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神様の椅子  作者: *amin*
二章
22/64

22 ファライアン第3騎士団団長オルヴァー

「動くな。動いたらうっかり脳天ぶち抜いちゃうかもしれないからね」


クスクス笑っているヒルダは見た事の無い武器、銃を突きつけている。

あれがザイナスがひたすらに表に出さない武器……あのお陰でバルディナからの実効支配を免れ、独立国の地位を確立させた。



22 ファライアン第3騎士団団長 オルヴァー



ジリジリ近づいて来るヒルダに俺達は一歩一歩後退するけど、ついに壁に背中がついて逃げ場所を失う。

ルーシェルはその場に座り込み、ライナも冷や汗をかいている。どうするべきなんだ!

でもその時、間抜けなコンコンと言う扉を叩く音が聞こえた。

勿論そんな物にヒルダが応じる訳がない。シカトをしてたけど、ノックはしつこくなっている。


「ちっ……しつこいな。おいお前」

「あたしかい?」

「さっさと出ろ、追い出してこい。だが私の視界に入らない角度に向かったら撃ち殺す」


ヒルダは俺に銃を突き付けたままライナに出ろと促した。

ライナも俺とルーシェルを人質に取られたら逆らう訳にもいかないらしい、悔しそうに扉に手をかけた。

そのままお前だけでも逃げろ!ルーシェルだけだったら俺1人で何とかなるかもしれない。

相打ちと言ったら聞こえは悪いが、この女1人倒すぐらいはっ!

ライナが扉を開けた瞬間、何が起こったか分からなかった。


ヒルダの持っていた銃が飛んできたナイフに弾き飛ばされ、地面に落ちた。

何が何だか分からなかったけど、とりあえずこのチャンスを逃す手は無い。俺は無防備になったヒルダに飛びかかった。

ヒルダはナイフを持って抵抗したけど、そこはもう1人加勢してくれたお陰で何とかなった。


「ハインツさん!」

「やれやれ……レオンから物騒な奴が船にいるって聞いてたけどな」


どうやらハインツさんはレオンから情報を聞いていたようだ。そのままヒルダを組み敷いて溜め息をついた。

でもなんだってハインツさんが……

ヒルダは悔しそうにハインツさんを睨みつける。


「なんだよ!あたしの邪魔しやがって!」

「おいおい、ここはファライアンの領海だぞ。ザイナスの暴挙を許す訳ねぇだろうが」

「何者だ!?」

「俺はオルヴァー、まぁ名を知ったとこで意味ねぇだろうけどな。でもこれは貰っとくぜ。ザイナスの技術研究を調べるのにいい機会だ」


ハインツさんはヒルダから銃を取り上げた。これで少しは安心だ。

でも良く考えろ、ハインツって名前は偽名でオルヴァーが本名だった。オルヴァーって言ったらファライアンの第3騎士団の団長の名前じゃないか!レオンが言ってたハインツに頼れってこの事だったのか……!?

呆気に取られている俺とライナの横でハインツさん改めオルヴァーは銃をしげしげと眺めている。


「なんか良くわかんねぇ作りだなぁ。とりあえず研究所に回せばいいか。コピーして量産出来りゃこっちのもんだぜ」

「あの……」

「あぁ、驚かせて悪かったな。ザイナスやバルディナがファライアンにスパイ送ってるのは知っててよぉ、それの駆除に走り回ってた所なんだよ」


あっさりと言われけど、まさかお忍びでそんな事をして回ってるなんて思わない。こんな所でファライアン騎士団、別名女王騎士団に会えるなんて思ってなかった。

ヒルダを連れていこうとしたオルヴァーさんに俺は勇気を持って話しかけた。


「あのっ!後でお話があるんですが……」

「あぁ?いいよ聞こう。少し待ってくれ、何やら訳ありのようだ」


よし、なんとか話を聞いてもらえそうだ。ここで上手い事言ってファライアンに力を貸してもらうしかない。それにしてもこう言っちゃなんだけど運がいい。もしかしたら女王の謁見が許されるかもしれない。そんなチャンス滅多にないはずだ。

オルヴァーはヒルダをきっちり縄で縛り、そのまま受け渡すと言って出て行った。それがすんだら戻ってきてくれるだろう。そこから交渉開始だ。


しばらくしてオルヴァーが再びドアをノックして入ってきた。

ルーシェルは緊張の糸がとれたのか、その場でベッドに横になってたし、ライナもかなり参った様だ。

命がいくつあっても足りないとぼやかれた。

オルヴァーは机に備え付けられていた椅子に腰かけ話を聞く体制をとる。どうやら俺達自身には全く興味が無いらしい、何も聞いては来ない。

このままでは埒が明かないので、俺は思い切って先陣を踏み切った。


「俺達はアルトラントの人間です。バルディナの侵略で落ちたアルトラントから国外逃亡を図っている途中でした。この御方は第2王子ルーシェル様です」

「……一応驚いておこうか。王子は見ない顔だが女神像の刻印の指輪、本物みたいだな。第2王子は公務には大抵ついて回られなかったから顔は知らなかったんだが、それを抜きで1国の王子にとんだ無礼を働いた」


頭を下げたオルヴァーに慌ててしまった。こんな事を言わせたい訳じゃないんだけどな。

顔を上げてくれと言ったら、オルヴァーは顔を上げて、再び話を聞く体制をとる。

どこから話せばいいんだろうか、あまり良く分からないけど、でも単刀直入で言うのが一番分かりやすいんだろうか。

グルグル頭が回り、口から出てきた言葉はストレート以外の何物でもない。


「そのっ……できれば力を貸していただきたいんです!」

「俺に?」

「えっとオルヴァーさんもそうですけど、ファライアン自体に」

「……それは女王の意志を聞かなければいけない。俺個人で決めれる判断じゃないからな。あんたが言うには守ってほしいって事だろ?」


間違っては無いんだけど、少し違う。俺達はバルディナと戦うのに協力してほしいんだ。

でもそんなのいきなり言われてOKな訳もないし、下手な事言ったらファライアンへの入国すら許可されないだろう。

ここは頷いておいた方がいいのか?


