23 水の都ファライアン
「ここがファライアンなのか」
4日後、船は無事にファライアンの港に到着した。
そこで降りた奴らは簡単な検査を受けて入国を許可される。検査っつっても世界中に指名手配されてるような奴じゃない限りは入国OKなんだけどな。
23 水の都ファライアン
ファライアンにはバルディナの情報があまり入って無いらしい。まぁファライアンとバルディナは元々仲の悪い国だからな。バルディナは旧体制と言われており、昔の伝統を重んじているが、それと比較してファライアンは新体制と言われ、結構新し物好きで常に何か国を良くする為に色々模索している。
その為、バルディナの少し古くさい考え方がファライアンには余り受けないっつーか、まぁファライアンも伝統は大事にしてるんだけど、バルディナが頭固いって感じで話が合わないらしい。
でもバルディナはそのお陰か知らないけど、情に厚く、裏切らないって言われてたんだけどな……現に30年前のパルチナ南下戦争の時はアルトラントを守ってパルチナと戦ってくれた。それなのにどうしてこんな事になったんだ。
オルヴァーに気付いた検査官達が頭を下げる。それをオルヴァーは軽く手を上げていなし、俺達について来いと促した。
ファライアンは初めて行くけど、水の都と言われているだけあって綺麗な場所だ。穏やかな雰囲気で、白い壁の家は太陽の光に包まれて、明るい街並みを再現しているようだ。港には魚介類の市場が開かれていて、かなり賑わっている。
その人込みを掻い潜って、俺達はオルヴァーの後をついて行った。
それにしてもオルヴァーは第3騎士団の団長のはずだろ?もう少し歓迎モード的な物があってもいいはずなんだけどな。気になってこそっとライナに耳打ちすれば、ライナはそこの情報はちゃんと知っていたらしい、教えてくれた。
「第3騎士団は主に暗殺や密偵を仕事にしてるからね。顔がばれたら危険じゃないか。だからそれぞれ単独で顔を伏せた仕事が多い。戦争でも極力名前が残らない使用に国自体がしてるらしいしね。まぁ所謂縁の下の力持ち的な奴だろうね」
「だから住民は顔を知らないのか……名前自体は有名なんだけどな」
小道を歩いて行くと、次第に大きな城が見えてきた。多分あれがそうなんだろうな。綺麗な城だ。
でもまだまだ城に着くには長そうだ。あちこちに目が泳いでいるルーシェルをがっちりつかんで、俺達はただ黙々とオルヴァーの後をついていった。
そのまま3時間程度歩き続け、何とか城の前まで到着した。
オルヴァーは多分ファライアンの兵士の証なんだろうな、何かの印を見せて俺達を紹介し、門をくぐる。
中は綺麗な花が壁のいたる所に飾られて、綺麗に整理されている。やっぱり綺麗な城だ。
そして俺達は1階の応接室に入れられた。
「ここで暫く待っていてくれ。話を付けて来る」
そう言ってオルヴァーは部屋から出て行った。
召使いが俺達にお茶とお菓子を出してきて、ルーシェルがそれを嬉しそうに食べている。ライナはオーシャンの習慣なのか、そのまま素手で食いものを掴んで食べだした。いや、それは流石に素ではまずいだろ……
突っ込もうとしたけど、ライナが真面目そうな顔でこっちを見てきたから、突っ込めなかった。
「妙に上手く行ったと思わないかいダフネ」
「あぁ、でも本当に謁見出来るならさせてもらいたい。コネは少しでも作るべきだからな。それにルーシェルの国宝石には青の国宝石とあわせて完璧になるって記されてたそうだ」
「青?」
「あぁ、オーシャンの伝承ではファライアンが青なんだろ?それならこれは丁度いい」
「そうだね」
その部屋で1時間程度待たされて、時間はもう昼時か。オルヴァーが部屋に入ってきて移動を促した。もしかして話が通じたのかもしれない。そのまま再びオルヴァーの後をついて行き、辿り着いた先には物々しい扉。それを兵士が開け、中に招き入れられる。
知らず知らず緊張していたらしい、冷や汗が出て来る。
そして開けられた先には大きな青いソファと豪華な机が置かれた部屋に通された。しかしソファには誰も座っておらず、ソファの横に4人の男が立っていただけだった。
「ジェレミー、ランドルフ、ローレンツ議員、デューク議員、連れてきた」
「はいはいご苦労さん」
青色の髪の男がオルヴァーに軽く手を振る。この男の青い髪見た事がある……多分こいつは第2騎士団団長ランドルフ。たしかアルトラント人とファライアン人のハーフだって話を聞いた。だけど生まれも育ちもファライアンだからアルトラントに特別な感情は特に無いらしいけどな。
その横にいる50代くらいの男性がデューク議員……ファライアンの最高評議委員か。すごい貫禄だな。
でも隣のメガネをかけた奴は知らないな。ローレンツって奴らしいけど……こんな国の中心人物が集まってる中、なんだか少し不釣り合いのようにも感じる。
じゃあ残りの茶髪の男が……第1騎士団団長であり軍団長のジェレミー。戦の申し子、軍神の異名をとる男。
でも女王らしき人は見当たらない。やっぱり女王との面会は駄目みたいだ。
とりあえず礼儀に従わなければいけない。俺達は頭を下げて感謝の意を述べた。すると青髪の男、ランドルフは少し機嫌が悪いのか、吐き捨てるように鼻で笑った。
