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神様の椅子  作者: *amin*
一章
2/64

2 城と愉快な仲間達

「ねぇ駒使い、おなか減った!お菓子持って来なさいよ!」

「駒使い、この公式の意味を教えてくれ。公式だからという理由は無しだ。なぜこの公式になるのかを教えるんだ」

「ダフネー遊んでー」

「少しは静かにしろよお前らっ!」



2 城と愉快な仲間達



「ダフネ様、今はお時間ありますでしょうか?」

「あ、はい。大丈夫です」


生意気な王子クラウシェルの勉強を見て、やっと解放されたと思ったら今度は食い意地張ったお姫様ミッシェルの為にお菓子を調達して、それが終わったら今度はルーシェルの遊び相手。

正直クタクタだ。ハッキリ言って既に辞表を出したいくらい。

今から姫と王子は3人で部屋にこもってお昼寝タイムだ。やっと俺もあの悪魔たちから解放される!そう思ったけど、同じお世話係のセラに話しかけられて、俺は足を止めた。

でもセラが話しかけてきたんだから断る訳にもいかず、頷いた俺にセラは相変わらずの無表情で俺に城内の地図を渡してきた。


「あの、これは?」

「これから関わる事も出てくるでしょうから城の者たちを紹介しておこうと思いました」


城の者……そう言えば勤めてから一週間、そう言うのは全く出会わなかったな。

使用人の人と会話するだけだったし、料理人に食事の事を聞くのかと思えば、食事についてはセラがやってくれてるみたいだから俺がする事ないし。

勉強する家庭教師の人達は派遣の人だから城の人間じゃないし。そう考えれば、まだ城にすみついてる使用人以外の人達とは会った事ないな。


「俺なんかがいいんですか?俺はただの世話係ですよ」

「軍の者や宰相達への挨拶は許可されていません。なので今回は一部の者となりますが……」

「そうですか、分かりました。でも軍団長と評議委員長にはあった事ありますよ」

「なぜですか?謁見が許可されていましたか?」

「いやールーシェルが……」

「それで分かりました。さぁ回りましょう。少々癖の強い者たちですが、根はいい者達です。それだけを先に申しておきます」


……あの3人と国王よりもアクが強い奴がいるって言うのか。

なんだか会うのが怖くなってきた……


最初に連れていかれた場所は食堂だった。今がちょうど15時のせいなのか、お茶をしてる者たちが結構いる。

セラはその人達に頭を下げて厨房の方に入っていってしまった。

慌ててついて行けば、中では数人のコックたちが料理を作っている。


「すみません。コラッドはいますか?」

「あぁ、ファイアーマンかい?ちょっと待っててくれ。おーいバイ菌マン!客だぞ!」


ファイアーマンなのかバイ菌マンなのかどっちなんだ。

思わず突っ込みを入れそうになったのをグッとこらえて、俺はそのファイアーマンとやらが来るのを待った。

暫くすると置くからはげ頭のガタイのいいおっさんがやって来た。あぁ確かにファイアーマンぽい。

おっさんは俺達を見て豪快に笑った。


「よぉセラ嬢ちゃん!相変わらずお人形だな!今日はどう言った御用でい!?」

「今日は新しく世話係に就任されたダフネ様を案内させていただいております」

「ん?おぉ!あの奴隷よりも辛いと言われる王子と姫のお相手かい!?大変だねぇ!」


……やっぱ城内でもあの3人は悪い意味で有名なようだ。

でもおっさんは愛想がいい様で、ニコニコしながら俺に手を差し出した。


「まぁよろしくな!俺はコラッド!王子や国王の飯を作ってる者だ!」

「あ、はい。よろしくお願い……」


そう言って手を出そうとした俺をセラが阻止した。


「え、セラ?」

「貴方、今日はちゃんと手は洗っているのでしょうね?」


は?手を洗ってる?

コック達にドッと笑い声が広がり、凄く恥ずかしくなってくる。

なに当たり前の事を聞いてんだよ。コックが手を洗うなんて当然じゃねぇか!めっちゃ感じ悪いと思われたらどうすんだよ!

その時、そばかすのある黒髪のおかっぱ頭の女が何かのスプレーをおっさんの全身に吹きかけた。


「まぁたトイレの後に手を洗わなかったわね!貴様今度という今度は許さん!これで浄化してやるわ!!」

「はっはっは!いい香りだなぁ!ラベンダーかい!?」


な、何だこの会話は……

呆気にとられている俺の横でセラが真顔で解説を入れていく。


「コラッドは炎を自在に操る様な華麗な調理姿からファイアーマン、しかしトイレの後に手を洗わない、風呂に入らない等の行動をする事からバイ菌マンとも言われています」

「コックなのに手を洗わないのか!?」

「おいおい勘違いしないでくれ!手を洗わない方がダシが……「黙れ!!」


完全な喧嘩になってきた所でセラは俺を連れて避難。厨房を出た。

あぁ頭が痛い。この城にはこんな奴しかいないのか?

