表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様の椅子  作者: *amin*
二章
18/64

18 誘拐されたルーシェル

「放せぇ!ダフネの所に返せぇ!」

「うるさい黙ってろ!お前をバルディナに引き渡す。その見返りにバルディナにオーシャン侵攻をさせないように約束させるんだ!そうしたら今までの様に行けるっ」

「ダフネッ!ダフネェ!!」



18 誘拐されたルーシェル



「ライナ!入江って俺達が入った所か!?」

「いや、恐らく別の場所だ。カーシーの船はここから東に向かった入江だ。ドリン!ルーシェルをカーシーから守るんだ。お前には辛いだろうけどやってくれ」

「ルーシェル!ルーシェル!」


ドリンが大きな声でルーシェルの名前を呼び、上空に飛び立った。

多分ドリンの方が先にカーシー達を見つけるだろう。ドリンがルーシェルを止めてくれればいい。

船で海に出られたら探すのが困難になる。そんな事になったら本当にお終いだ!

祖国奪還を果たすどころか、俺のせいでこんな事態になってしまった!


「ダフネ、悪いね。うちの兄貴がとんでもない事をしたよ」

「……もし反抗したら俺はあいつを殺しちまうかもしれねぇ」

「あんたにはその権利がある。好きにすればいいさ。でもあたしはオーシャン民族として、カーシーの妹としてあんたを止めるけどね」


やっぱりお前はあいつの味方かよ。まぁそれは仕方がない事だ。家族の命がかかってたら助けるのは当然だ。

でもそれは俺も同じ。ルーシェルの命がかかってる。カーシーを殺してでも止めなきゃいけない。

走り続けて20分ぐらいが経過した時、森が開けてきた。この先が多分入江なんだろう。

そして次第に子どもの声と片言の声、そして男の怒声が聞こえてきた。


「くそっ!ドリン、俺が分からないのか!?」

「放セ!カーシー、ルーシェル放セ!」

「あやややや!落ちるぅ~~!!」


入江についた俺達の前には小さなボートに乗って海に出ているカーシーがいた。

でもまだ沖には出れていない。ドリンに邪魔されて小さなボートは危なく揺れている。転覆するんじゃないか!?


「間にあったね。この入江にダナシュ族の船全てを船舶させるのは無理だから、ボートで自分の船まで漕いで行かなきゃいけないのさ。あたしらも追いかけよう!」


ライナは近くにあったボートに手をかけて岸に繋いである紐をほどいた。

動きだしたボートに俺も慌てて飛び乗り、ルーシェル達の元に向かう。

ボートはカヌーの様に手動なのでライナがやってくれてるが、やろうかと言われたら断られた。素人は上手くできないからって。まぁそれはいい。それよりもルーシェルだ!

ドリンの攻撃を受けてよろめいているカーシーのお陰でボートは完全に傾いている。ルーシェルも必死にボートにつかまってるけど、多分もう持たないだろう。

そしてカーシーがボートから落ちて、その衝撃でボートが転覆してルーシェルも落ちた。


「ルーシェル!」

「ダヒュネ~」


ルーシェルは必死になって俺の所に泳いでこようとするけど、そのルーシェルの腕をカーシーが掴む。

でもドリンがそれを邪魔して、カーシーの顔にキックを喰らわす。そしてカーシーの腕から逃れたルーシェルがつたない泳ぎ方でこっちに向かってきた。

居ても立ってもいられなくて、俺も海に飛び込んでルーシェルの所に泳いで遂に捕まえた。途方もない安心感が包み、ルーシェルを抱きしめて、そのままライナのボートまで泳いだ。


「くそっ!ライナてめぇ!」

「カーシー、あたしは情けないよ。あんたはこんなくだらない事する人間になり下がっちまったんだね……助けはしないよ。オーシャン民族なら自力で入江まで辿り着きな。さぁ戻ろう、王子様もダフネもびしょ濡れだ。風呂に入るといい」


