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神様の椅子  作者: *amin*
三章
25/64

25 腐敗した議員

ルーシェルが女王の所に連れていかれて何を見てきたのかは分からない。でもルーシェルは何かが引っ掛かっているようで首をひねっている。その理由がなんなのか、俺には分からない。

聞いても内容は教えてくれない。教えたら駄目だとジェレミーに言われたらしい。それなら仕方ないんだろうけど、正直気になって仕方が無い。



25 腐敗した議員



「おいダフネっつったか。ちょっと面貸せよ。王子もいなくて暇だろ?」


ルーシェルが戻ってきてから与えられた部屋に泊まり1日が過ぎた。この日もルーシェルは女王の所に向かい、ライナと2人で他愛ない話をしている最中に扉が開き、第2騎士団団長のランドルフが入ってきた。

相変わらず何だか嫌な態度の男だな。確かに暇だけどさ。


「何か用ですか?」

「てめぇを鍛えてやるよ。一応士官学校は卒業してんだろ?学生気分が抜けてねぇ奴の根性鍛えなきゃな」

「学生気分って……」

「訓練と実践の違いを教えてやるよ。来い」


少し言い方にむかついたけど一理ある。国外逃亡を図っている最中は剣の稽古なんてしている余裕も無かった。これから相手にしなければならないのは騎士や軍の人間達だ。俺よりも遥かに強い。自分も稽古してそれなりのスキルを身につける必要がある。

相手は第2騎士団の団長だ。稽古をつけてくれるには絶好の相手だ。


「ライナ、お前はどうする?」

「あたしかい?あたしはちょいと調べたい事があるから城下におりてくるよ。夕飯までには戻るさ。あんたは鍛えられてきな」


城下か……俺も行きたい。でもルーシェルもいないし、置いていく訳にはいかないよな。稽古もしたいし。今度時間があったら街を回ってみよう。ライナと別れて、ランドルフと2人で騎士団が使っている稽古場に向かう。

稽古場は騎士団の奴らが打ち合いしたり、兵法を話してたりで結構がやがやしてる。ランドルフは空いたスペースに入り、体を動かし始めた。


「おい、体はほぐしとけよ。稽古っつっても下手して靱帯損傷する馬鹿もいっからな」

「あ、はい」


ランドルフの隣で柔軟体操をして体をほぐす。本当に打ち合いをするつもりらしい。ランドルフが出てきた事と、見た事ない奴がいると言う事で周りはやじ馬で囲まれていく。

そしてある程度ウォームアップが終わったらしいランドルフが剣を手に取った。二刀流ってわけか……かなり身軽そうだから間合いに注意しないとな。


「行くぜ素人」


ランドルフがこっちに向かって走ってきた。敵うなんて事は思ってないけど、何とかして少しでも対抗できるだけの腕があるって信じたい。

そして自分に向かってきた刃に剣を立てた。


――――――――――――――――――――――――――――――――

「……まぁ見込みはあるだろうな。思ってたよりも良く動いてたと思うぜ」

「そりゃどうもっ」


全く歯が立たなかった。状況判断や戦術、間合いの取り方にスイング……全て相手の方が上回ってた。これが騎士団団長の実力か。

座り込んでしまった俺にランドルフが近づいてくる。


「てめぇは確かに才能はある。だが今はそれだけだ。これからは時間が許す限り通う事だな。今のお前じゃ役者不足だぞ」

「そうですね……精進します」


才能があるって言われただけマシなのか……でもこれからはルーシェルを守るために俺だってバルディナの騎士団と戦わなきゃいけない日は必ず来る。

ここで少しでも自分自身のスキルアップに繋がるなら時間が許す限り通い詰めるべきだろう。俺たちに残されてる時間は少ない。まずは国王と王妃の処刑を食い止めなければ……やらなきゃいけない事はたくさんあるはずだ。

ランドルフが剣を構え距離を取る。どうやらもう1本やるみたいだな。よし、今度こそは!