そんな事をうんぬん考えていると、セラが今度連れて行った場所は庭だった。綺麗な庭には沢山の花が咲いている。

そんな中に草を切っている青年と老人の姿。


「じゃからそこは逆の角度から切るんじゃ!繊維にそるんじゃ!」

「……」

「なぜわからん!じゃからそこは……「だぁ―――!うるせぇうるせぇうるせぇ!!好きに切らせろ隠居しろ!そのままくたばれ――!!!」


青年と老人の喧嘩がそのまま始まってしまった。

あの2人は?と聞けば、相変わらずの無表情でセラは庭師だと答えた。


「老人の方がヤコブリーナス、その孫のジェイクリーナス。正式な城の庭師はヤコブリーナスなのですが、見た通り老齢です。彼は一刻も早く孫のジェイクリーナスに庭師としてのスキルを積んでもらいたいみたいですが、ジェイクリーナスからしてみれば、もう少し自分の好きに切らせてほしいと思っているみたいで、良くあの様に衝突しています」


まぁお互いの言い分も分からなくもないけど……爺さんの方はメチャクチャ細かく切り方を指摘してる。

確かにあんなガミガミ言われたら、キレたくなるのも分かる。

セラが挨拶しに行こうって言ったから、俺はセラの後をついて行った。


「精が出てますね。ヤコブリーナス、ジェイクリーナス」

「おぉセラ嬢ちゃんかい。こいつは才能がない。草木の気持ちをちっとも分かっちょらん」

「だーかーらー1回でいいから好きに切らせろって!ジジイは俺を馬鹿にしすぎだろ!」

「お前なんぞに任せちょったら庭が滅茶苦茶になるわい!」

「んだとー!?」


再び喧嘩を始め出した2人をセラがまた止める。


「止めなさい、今日は彼を紹介しに来ました。彼はダフネ、王子たちと姫の新たな御世話係です」

「ど、どうも……」

「なんじゃまたか」

「あんたは何日で辞めんだろうな。最高記録2カ月だっけ?」

「3か月じゃ」


……もしかしてそれって今までの御世話係の事か?

俺の前の奴らはそんなすぐに辞めていくって言うのか。確かに料理人のおっさんも奴隷より辛いとか言ってたし。

俺もうぶっちゃけ1週間働いただけなのに辞めたいって思うし……


「……どう言う事だよ」

「なんだよ、あんた何も知らずに就職したのか?馬鹿だねぇ。王子と姫の御世話係なんて給料は確かにいいけど、それ以上に割に合わない重労働だから誰もしたがらないんだよ。あんたも求人情報見て決めたんだろ?」


確かに……城で働く奴らははっきり言ってエリートだ。俺みたいな田舎の士官学校を落第ギリギリで卒業した奴が入れるはずがない。

給料がいいのと、城って言うのにつられて決まった時には奇跡だと思ってた。

まさかただ単に俺以外に就職希望者がいなかっただけ……?


「ははは!姫は我侭し放題だし、グルメだから変なの出したら顔に食いものめり込んでくるし、第1王子は頭がいいから勉強教えるのも大変だしな。性格も理屈っぽくて嫌みだし、第2王子は甘えたがりだから仕事できないくらいに張り付いて来るし泣いたら泣きやまないって話だ。そんな小悪魔3人に24時間囲まれる生活耐えれる訳ないだろ。ほとんどがノイローゼ起こして辞めて行ったよ。まぁ今回は3カ月越してくれよ。他の奴らと賭けてんだよ」


賭け事にするな!

でもそれにしてもヤバい。そんな事全く知らずに就職してしまった。

このままノイローゼで辞めて実家に帰るなんて恥ずかしいし、したくない。親父やお袋だって俺が城に就職した事喜んでるんだ。

そんなみっともない真似だけはできない。

悩んでいる俺を放っておいて、セラは2人と何か話をしている。


「マリアとミリアは今門の所にいるのでしょうか?」

「さぁのぉ。あいつらの適当さは城の者も呆れちょるわい。そこら辺の男を引っ掛けちょるかもしれんなぁ」

「ぜってーそうだろ。あの2人は怖いし関わりたくねぇや」

「ありがとうございます。行きますよダフネ、次はこの国の門番のマリアとミリアに会いに行きます」


門番、ねぇ……つか俺門番会った事あるし。マリアとミリアって言うんだな。

可愛い子が門番してるなぁって城の就職面接会の時に思ったもんだ。でもヤコブリーナスとジェイクリーナスの話を聞いてると、やっぱりろくでもないって事が分かった。

セラの後を歩いて巨大な城の門の前を歩いていると、ピンクの髪の少女と緑糸の髪の少女がキャーキャー2人で騒いでる。

間違いない、俺は就職面接会の時に見た子達だ。


「マリア、ミリア」


セラが名前を呼ぶと2人が振り返る。こうやって見ると、双子みたいだけど聞いた話によると全く血の繋がってない赤の他人って言うから驚きだ。

2人はセラに手を振った後、俺に視線を寄こしてヒソヒソ話し始める。

え、俺何かした?


