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神様の椅子  作者: *amin*
二章
14/64

14 戦闘民族リーフ族

船に揺られて2日が経った。

飯は船で釣りをして釣った魚をさばいて食ったり、焼いて食ったりした。

初めての釣りにルーシェルは興奮してたけど、魚に引っ張られて海にも落ちかけていた。



14 戦闘民族リーフ族



「船の生活も飽きちゃった」


娯楽施設の付いてない船の中でルーシェルがドリンと戯れながらポツリと呟いた。

船酔いの心配はないけど、ルーシェルにとっては景色が変わらない海を見続けるのは暇になっていってるらしい。

甲板に出て辺りを見渡しても360度青い海が広がっていて、シースクエアは全く見えなくなっていた。

俺の後をルーシェルはついてきて甲板に身を乗り出す。


「危ないぞ」

「ん、大丈夫だよ。ねぇダフネ、もうすぐ着くのかなぁ」

「着くよ。もうそろそろ海の色も変わるはずだ」


ジョーンの娘のイオリが俺達に近づいてきて海を見下ろす。

オーシャンは行った事がないけど海がとても綺麗な場所だって言うのは聞いた事がある。

オーシャン民族の中でも比較的友好的な部族は、この海を観光に利用して観光業で生計を立ててるって話も聞いた。

全く文化の違う独自発展した独立国家。独立国家に行った事の無い俺は正直少しだけワクワクしてる。そんな状況じゃないってのに。

その時、前方にうっすらとだけど島が見えてきた。あれがオーシャンなのか?

イオリがジョーンに大声を出して操縦室に走って行き、代わりにライナがやってきた。


「もうちょいだね。そろそろ見張りの船も見えて来るし、なんたって海の色が変わるよ」

「なぁライナ、オーシャンって確か大小10の島が1つの国になってんだよな。あれはなに島だ?」

「今前方に見えてるのはオルハ島、オーシャンの中で唯一観光として使われてる島だ。あの島より奥の島には国外の人間を入れてはいけない掟があるからね。物資の交換もあの島を介して行うのさ」


ふぅん……あ、なんか小さな船が見えてきた。

前方には数隻の船が待機しており、何かの楽器を吹いて俺達を威嚇してくる。


「ラボッサ。オーシャンの古い言葉で警戒を意味する。止まらなきゃ攻撃するぞって合図だ」

「え!?ジョーンに言わなきゃ!」

「大丈夫だろ。ジョーンはこの意味をちゃんと理解してるさ」


ライナの言った通り、船のスピードが少しずつ遅くなっていく。

そして海の色が変化した。エメラルドグリーンの美しい海はサンゴ礁や魚が透けて見えるくらい透き通ってる。

ドリンがカラフルな色をしている様に魚の色もカラフルだ。少なくとも、こんな黄色や白、黒のしま模様の魚なんて見た事が無い。あ、青もいる。

すげぇ……これがオーシャンの海か。自然と調和するオーシャンが最も大事にしている海。

船が止まったのを確認してオーシャン民族が小型船で近づいて船に接続してきた。そして甲板に足を踏み入れたオーシャン民族は俺達をジロリと一括して、ジョーンに声をかけた。


「貴様何のつもりだ。物資の交換の時期ではないはずだ。我らオーシャンの領海を無断で入った事は理解できているのだろうな」

「あぁ、ちゃんとしてるさ。だが危害を加えるつもりはねぇ。話を聞いてくれや」


既に喧嘩腰のオーシャン民族は槍を構えている。

焦った俺は傍にいたライナに耳打ちした。


「なんだあいつら?」

「戦闘民族リーフ族。7部族あるオーシャン部族の中でも特に力を持つ3大部族の1つで排他的で好戦的な部族さ。奴らは他国の人間との親交を好まない。返答次第によってはこの船を沈めるつもりだね」

「なんだって!?」

「まぁ任せな。あたしの出番だね」


ライナが俺の肩を叩いてオーシャン民族の前に歩いて行く。

オーシャン人もライナに顔を顰めたが、同じオーシャン民族と言うのを理解したらしく槍を降ろした。

ライナはそいつらを一瞥し、偉そうに腕組みをした。


「随分な歓迎だね。あたしを誰だか分かってやってるのかい?」

「何だお前は。他国に出て行った部族を我らは仲間とは考えぬ」

「お前らの民族とあたしの民族の価値観を一緒にするな。あんたに仲間に思ってもらわなくてもいいさ。でもあたしに手を出したら他の部族が黙ってないよ」

「何が言いたい!?」

「あたしはダナシュ族の長、マイアの孫娘のライナ。今日は長に会いに帰還したんだ。この首飾りで分かるだろう」


自慢げにライナが首飾りを見せる。

それを見せた瞬間、オーシャン人達は目を丸くして、ライナの顔を見た。


「その首飾りは……まさか本当にライナ様なのか!?」

「そうだと言ってるだろう。ここを通す気があるのか、無いのか?早く決めろ。あたしらには時間がないんだよ」

「……分かりました。ライナ様の命令です。特別にオルハ島までは許可しましょう。その後は我らの船での移動になります」

「あぁ、いいだろう」


まさかライナがダナシュ族の長の孫娘だったなんて!