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「ダフネさん、ライナさん」


ファライアンに身を置いて5日が経過した。相変わらず客人扱いで毎日稽古場に通う以外に何かをするって訳じゃないけど、ルーシェルはその間にもう1回、女王の所に連れて行かれた。

何をしてるのかは教えてくれない。でもルーシェルが大丈夫だって言うから俺はそれを信じるしかない。

今日もルーシェルは女王の所に連れていかれている間、ライナと他愛ない話をしながらルーシェルを待っていた。

その時、扉が開いてローレンツが顔を出した。


「ローレンツさん?何か御用ですか?」

「国の会議を見ていただきたい。貴方達は我らの国に疑問を持っている。その疑問が何か、少しは解決するでしょう」

「でもそんな重要な会議に俺達が参加してもいいんですか?」

「貴方達に関係があるから要請しているんです。準備は必要ありません、すぐに始まるので来ていただきたい」


ローレンツの後をライナと顔を見合わせて付いて行く。俺達に関係があるって事はバルディナとアルトラントの件を引き合いに出すんだろうか。ローレンツは少なくとも話し合いの場を設けてくれたってとこなのか?

ファライアンはバルディナに脅威を感じてくれたらまずは順調だ。

ローレンツに連れられて、広い部屋に通された。その中には丸い大きなテーブルに椅子が備え付けられ、既に多くの椅子には誰かが腰かけていた。空いている席に座らされて、その隣にローレンツが座る。そのまま数分経てば時間になったのか、デューク議員が立ち上がり、会議を始めると言った。

議題が出され、議員達が話をしている中、コソッとライナに話しかけた。


「ジェレミー達がいないな。軍の人間は出ないのか?」

「周りを見る限り、今回は貴族や評議会だけってところだろ。政治的な話に軍の人間は細かい所までは関われないからね」


まぁ軍人が政治的な話を分かる訳ないし、当然っちゃ当然か。俺も分かんないけど。

話し合いはやっぱりバルディナとファライアンの話だった。バルディナがどう動くかによってファライアンはどうするか、と言う物だ。相手がファライアンに好戦的な態度をしてきたら宣戦布告するのか、話し合いで解決するのか、その為には他国との同盟は必要か。

意見は真っ二つに分かれている。戦争せずに少しの譲歩を許そうと言う奴と、軍事費を増やしてきたのはこの時の為だろう、何を臆する必要があるのだ。と言う奴。まぁ戦争しなきゃいけないって言う場合は大体この2つに分かれるんだけどな。

話には参加せずに、俺とライナはただその光景を見ている。

それにしてもファライアンは1枚岩ではないらしいな。こんなに揉めるなんて……こりゃ戦争を決めるのもかなりの時間がかかりそうだ。


「しかしバルディナに対抗するとしても同盟国はどこにするのだ?東天は鎖国を貫いているし、パルチナは信用できん。エデンとヴァシュタンと言う事になるのか?」

「ヴァシュタンは我が国と親交があるがエデンは……オルヴァーの奴に行かせるのか?」

「独立国家との同盟は避けられん。気に食わん奴らだが、その技術の高さゆえ独立を貫けるんだからな」

「だが今の状態でバルディナには敵わん。奴らはアルトラントの兵も戦争に出してくるはずだ。ファライアンが潰される前に条約を出せばいいじゃないか」

「それは実質上負けになる。バルディナの奴隷政策を知ってるのか!?」


国会はかなり荒れている。ローレンツが納めようとしてるけど、激しさを増したこの場所ではローレンツの言葉は届かない。

その時、ある議員が口にした。見た目は30前半。今までの話し合いでも中心になって発言をしていた奴だ。


「こんな時こそ女王の出番じゃないのか?お飾りの女王なんだ、同盟の為にバルディナにくれてやっては……」

「リューツ貴様っ!我らが国のシンボルをなんと心得る!この無礼者が!」

「リューツ議員の言う通りだ。私は生まれてこのかた女王を見た事が無い。大体女王自体ファライアンには存在しているのか?軍人達が実質ファライアンは支配している様な物じゃないか」

「ダット!お前まで……」


女王を引き渡すなんて、よくもそんな事を……その言葉に国会は更に荒れている。

けど中にはその存在自体が分からないって言ってる奴もいる。国民だけじゃない、評議委員でさえ女王を見た事が無いんだ。なぜそこまでして女王を表に出さないんだ?確かにこれじゃ女王が架空の人物と思われても仕方がない。