「ねぇあれじゃない?今回の御世話係」

「うっそー!まぁじ?や~ん格好いい!あたしも御世話してもらいたぁい!」

「あんたジュリアンはどうなったのよ」

「えー?昨日の彼の事なんて忘れた~今はこっち!」


あの、聞こえてるんですけど。

マリアとミリアは俺を囲んでマジマジと見つめて来る。完全に仕事ほっぽり出してるし……いいのかこれ。

セラは止めることなく2人が落ち着くの待ってるし。

キャーキャーステレオで声が響いて耳が痛かったけど、俺もセラと同じ落ち着くのを待った。

5分ぐらい待ったら2人は落ち着いたのか、自らの自己紹介を始めた。

ピンク色の髪の方がミリアで緑色の髪がマリアらしい。名前までそっくりだよな。


「マジ御世話頑張ってね。疲れたらいつでも言って。あたしが介抱してあげる」

「ずるいマリア!あたしもいつでも頼ってきていいわよ。門番よりも楽しそう」

「その前に仕事しろよ」

「や~ん怒られた!だって門番なんてしてたって誰も来ないし、ぶっちゃけ仕事ないよねー」

「ねー!マリア、この後街に行こうよ。門番はジュリアンとロットに任せればいくない?」

「それいいー!いこいこ!」


……給料泥棒だ。

完全に盛り上がった2人は俺をほっぽいて会話に花を咲かせている。これはもう帰った方がいいのか?


「行きましょうダフネ」

「そ、そうだな」


2人は俺達が歩いて行くのすら気付かないらしく、挨拶も聞こえて来なかった。

それにしてもここはまともな人間がいないように感じる。あ、セラはまだまともか?

でもコラッドは料理人の癖に手を洗わないし、ヤコブリーナスとジェイクリーナスも人前であんな喧嘩始めるし、マリアとミリアは既に論外だ。


「なぁマリアとミリアってあれでいいのか?見張り変えた方がいいんじゃない?」

「マリアとミリアは代々城の門番として仕える家系です。御家柄もありますし……あの2人はあぁ見えますが、戦えばそこら辺の剣士よりずっと強いですしね」


あぁ、確かにスピアと剣持ってたな。強いって言うんなら今度手合わせ願おうかな。

セラの後をついて行きながらぼんやり考えていると、どこかの部屋に辿り着いた。

中からは野太い声が聞こえて来る。


「ここは?」

「宮廷画家と宮廷音楽家の部屋です。あそこで絵を描いているのが宮廷画家のイワコフです」


奥の方の隅っこに画材に埋もれてる小汚いおっさんがいる。絵を描いている時は話しかけても答えないってセラに言われたから、俺は話しかけることなく後ろに回り込んで絵を覗き見た。

うっ!これは、これで個性的なっ!

良く言えば独創的、悪く言えば下手糞な絵を描いている。

これに芸術的センスを見いだせる奴はマジでプロだな。うん。


「やぁセラさん、相変わらず麗しい。僕の歌声を聴きに来たのですか?」

「いいえ、今日は新たな御世話係を連れてきただけです」


イワコフの絵を覗いている間にセラの前に青色の長髪の男が立っていた。

大胆に胸元を開けてセクシーアピールをしてるそいつは気持ち悪い。鳥肌が立ってしまった。

セラは相変わらずの無表情だが、迷惑そうなオーラが漂っている。

そのままセラに紹介されれば、そいつは嫌そうな顔をした。


「男か。この城に私以外の男はいらないよ」

「なんだお前いきなり」

「なんだじゃない!美しい男は1人でいいと言う事さ!それなのに……おぉ!」


やっぱ変な奴だ。本当にこの城にまともな奴はいない。

しかもこいつかなりナルシーだ。


「その様な事を仰って自惚れているから、マリアとミリアに貢がされるのですよ」

「何を言ってるんだい。美しい女性の頼みは断れない。勿論セラ、君もね」

「お気持ちだけ頂戴しときます」

「つれないなぁ……おいお前、私のセラに何かしたら許さないぞ!」

「おめーと一緒にすんな!」


なんなんだこいつマジきもい上にうざいぞ!

男は自分をミカエリスと名乗り、この城1番の音楽家だと自負した。

本当かどうか知らないが、早く会話を終わらせたかったから適当に頷いて、セラと逃げるようにその場を去った。


「マジでまともな奴いないな」

「直に慣れます」

「あ、でもあんたはまともだよ。あんたがいてくれて良かったよ」


そう言えばセラが少し驚いた表情をした。

ここに勤めて1週間、毎日セラを顔を合わせるが、セラの表情の変化を初めて見た。

その後セラは少しだけ笑みを浮かべた。


「お気持ちだけ頂戴しときます」

「なぁ笑った方が可愛いよ。もっと笑えよ」

「笑いたい時に笑います」

「つれないねぇ」


まぁいいや、一瞬だけだし、小さな変化だったけど笑った顔を見れたから。

そしてそれを可愛いと思った自分が確かにいたから。



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