「お前ら助ける訳じゃねぇよ。こっちも国宝石の事を知りたい。王子様がいればそれが分かるんだろ?」
やっぱりオルヴァーが俺達を城に招いてくれたのは国宝石をルーシェルが読めるからなんだろうな。
その癖、俺達には国宝石が危険だって言ってくるし、訳が分からない。まぁそんな危険な物をルーシェルに使わせる訳にはいかないんだけどな。
ランドルフの乱暴な物言いをデュークがいさめて、俺達に改めて挨拶をした。
「ランドルフ、礼儀を弁えろ。ランドルフが御見苦しい真似を。お初にお目にかかります王子様御一行。私はデューク、この男がランドルフで、彼がジェレミー、私の隣にいるのがローレンツ。今回のアルトラントの件は心中お察しいたします」
社交辞令を踏まえて頭を下げて来るデュークにもう1度俺達も頭を下げる。でもルーシェルは今か今かと話が切り出されるのを待ってるようだ。
でも中々向こうから会話を振ってこない事に痺れを切らせて一歩前に出た。
「俺ね、皆を助けたいんだ。力を貸してほしいんだ」
「ルーシェル」
「その事でこちらも提案がある」
ジェレミーが一歩前に踏み出した。一体何を言うつもりなんだろうか。
「バルディナの動きは察知している。かの国には牽制が必要だ。バルディナに包囲網を敷き、圧力をかける為に、エデン、オーシャン、ヴァシュタン、そしてパルチナ、この国達と同盟を結びたい。それに協力してくれれば、君達の願いもある程度叶うはずだ」
「つまり俺達にその役目を?」
「あぁ、いま俺たちも手が離せなくてね。まぁまずは女王の許可を得なければならないが……ルーシェル王子、貴方だけを女王の部屋に案内する」
ルーシェルだけを!?
オーシャンでルーシェルを1人にさせた事で誘拐事件が起こった。しかもここは言ってみれば敵国、ルーシェルを奪われたら取り返せない。ルーシェルを行かせる訳にはいかない。
警戒心がむき出しになっていたのか、ジェレミーがつけ足した。
「我らはルーシェル王子に危害を加えるつもりはない。だが女王を必要以上に表には出せない。了承していただかなければご引き取り願うしかない」
こんなの選択肢なんかねぇじゃねぇか!
ライナもここは言う事を聞くべきだって言ってる。確かに話がスムーズに進むにはそうなんだろう、でも……俺はルーシェルを守らなきゃいけないんだ。
でもルーシェルは俺の手を放して前に出た。
「ルーシェル?」
「大丈夫だよ。俺行ってくる」
「では王子、俺の後を」
止める間もなく、ルーシェルはジェレミーに引き連れられて歩いて行ってしまった。俺達はその間、ここで待つしかないんだろうか。嫌な空気が漂う、付いて行きたい。くそっ!なんで女王を人前に出せないんだよ!これじゃお飾りと一緒じゃないか!
「女王はこれじゃただのお飾りだね。本当に存在してるんだろうね?」
ライナの場をわきまえない痛烈な一言に室内が凍りついた。
慌てて口を塞ごうとしたが、ライナは今の状態が不満らしい、もう1度お飾りだと強調した。
それに笑って答えたのはランドルフだった。
「ははは!そうだな、女王陛下はお飾りだよ。それは認める、だがあの方を表に出しちゃいけねぇんだよ」
「どうしてだい?」
「善悪を区別できないから。俺達が箱庭の中で大事に大事に壊れものを扱うかのように育てたからな。他人の悪意も善意も分からない」
「ランドルフ、それ以上は言うべきではない」
メガネの男、ローレンツに釘を刺され、ランドルフはわざとらしく大げさにリアクションして口を閉じた。でもそれはこいつらのせいじゃないか。そんなのでお飾りなんて言われたら女王陛下が可哀そうだ。
こいつらは女王を閉じ込めて陰で国を牛耳ってるだけなんじゃないのか?だとしたら悪いのは間違いなくこいつらだ。女王は被害者じゃないか。
納得がいかないライナにオルヴァーが釘を刺した。
「この国の事情は誰にも話す事は出来ない。まぁ心配せずとも王子に女王が御話なされるはずだ」
「だからどういう意味だって言ってるんだよ」
「よそ者のあんた達ならいずれ分かる。城の中、国民を見ていたら嫌でもな……」
よそ者ならいずれ分かる?その言い方じゃ国民は皆判ってないとでも言いたいんだろうか。少しふざけすぎてないか?女王を表に出さず、議会と騎士団が国を牛耳り、更に不仲とまで言われている。
可笑しい、この国はどこか可笑しい。アルトラントの様な国じゃない。他国だから情報があまり入ってこないから知らなかったけど、この国は俺が思っている以上に何らかの事情があるみたいだ。
そしてこいつらは女王を一体どうしてるんだ?ライナから聞いたクーデターの件と関係があるのか?
何とも思わないのか?デューク議員も表情を変えず、ローレンツもランドルフとオルヴァーを止める事をしない。実際、女王は騎士団によって幽閉されているのか?何も分からないし、向こうも教えてくる気は全くない。
とてつもない焦燥感が襲いかかる。ルーシェルは大丈夫なんだろうか、あいつに何かされてないだろうか。
そして俺は知る時が来る。
この国の女王に課せられた辛い使命を。
「すぐに分かるさ。この国がどれだけ異常で、どれだけ脆いかって事をな」