ルーシェルは女王に何度も会っている。だから実際には女王がいるんだろうけど、確かにジェレミー達が国を支配しているように感じる。

どうなってるんだこの国は。肝心の最高権力者である女王が姿すら現さないなんて……


「落ちついてください、これだけは断言できます。この国にイヴ女王陛下は確かに存在しています。ですが女王陛下はクーデターの件から自ら姿を出す事が出来なくなっているのです」


ローレンツの言葉に国会は静まり返る。

でも納得のいかないリューツやダットって議員の他にも数人がローレンツに食ってかかった。


「なぜ女王は我らの前に姿を出さないんだ?書類を渡すのもローレンツ殿、貴方が行っている。貴方の言葉に信憑性等無いのだよ」

「何を言われてもファライアンは今の状態を維持する。女王は国のシンボル、それだけは変わらない」

「我々評議委員にくらい女王を見せてくれてもいいのではないか?」

「言ったでしょう。今の状態では不可能です」


だからなぜ無理なんだ!リューツがそう叫び、苛立ちからか机に拳をぶつける。それをローレンツは少し気まずそうに視線を逸らして無言を貫いた。

この状況から判断すると、ローレンツとデューク以外の議員は女王の姿を知らなさそうだ。デューク議員は分かる、最高評議委員だから。でもなぜローレンツが?こいつは議員の中では発言力が高いのだろうか?まだ若そうなんだけど……

苛立ちを隠せないリューツ達を一部の議員が敵対視するような視線を向けている。同じ議員同士なのに、ここまで争うなんて……


「見苦しいぞリューツ、女王は存在する。だが表には出られんのだ。過去のクーデターを繰り返したくないのならば今の状況に口を挟まぬ事だ」

「デューク議員、しかし!」

「何度言っても同じだ。死に急ぎたくないのならば、出過ぎた行動は控える事だな」


デューク議員の言葉に、貴族や評議委員は押し黙った。

結果、話し合いは平行線。時間が来て解散と言う形になった。去り際に議員達がローレンツに非難の目を向けて去っていく。そして最後に俺達とローレンツだけが残された。

疑問は一杯ある。なんで議員の一部はあそこまでしてバルディナに媚を売ろうとするのか、女王を人質として渡そうなんて、普通ならば考えないはずだ。そしてその原因となっているのは女王が国民に姿を現さない事。なぜ女王を表に出さないのか……ローレンツの言い方じゃ過去のクーデターと間違いなく何か関係している。

でもクーデターが起こった事は議員だけじゃなく国民なら誰もが知ってるはずだ。それなのに女王が表に出れない理由を議員は知らない。クーデターで一体何があったんだ……?


「あんた達の国は国として成り立ってないね。女王は国のシンボル、シンボルは希望。肝心の希望の姿を知らないんじゃ、シンボルなんて説得力がないよ」

「それも真実ですから仕方のない事です」


ライナの痛烈な批判にローレンツは困ったように笑った。

これだけライナに馬鹿にされてるのに、ローレンツに苛立った雰囲気は見られない。本当の事だから仕方が無い。そこまで言いきってるんだ。


「女王は絶対に表には出せない……私達が作った箱庭で一生を生きていくしかないのです。時期王位継承者が現れるまで」

「……変わった国だね」

「そうですね」

「だが、なぜ議員達はあそこまで戦争を回避させようとする。確かに戦争はしないに越したことは無いが、バルディナが話の通じる相手じゃないのはアルトラントの情報で分かるだろう。女王を差し出してまで戦争を回避させたいかい?」

「えぇ、反対派の議員の一部は恐らくバルディナに女王を引き渡し、然るべき地位を与えられる事を望んでいる」


なんだって!?そんなの反逆罪じゃないか!

そこまで分かってるのに、なんでローレンツは手を打たない。そんな奴を議員に据えていては危ないのは分かってるだろう?

