無事なのかな。理不尽な目にあってないかな。

不安だけが募って、やり場のない怒りが全身を包み込む。バルディナが憎い、全てを奪ったあいつらを殺してやりたい。

部屋の扉が開いて1人の少女が入ってくる。少女は軽く頭を下げて俺達にお茶を出して帰っていく。それを飲みながら話しこんでいると、オルヴァーが中に入ってきた。


「話し合いは終わったのかい?」

「あぁ、結果を伝えるがエデンは表立った行動はとらない。一応協定はするみたいだが、まぁ指揮権はファライアンに任せるって奴だよ。戦争が始まった時に限り、ファライアンに全面協力する。上出来だ。俺達は先に戻るが、1ヶ月後には魔術師アルシェラが正式にファライアンに駐屯する予定だ」


確かに軍事同盟は出来たようなもんだ。今の所はこれでいいんだろう。

でもまだだ、まだファライアンはバルディナに完全に敵対した訳じゃない。同盟国を作り、牽制して相手の出方をうかがってる。

そんな事をしてたら国王と后が処刑されてしまう!それだけは避けないと行けない!なのに俺1人の発言力じゃどうしようもできない。どうしようもない……

オルヴァーはベッドに腰掛け、ライナに向き直った。


「ライナ、あんたオーシャン民族のダナシュ族の長の孫娘らしいな」

「おや?どうしてあんたが知ってんだい?」

「密偵を雇って調べさせた。悪いな。あんた達オーシャンはどうするんだ?中立を貫くのか?バルディナかファライアンにつくのか?」

「今の所は中立さ。だがオーシャンはバルディナには絶対につかない。あそこが信用できない国ってのは分かってるからね」

「それを聞いて安心した。バルディナにつく国は少ないに越したことは無い。早速ファライアンに戻ろう。この事を伝えなきゃいけないからな」


オルヴァーが踵を返して部屋を出ていく。休憩も無く本当にもう戻るみたいだ。

エデンから出る際にオルヴァーの祖父が俺とルーシェルを見て手招きをしている。まだ時間があるから行ってこい、とオルヴァーに言われて、俺はルーシェルを抱えて老人の元に足を運ばせた。


「ルーシェル王子、オルヴァーから話は聞いておる。国宝石の文を読解できるとな?何と書かれておった」

「……全部は言えないけどね、魔法使いの村って書かれてたんだ。あと青の国宝石とあわせれば完璧になるって」

「そうかい。国宝石に書かれてなかったかい?暁の大地と」

「どうして知ってるの?」


確かに国宝石には「森の中、魔法使い、暁の大地、青の宝石とあわせたら完全になる」って書いてあったはずだ。

ルーシェルは他言してない。俺だってそうだしライナだって。

オルヴァーには国宝石の内容までは教えてないはずだ。どうしてこの老人は……

老人は口元に手をやり笑っている。


「なに、簡単じゃよ。国宝石を継承する為には緑の祭壇に向かうのじゃ。それは暁の大地にある。それだけじゃよ」

「それはどこにあるの?」

「残念じゃがアルトラントの領土内じゃ。ゲーティアを探すお主には知らせておかんと思うてのぉ」


そう言う事か……じゃあ後は青の国宝石とあわせるだけなのか。

もう行っていい。老人がそう言ったのでオルヴァーの所に戻る。オルヴァーは眉を少し顰めたが、すぐに仏頂面に戻って森の中に足を踏み入れた。


「オルヴァー様」

「クレア」


呼びとめられて振り返った先には俺達に茶を出した少女が立っていた。少女は深々と頭を下げてオルヴァーに別れを告げている。


「そう言うのいらないって言ってるだろ?お前は俺の従者ではないんだ。好きに生きたらいい」

「……私が望んでしているのです。私の好きでやっているんです。どうかお気をつけて」


溜め息をついてクレアって言う少女の頭を撫でてオルヴァーは森に入る。少女はずっとオルヴァーを見つめていたが、オルヴァーは振り返らなかった。

そこからはまたはぐれないようにルーシェルの手をしっかり握ってオルヴァーの後をついて行った。

自然と目の前は開けて行き、数時間歩いた先には繋いだ馬が見えた。

馬を繋いでいた縄をほどきファライアンに向けて走り出す。また3日後程度には辿り着くだろう。


「なぁオルヴァー、さっきの子誰だ?」

「クレア、元はファライアンの人間だ。俺が森の前で捨てられていたクレアを保護した」

「え?」

「それを恩義に感じてるらしくてな……好きに生きたらいいって言っても、あれの一点張りだ」


少しだけ悲しそうなオルヴァー。別に恩を売りたくて助けた訳じゃなさそうだ。まぁそれもそうだよな……

しんみりした空気の中、馬を飛ばす。早くファライアンに着け。

しかし辿り着いた先のファライアンは予想もしない事態が待ち受けていた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――

