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神様の椅子  作者: *amin*
三章
24/64

24 箱庭の女王

ジェレミーさんについて来いって言われてダフネとライナお姉ちゃんと別れて、後をついて行って先には隔離された空間があった。

塀の扉を開ければ、中には綺麗なお花がいっぱい咲いたお庭の中に、小さな家が建っていた。ここが女王様のお家なのかな?



24 箱庭の女王



女王様のお家なのになんでこんなところにいるんだろう。ここもお城なんだけど、お城の中に自分の部屋は無いのかな。なんだかここだけ別の世界って言うか……不思議な空間だ。

ジェレミーさんがノックして扉を開けたら、赤毛の女の人がドアから出てきた。


「あれジェレミーようこそ!待っててね、今紅茶入れるね」

「あぁ、今日は客も連れてきた。その分もよろしく頼むよ。それより……感づいたのか?」

「……うん、ローレンツから貰った書類見てね……無意識に」

「そうか、議員が1人怪我をしてね。タイミングがタイミングだけに不思議に思っていたら……あれほど考えるなと言ったのに。また約束を破られちゃったな……後は俺たちがやっておくよ。彼女には荷が重すぎた」


そう言って笑うジェレミーさんは悲しそうだった。女王様は身体が弱いのかな。でも約束を破られちゃうって何なんだろう。無理して働き過ぎちゃったのかな?

女の人はこっちに視線をよこして何かを言おうとしたけど、ジェレミーさんが女王様が来てくれたら話すって言ったから、女の人はそのままお家の中に引っ込んでしまった。ジェレミーさんに案内されてお家の中に入る。


「少し狭いけど我慢してくれ王子様」

「大丈夫だよ。でもこのお家可愛いね。おとぎ話に出て来るお家みたい」

「女王の好きな物ばかりを集めたからね」


お家の中は可愛い小物や家具で埋め尽くされてた。1つ1つが可愛らしく作られた物ばっかり。ミッシェルがすっごく喜びそうなお家だな。女王様と仲良くなったらミッシェルを連れて来てあげたいな。

中の部屋に通されて、ふかふかのソファに腰掛けたら思った以上に身体が沈んじゃってジェレミーさんに笑われちゃった。うー俺はダフネ達の代表なんだから、もっとしっかりしなきゃ駄目だよね。奥ではいい匂いが漂ってくる。紅茶の匂いかな。

その時、隣の扉が開いて中から出てきたのは金髪の女の人だった。すっごく可愛い人。線が細くて華奢な女の人。もしかしてこの人が女王様なのかな?

ジェレミーさんに支えられてソファに腰掛ける姿を見て、女王様だって確信した。

でもジェレミーさんは少し怒ってるみたい。


「また約束破った」

「ごめんなさい、考えちゃ駄目って分かってるんだけど……自分でもよく分からなくて」

「貴族の腐敗がどこまで進んでるかは分からないけど、俺達が何とかする。イヴは何も心配しなくていい。約束して、もう力を使わないって」

「うん」


2人は指切りしてる。なんだかすごく仲がいいみたい。俺とダフネみたいな感じなのかなぁ?

赤髪の女の人が紅茶とタルトを持って来て、イヴさんの隣に腰かけた。食べていいって言われてタルトを手に取って口に入れた。

すっごく美味しい!しかも温かいから手作りでできたばっかなんだな!

むしゃむしゃと食べながら何を話すんだろうってドキドキしてたら、不意にジェレミーさんが話しを振ってきた。


「イヴ、あの子はアルトラントの第2王子。国宝石の文字が読めるらしい」

「そうなの……」


悲しそうな顔をして俺を見て来る。俺ってそんなに悲しい子なの?自分では全然理解できないけど。

ジェレミーさんは俺の紹介を軽くした後、いきなり本題をイヴさんに突きつけた。


「イヴ、バルディナとアルトラントの話だ。アルトラントはバルディナに侵略された」

「え?」


目を丸くするイヴさん。まさか知らなかったの?国の女王様なら知ってて当然の話しなのに。ジェレミーさん達は教えてなかったの?

口をパクパクさせているイヴさんを庇うかのように赤髪の女の人がイヴさんの体を抱きしめる。

そしてあやしながらイヴさんに大丈夫だよって囁いてる。なんだかダフネが俺にやってるみたい。変なの、イヴさんは俺よりも年上なのに。


「メリッサは知ってたの?どうして教えてくれないの?」

「それは……」

「そうやって感情的になるからだよ」


ジェレミーさんの言葉にイヴさんは何かを思い出し、俯いた。感情的になったら駄目なの?悲しいって思ったら駄目なの?

なんでイヴさんが悪いみたいな言い方するの?


「イヴ、バルディナは国宝石を解読し、ゲーティアを探す気だ。ルーシェル王子は国宝石に書かれた文を解読できる。バルディナが狙っているのはそれだ」

「うん……」

「そこでだイヴ、俺達はルーシェル王子に協力してゲーティアを探したいと思ってる。もし探し出せたら……お前を外に出せるかもしれない」

「外、に……」


外に出せるって何?女王様はここにずっと閉じ込められてるの?訳が分からないよ。

でも女王様は何も知らない。もしかしたら俺よりも世間知らずなんじゃないのかなぁ。ここに閉じ込められてるのなら。どうして女王様にそんな事するの?外に出せるってどういう事?