ルーシェルはジッとカーシーを眺めていた。

あんな奴に視線を送る必要なんてないと思うのに。ルーシェルは少し悲しそうな顔でカーシーを見ていた。


「あの人、怖い人だけど可哀そうな人だね」

「ルーシェル?」

「外に出るのが怖いって。外に出て行った仲間が殺されるのを考えたくないって」


カーシーはトラウマになってるんだ。始めて外に出た時に父親が殺された事を。

それは仕方がない。俺だってそんな目に遭えば外に出るのが怖くなってしまうはずだ。

でもそれを乗り越えなきゃ先に進めない。ライナだってそれを乗り越えたんだ。カーシーだってきっとできるはずだ。

集落に戻るまで、ライナは一言も言葉を発さなかった。


集落に戻った俺とルーシェルは服を洗って一緒に風呂に入った。

海に落ちたからびしょ濡れだけど、オーシャンは熱帯気候だ。少し蒸し暑い今は濡れても風邪を引く事は無いだろう。

ルーシェルも寒がる事は無いけど、初めて海に落ちたんだ。海の水が辛い辛い言っていた。


「ねぇダフネ、何で海の水は辛いの?」

「塩が入ってるからだよ」

「誰がいれたの?」

「……誰だろうなぁ」

「神様かなぁ?神様が海にお塩まいたのかな」

「どうだろうな」


中々難しい事聞いて来るな。でも子供の好奇心はそんな物だろう。適当に誤魔化してもルーシェルは真剣に考え込んでしまった。

風呂からあがってライナのおばさんが用意してくれた着替えに袖を通して部屋に向かったらライナが立っていた。

ライナは畏まって俺達に頭を下げる。


「カーシーが申し訳ない事をした。王子を巻き込むなんて謝って済む問題じゃないけど」

「俺怒ってないよ。あの人の事」


ルーシェルのあっさりした回答にライナは少し驚いていた。

そりゃそうだ。誘拐犯を怒ってないって言われるとは思ってなかっただろう。


「王子様、いいのかい?」

「だってダフネが助けてくれたもん。ライナお姉ちゃんのお兄ちゃんなら悪い人じゃないよ」

「……優しいね、本当に。ありがとう」


ルーシェルは笑って俺の手を引いて部屋に行こうと促してくる。

こいつは本気で言ってるのか?多分何も考えてないんだろうけど。子ども特有の無邪気さって奴だろうか?

今度はルーシェルを1人にしない為にも俺は一緒に部屋に戻る事にした。


「聞いたかいカーシー」

「……あぁ」

「これでもまだやるのかい?」

「やらねぇよ。もう」

「そうかい」


もう夜の2時だ。ルーシェルは眠かったらしく、すぐに眠ってしまった。かく言う俺も猛烈に眠い。さっさと寝よう。

そう思った時に部屋の扉がノックされた。

開けた先にはライナの姿。


「なんだよライナ」

「マイアが船を用意してくれる。明日にでもビアナに出向できるだろう。いつでも準備ができた時に声をかけてほしいと言っていた」

「そっか。助かる」


ライナとはこれでお別れだな。

ライナがいてくれたから国外に出て来れたんだ。感謝してもしきれないだろう。


「ビアナまではオーシャンから船で4日程度かかる。まぁそれなりにでかい船を用意してくれるみたいだからベッドとかもちゃんとしたのがあるだろうけどね」

「4日か……ルーシェルが愚図りそうだな」

「そこは御世話係の腕の見せ所だろう」

「さいですか」


ライナに改めて礼を言おうとしたけど、ライナはすぐにお休みと言って扉を閉めてしまった。

まぁいいか。明日また会えるんだし、礼は明日でいいか。ついにビアナに行けるな。そこから船でファライアンに向かおう。

そのままオーシャンからファライアンに出来れば向かいたいけど、ファライアンは入国してくる船を検査している。

何の許可もとってないオーシャンの船を港に停泊させる事は出来ない。

でもビアナからは就航便が出てるから、安心して行けると言う物だ。シースクエアからビアナへの行き道を監視してるからバルディナは俺がオーシャンにいる事も知らないだろうし、オーシャンからビアナに行く事も知らないはずだ。

ビアナの中にバルディナの兵はいないだろうし、ビアナの長がまぁ反対するよな。

色々考え事をしてたら眠気はすぐに訪れ、俺は意識を手放した。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――

次の日の昼、準備を終えた俺とルーシェルはマイアに声をかけた。

マイアはすぐに船を用意してくれて俺達を入江につれていく。でもその中にライナの姿は無かった。

礼を言いたかったのに、朝からライナを見ないし、あいつどこ行ったんだ?

結局船について乗り込んでもライナは現れず、俺は見送ってくれるマイアに話を聞いてみた。


「ライナはいないんですか?」

「あの子は朝から姿を見ておらん。まぁ自由奔放な子じゃからなぁ」


確かに……でも見送ってくれてもいいんじゃないか?薄情者め。

ルーシェルは海で遊べなかったのが残念だったらしく、また来たいと言ってくる。そうだな、またこれたらいいな。今度はバカンスでな。

船が出ると船長が声をかけ、船が動きだした時声が聞こえた。


「ちょっと待っておくれよ!置いてくなんて薄情じゃないか!」


ライナが走ってきて、ギリギリの所で船に乗り込んだ。

あっけにとられた俺にライナは当たり前のごとく置いて行くなと怒ってくる。

いや置いて行くなって……だってお前ここに留まるんじゃなかったのかよ!


「何で来たんだよ」

「あんたどんだけ薄情なんだい?旅は道連れ、世は情けだろ?まだファライアンには行った事がないんだ。行くしかないだろう」

「マイアはいいのか!?」

「いいさ。あたしが国外の情報をマイアに送るんだから何も問題ないじゃないか」


マイアは全く止める事をしない。いいのか!?こんなナリだけど一応姫なんじゃないのか!?

ライナは相棒のドリンを肩に乗せて、いつもの様に豪快に笑った。

その手には何やら袋が握られている。


「何持ってんだ?」

「これかい?これはパールって言うオーシャン特有の宝石さ。これがビアナでは交易で高く売れるんだよ」

「そうやって資金稼いでんのか?」

「あんたみたいに獣狩って生活なんて一昔古いね。今は交易って手もあるんだから楽して金は手に入るんだよ。頭さえあればね」


はいはいそうですか。

完全に付いて来る気満々じゃねぇか。


船が出港し、ライナは奥の部屋に引っ込んでしまった。家族からの見送りも受けないなんてそっちの方が薄情じゃないか。

でもまぁライナいてくれたら心強いし、損は一つもないんだけどな。

やっとビアナに向かう。そこから全てを始めればいいんだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