「軍事同盟?」

「あぁ、バルディナとパルチナが正式に同盟国になったとの報告があった。バルディナを相手にする際は十中八九パルチナも出て来るはずだ」


戻ったファライアンは何やら慌ただしかった。

城に戻ってジェレミーやランドルフ、ローレンツに結果を報告したオルヴァーと俺達に待っていた報告はバルディナとパルチナの同盟だった。軍事国家であるバルディナとパルチナが同盟したとなればファライアンと戦争したとしても結果は完全に決まっている。ファライアンに勝てる訳がない。

それにバルディナにはザイナスも付いている。エデンだけしか協力を取り付けてない俺達に敵うはずが……

大体バルディナの軍事力は強大だ。ファライアンとエデンが連合してもバルディナに勝てるか分からない。更に唯一バルディナよりも軍備が整っているパルチナがバルディナと同盟を組んだとなれば目的は……


「ファライアン潰しか」


ランドルフが忌々しそうに吐き捨てて、状況がクリアになっていく。

急いで他の国とも同盟関係を結ばなければならない。でもどうやって?東天は鎖国体制を貫いている。この状況に多少の焦りは感じてるかもしれないが、手をとってくれるか?確実にバルディナに手を貸すだろう。だって勝算があるんだから。

だとしたら独立国家。オーシャンと海賊たちが占める国ヴァシュタンに協力を要請するしかない。ヴァシュタンはパルチナと領土紛争を抱えてるから、ヴァシュタンは喜んで協力してくれるだろう。パルチナの領土内にあるマクラウドは、まず協力してくれないだろう。下手したら板挟みだからな。ビアナだってあくまで中立を貫くはずだ。

上手く行ったとしてファライアン、ヴァシュタン、オーシャン、東天……最悪の場合は東天を除いた3カ国になる。それに対して向こうは最悪の場合バルディナ、パルチナ、東天、ザイナス、マクラウド、そしてアルトラントからも兵を狩り出すだろう。勝てる訳がない。

震えが止まらない俺に、ジェレミーは更に現実を突きつけてきた。


「……ダフネ、君のご家族が反逆罪でバルディナに捕まった。処刑はまだ決まっていないが、国王と后が処刑された後に何かしらの処罰が下されるだろう」

「な、なんだって!?」

「ご家族だけじゃない。君の故郷はバルディナの兵が制圧した。君に加担した村人全てを処罰することが決まっている」

「そ、んな……」


俺のせいで親父とお袋が……そんな馬鹿な話がある訳がない!ルーシェルも悲しそうな顔をしている。

俺に生き残れって言ってくれた親父たちが殺されるかもしれない。そんなことって……

項垂れている俺にジェレミーは1枚の書類を出した。


「ダフネ、戻ってきて早々悪いが、1カ月後にヴァシュタンに向かってくれないか?」

「俺が?」

「案内はビアナのレオンに頼んでいる。レオンはあそこでも顔を知られているからね。俺達はどうしても動く事が出来ない。君が行ってくれ」


アルトラントを救うためだ。どんな事だってやって見せるさ。

頷いた俺を満足そうに眺めて、ライナもジェレミーに声をかけた。


「あたしにも船を貸してくれないかい?オーシャンに戻りたい。オーシャンもファライアンに協力させたいからね」

「そう言う話なら歓迎する。すぐに船を用意しよう」

「ライナ……」

「しばらくお別れだね。大丈夫さ、あんたならやれる」


ライナは俺の肩をポンポン叩いている。正直情けない話だけどライナがいなくなるのは心細い。今まで俺とルーシェルを引っ張ってくれたのはライナだから。

すぐに向かいたいと言ったライナにローレンツが早速船を用意するからついてきてくれと促し、ライナはそれについて行った。


「ライナお姉ちゃん!」

「王子様、強くなるんだよ!」


その言葉を残してライナは部屋から出て行った。残された俺に出来る事は1つでも多く他国からの協力を取り付ける事。アルトラントの俺が直接話を付けた方がバルディナの非動作が実感できるはずだ。でも今回付いて行く奴がレオンって言ってたけど、大丈夫なんだろうか。

ファライアンの人間がいた方が話は進むに決まってるだろうに。


「ジェレミーさん、レオンで大丈夫なのか?ビアナの人間を連れていってもヴァシュタンは……」

「あぁ、心配しなくてもランドルフが一緒に行ってくれる。ヴァシュタンなら十中八九、協力してくれるだろうからな」


まぁパルチナが出てきたんだから恐らくそうだろうけどな。パルチナを徹底的に叩く口実になりゃ、ヴァシュタンだって喜んで手を結んでくれる。パルチナを潰したくてうずうずしてる国だからな。

急がなきゃ、時間はあまりない。

国を強化させて国宝石の謎を解明させてゲーティアを探し出す。それがどこにあるかは分からないけど、絶対に。



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