でもイヴさんは外って単語に敏感に反応して何度も頷いた。その目には期待が入り混じってる。


「私、外に出たい」

「あぁ、俺も出してあげたい。だからイヴ、君も協力してくれ。それにバルディナの侵略に対抗する術はゲーティアしかないんだ」

「バルディナはここも襲ってくるの?そんなの駄目っ!駄目駄目駄目!」

「イヴ、感情的になるな!」

「落ちついてイヴ!」


ジェレミーさんとメリッサさんに言われて、イヴさんは冷静さを取り戻した。

なんだったんだろう。でも俺だって同じ反応するのに……どうしてイヴさんがしたら駄目って言うんだろう。あんなに怒られるなんて納得いかない。

イヴさんは気まずそうにしながら、俺に視線をよこした。


「ルーシェル君、国宝石の事なら私も少しは役に立てる。だから一緒に頑張ろう」

「え?う、うん。頑張る」


笑ったイヴさんはさっきまでの雰囲気が嘘の様だ。柔らかく優しい笑みを浮かべている。

なんだかイヴさんは少し幼い気がする。あ、俺が言ったら駄目なのかなぁ。お話が合いそうだからお友達になれそうって思ったんだ。

イヴさんの話を聞いたジェレミーさんは安心したように笑って立ちあがった。もう帰るみたいだ。ってことは俺も帰るんだよね。俺も立ちあがったらイヴさんは寂しそうにした。


「もう帰るの?」

「あぁ、また来るよ。何か欲しい物はある?」

「そんなの無い。でもお外に出たい。お城の中でもいいの。ここから……」

「……それはまた今度だよ。外の世界は汚い物ばかりさ」


悲しそうなイヴさん。どうして外に出ちゃいけないの?ミッシェルもいつも外に出たいって我侭言ってたけど、お城の中は比較的自由に行動できた。誰の制限も無かった。ご飯やおやつの時間までに戻ってくれば。

でもこの女王様はそれさえも許されない。お城の中を歩くことさえ駄目なの?そんなの可笑しいよ。女王様なんだから、ここは女王様のお城なんでしょ?なんでその中を好きに歩いちゃいけないの?

ジェレミーさんが一体何を考えてるか俺にはさっぱり分からないよ。


「イヴさん、今度ね、一緒にお城探検しよう」

「え?」

「面白い物あるといいね」

「う、うん!」


ほら、イヴさんは嬉しそうに笑う。

でもそれをメリッサさんは気まずそうに、ジェレミーさんはかなり迷惑そうな顔をしてた。

どうしてそんな顔をされなきゃいけないの?確かにジェレミーさん達は外に出したくないって言ってたから、俺のこんな誘いは駄目って思うかもしれないけど、イヴさんは喜んでるじゃん。嬉しそうにしてるじゃん。

なのにどうしてそんな顔をするの?

イヴさんが大切ならイヴさんが笑ってくれたら嬉しいんじゃないの?なんでそんな嫌そうな顔をするの?


ジェレミーさんが俺に出ようと言って来て歩いて行った後を追いかける。

後ろから、約束だよ!って聞こえて、俺も笑って頷いて手を振った。お城の中を探検するって楽しそうだな!

お家から出て、綺麗な庭を前にして黙っていたジェレミーさんが振り返った。その目は少しだけ怒りを宿していて、何だか怖くなって、少しだけ後ずさってしまった。


「王子、我らの事情に口出しはしないでいただきたい。女王に余計な希望は与えないでくれ」

「余計な希望って……だってここは女王様のお城でしょ?ファライアンって女王国でしょ?なんで女王様がお城の外だけじゃなくて、お城の中も歩いちゃいけないの?そんなの可笑しいよ」

「それを貴方が知る必要はない。女王をこの場所から外に出すのは許されない」

「こんな所に閉じ込めてたら駄目だよ。可哀そうだよ!」

「これはファライアンの女王の宿命だ。外の世界に疑問を持たせたらいけない、女王は死ぬまであの場所で過ごすのがファライアンでの女王の生き方なんだ」


何それ……あのお家とこのお庭の中に死ぬまで閉じ込める気なの?そんなのあんまりだよ!

ファライアンの綺麗な港を見ないの?賑わってる市場を見ないままなの?白い壁の綺麗なお家の中に入れないまま死んじゃうの?

そんなのいじめだよ!こんなとこに閉じ込めちゃ駄目だよ!


「こんなの酷いよ……ここは牢獄だよ」

「牢獄よりは設備がいいだろ?箱庭って言ってくれないか?ここの景色は変わらない。いつまでも綺麗な花が咲き誇って、ゆったりとした時間が流れて、外の喧騒とは無縁の世界……理想的だろ?」

「そんな場所、一生いたらつまらないよ」

「……王子には多分一生理解できないよ。それでもいい、王子の理解を俺達は求めてないし、王子の理解も俺達には必要ない。ただ女王をこの場所で守るのが俺達の使命」


そう言ってジェレミーさんは先に歩いて行ってしまった。

残された俺は追いかけるしかできなくて、閉められていく門をただジッと見ていた。

その後、部屋に通されて、心配していたダフネが何かされなかったか?って一杯聞いてきてくれて嬉しかった。これが普通なんだよね。

こうやって心配してくれて、でもちゃんと外に行くのを許してくれる、これが普通なのに……


「ルーシェル、どうしたんだい?」

「なんでもないよライナお姉ちゃん」


本当は何でも無くない。この国に来て正解だったのかな。もしかしなくても俺は利用されてるんだよね。

ファライアンに行けたら何とかなるって思ってた。でも違う、絶対に違う。


ここは可笑しい。



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