「自国の問題をファライアンに持ち込まれては困る。こちらもパルチナとバルディナとの睨み合いが続いてる。下手な事をして後ろから打たれたくないんでね」

「それは……」

「帰る場所が無くてファライアンの国民になるのならば、それなりの手引きはしよう。相手は王子様だからな。だが女王への謁見は許されない」

「なっ……どうしてですか?ルーシェル、いや王子が面会を望んでも?」

「駄目だ。あんたも知ってるだろう?ファライアンは女王を表には出さない。それはこちら側の事情でそうやっているんだ」


確かにファライアンの女王の姿を見た事のある奴はいない。国際会議でも代理の総司令官や最高評議委員、軍師とかがいつも出席してる。

女王の姿を自国民でさえ見た事が無いと言う奴だっているんだ。

その余りにも表に出て回らない事から鉄の女王、そう言われている。鉄のカーテンに守られているかのごとく、姿を現さないからだ。

その時、ルーシェルがカバンから国宝石を取り出してオルヴァーに見せた。


「ルーシェル王子?」

「これね、国宝石なんだよ。俺ね、これの文字が読めるんだ」

「……それは存じ上げております。レオンからその話は聞いていました」

「そうなの?」

「はい、バルディナはビアナに王子の引き渡しを要求していました。イグレシアの片腕として優秀なレオンはその情報を極秘で知っていましたから」


レオンはじゃあ本当に俺達を見逃してくれたのか?でもどうして……ビアナには何のメリットもないはずなのに。


「ルーシェル王子、国宝石を持ちだしてファライアンをどうなさるおつもりなのです?」

「あのね、俺達ゲーティアが欲しいんだ。それで皆を助けるんだ」


ルーシェルの言葉にオルヴァーの目の色が変わった。

やっぱり知ってるんだな、ゲーティアの存在を。俺達は危険因子って思われたのかな。

オルヴァーは首を振って、ルーシェルを制止させた。


「王子、それはおやめ下さい。ゲーティアに選ばれた者は確かに英雄になれましょう。しかし強力な力にはそれ相応の代償があります。その代償はあまりにも重い」

「代償……それってこれに書いてるのと同じ事なの?」

「王子がそう仰られるのならば、そうなのかもしれません」

「オルヴァーさん、あんたは何を知ってるんだい?」

「……それは言うことはできない。俺たちファライアンも今現在ゲーティアを探してる。探すことには協力できるが、それを受け継ぐのはやめた方がいい」


そんな話は知らない。だって聞かせてもらった事が無いから。でもルーシェルが言っていた。緑の国宝石は他者を癒し、緑を削ると……あれは何を意味してるんだ。

それにしても話がおかしくないか?ファライアンはゲーティアを探してるんだろ、それなのに受け継ぐのは止めろだなんて、自分達の欲望が丸見えじゃないか。


「ファライアンはゲーティアをどうするつもりなんですか?」

「……呪いを解くためだ。それ以上は言えない」


呪い?それは一体どういう事だ?ゲーティアを手に入れたら、その呪いってのが解けるとでも言うのか。

オルヴァーはルーシェルの手に国宝石を握らせた。


「ルーシェル様、この国宝石の魔力は強大ですがご自身にかかる負担も大き過ぎる。その代償に後悔する時は必ず来る」

「……」

「今一度、お考え直して下さいませ」


ゲーティアの件は手伝ってくれそうだけど、それは根本的な解決にならない。

このまま逃げ続けても埒が明かない。現にこっちは既に選択肢がなくなりかけてるんだ。ファライアンしか選択肢が残されていない。


「俺平気だよ。だから手伝って」

「王子?」

「俺、どんな事にも耐えるって決めた。命をかけて俺を守ってくれたクラウシェル達やパパとママを助ける為ならどんな事だってする。皆が死んじゃうかもしれないんだ……どんな事でもするから、だから話だけでも聞いてよ!」


ルーシェルはもしかしたら俺より強いのかもしれない。その目は凛としており、微塵も後悔等は感じ取れない。

オルヴァーはそんなルーシェルを見て、何かを思ったのか、態度を変えた。


「ダフネって言ったか。ファライアンについたら城に案内しよう。女王は無理かもしれないが、軍団長の謁見は交渉してやる」

「え?いいんですか!?」

「あぁ」


オルヴァーはそのまま部屋を出ていってしまったけど、良かった……上手く行ったんだ。

何がそうさせたのかは分からないが、とりあえず胸をなで下ろした。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「随分ころっと態度を変えたね。どう言うつもりだい?」

「なんだあんたは」

「あたしはライナ、オーシャン一族の人間だ」

「オーシャン民族か、姿は初めて見たな……別にどう言うつもりはない。世界は今光を求めてる、ルーシェル王子はその光に相応しい、そう思ったまでだ」


オルヴァーの言い方が妙につっかえを感じる。こいつはまさかルーシェルを……


「まさか……あの子を英雄に祭り立てる気じゃないだろうね」

「そうかもしれないな。だが彼の力が無ければ女王を救う事が出来ない」

「女王……ファライアンのかい?」

「あぁ、鳥かごにとらわれた哀れな我らの女王さ。彼女を救う為ならば、どんな事でもするさ」



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