でもローレンツはそれをしない。それはどうして……


「彼らを追放すれば、その情報は国民に広がる。混乱は出来るだけ今の状況で起こしたくはない」

「なるほどね。だが食い止められるのかい?」

「食いとめて見せる。そこでダフネさん、ライナさん、頼みがあるんです」

「頼み?」

「……エデンに向かってくれませんか?」


魔術国家エデン、この世界で唯一魔術と言う化学で証明できない物を扱う国。

元はファライアンの属国だったが、ファライアンの差別の激しさからエデンは独立戦争を起こし、独立国家を形成した。

以来ファライアンとは仲が悪いって聞くけど……


「我らには戦力が必要です。最強の武器と言われているザイナスの銃と対等の力を持つのは彼らしかいない。まずは大陸内を1枚岩にしなければバルディナにすぐ隙を突かれる。ですが私達は外に出られない。女王を守らなければならないから。貴族や議員の中には密偵を雇って女王を探させている者達がいる。それをしらみつぶしに潰してるのがジェレミーや私達だ」

「どうしてそこまで女王を出さないんだ?掟に縛られるのは辛いもんだよ」


ライナには分かってるんだ。オーシャン民族の掟にずっと反発してたから。掟に縛られる事が自由を望む人間にとってどれだけの障害か。

ローレンツは力なく笑った。


「そうですね、私達も女王を外の世界に出したいのです。ですがそれが出来ない、女王は呪われていますから……」

「呪い?」

「いずれ分かる時が来ます。私達がどうして女王を箱庭から外に出さないのかが」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――

「ダフネ、ライナお姉ちゃん!お帰り!」


与えられた部屋に戻ると既に戻っていたらしいルーシェルが飛び込んできた。それを受け止めて一緒にベッドに腰掛ける。

でもライナは難しそうな表情をしたままだった。


「考え過ぎんなよライナ。眉間にしわ寄ってんぜ」

「いや、少しな。ダフネ、あたしはこの間調べたい事があるから城下におりたよな」

「え、あぁ」

「過去に言われただろう?余所者のあたし達なら、この国がどれだけ異常かがすぐに分かるって」


そう言えばそう言う事も言われたな。ルーシェルの世話に剣の稽古に忙しかったから忘れてた。でも思い返しても異常な所は見つからなかった。

貴族が女王を売ろうと考えてるって事くらいしか……それ以外にも何かあるんだろうか?


「城下におりたとき色んな奴に聞いて回ったんだ。女王を見た事があるか、女王をどう思っているかってね。姿を5年以上も見せてないんだ、国民は女王を国の象徴の存在と言う程度の認識しかないと思ってた。だが実際聞いてみると、どいつもこいつも女王を崇拝してる。姿も見せていない、生存しているかすらの情報も流されない、それなのに国民はイヴ女王陛下を褒め称えていた。言動に規制がかかって無いファライアンの国民が言うんだ、本心なんだろう。だが1人たりとも女王の存在や意味を疑う奴がいなかった。可笑しくないか?」


確かにそれは可笑しい。ライナが言うには50人近くの人間に聞き込みをしたんだそうだ。それなのに女王を悪く言う奴は1人もいなく、姿すら出していないのに素晴らしい方と皆が口を揃えて言ったんだそうだ。

姿を見た事があるか?と聞けば全ての人間が5年以上は見ていないと答えておきながら。

少しも疑問が湧かないのか、どうして女王が姿を出さないのか、議会の奴らが抱いた疑問はいたって普通だ。俺だって国王が5年以上姿を出さなかったら何かあったのかと疑う。でもここにはそれが無い。


「この国の女王崇拝は妄信的だ。一体何が国民をそうさせているのか分からない。だが国民は自分達が可笑しいと言う事すら気づいてない。あいつらが言ってた余所者だったら可笑しい事にすぐ気付くって事はこれなのかもしれない。だが議会だけは女王に不信感を持ってる……そこだけは理解できない所だけどね」


難しい話にルーシェルはあくびを1つ。でもそれに反応できる余裕は無い。

やっぱりこの国は何かを隠してる。いや、女王を箱庭に閉じ込めてる時点で隠してるのは分かってるんだ。でもその何かが分からない。

もしかしたらルーシェルなら分かるのかもしれない、女王に実際あってるんだから。でもルーシェル自身が口に出さないんだ。今はまだ何も知らないんだろう。



――― 内も外も敵だらけ ―――



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