ダナシュ族って言えばオーシャンのリーダー的な部族だ。よく5大国家と独立国家の宰相が集まる世界貿易の協議でもオーシャンの代表はいつもダナシュ族だ。

じゃあライナはお姫様だったのか!?

こんな言葉遣いの悪いお姫様がいるか?って言うか姫の癖に1人旅で情報屋とかやってたのかよ!ミッシェルよりタチが悪いじゃないか!

考えれば考えるほどライナが分からない。

船が進み出し、ルーシェルとイオリが海に興奮している中、俺はライナに声をかけた。


「ライナ」

「黙ってて悪かったね。まぁあんたも聞いてこなかったしね」

「それはいいけど……お前姫の癖に1人で世界旅してたのか?家族は止めなかったのか?」

「止めたさ。でもあたしが無理矢理世界に出たんだ。オーシャンの人間はね、極度に国外に出るのを恐れる。オーシャン民族の8割は国外どころかオーシャン内の島を全て回らずに一生を終えるんだよ。あたしは見たかったのさ、そんな閉鎖された世界じゃなくて本当の世界をね」


つまりは好奇心に負けたってところなのか?

でも俺の単純な思考とは違い、ライナはもっと複雑な事を考えているようだった。


「こもってる間は幸せかもしれない。でも他国は待ってくれない。バルディナの手はいずれオーシャンにも伸びるだろう。あたしは一刻も早くオーシャンにかつての姿を取り戻してほしいんだよ」

「かつて?でも俺は生まれた時からオーシャンは結構閉鎖的だっただろ?」


俺とライナの年齢は大して変わらない。かつてって言ったって、俺たちが生きている間ではないはずだ。でもオーシャンは過去に世界に出てた事があるんだろうか?

ライナは力なく笑う。


「昔、2つの国が世界の覇権を取りあったのを話したね」

「あぁ、聞いたな」

「オーシャンもそれに参加してた。でもね、オーシャンは捨て駒にされたのさ。背後から挟み撃ちするって話を信じて単独で突き進んだオーシャンを奴らは見捨てた。結果、オーシャンは相手にも痛手を負わせたけど、こっちも壊滅的な被害をこうむった。でも奴らはオーシャンを捨て駒にし続けた。色黒は優劣人種だ、醜い、そんな理由でね。オーシャンはそれに耐えれず国を閉ざした。もう他国の奴らに関わるのはごめんなんだよ」

「ライナ……」

「前まではそれで良かったかもしれない。でも今は事情が違う。軍事増強を続けるバルディナにオーシャンが敵うはずがない。じっちゃんには一刻も早く世界に目を向けて、バルディナの脅威を感じてほしいんだ。恐らく他国の情報を知り得ているのは観光をメインに取り扱ってるアデレイド族とバルフォア族、後は貿易を担ってるフィエロン族くらいなもんさ」


オーシャンにも色々あるらしい。

やっぱり7つも部族があったら、色んな小競り合いが多そうだ。

ダナシュ族がそれを主に納めてるんだろうけど……俺はあまりオーシャンの知識を知らないから現状がどうなってるのかが分からない。


「なぁライナ、オーシャンってどういう仕組みになってるんだ?3大部族とか言ってたけど」

「オーシャンはさっき言った通り7つの部族で形成されてる。その中でも絶対的な発言力を持つ部族がダナシュ族とリーフ族、もう1つがフィエロン族。リーフ族は他国の人間が嫌いな攻撃的な部族でフィエロン族は貿易を担ってる事から一番世界情勢に詳しい部族だね。そしてダナシュ族はいわゆるタカ派のリーフ族とハト派のフィエロン族の仲介役ってとこだ。残りの4部族の中でもアデレイド族とバルフォア族は観光で生計を立ててる部族だから、ある意味他国の人間に対する偏見はあまりないが、残りの2つのウルジー族とノックス族は本当に閉鎖的な部族だ。リーフ族とウルジー族、ノックス族は前の大戦で戦争の場所として使われた事から住み家のあちこちに戦争の名残がある。だからこの3部族は他国嫌いが特に強くなるのさ。ダナシュ族は決定権を委ねられてる苦しい状況なんだよ。リーフ族、ウルジー族、ノックス族とフィエロン族、アデレイド族、バルフォア族は互いにも仲が悪いしね」


仲が悪いね。何となく合わなそうな感じはするけど。


「まぁ貿易や観光を生業にしてる3部族にとって、さっきみたいに威嚇してくるリーフ族とかは商売あがったりで迷惑だと思ってるし、リーフ族達からしてみれば、自らの国を他国に売る売国奴って思ってる。だからお互いの3部族は仲が悪いのさ。ダナシュ族はあくまで中立の立場をとってきてたから今の状況だが、どちらかに肩入れすれば……」

「オーシャンが変わってくる、そう言いたいんだな」

「そうだ、だからダナシュ族は決めあぐねてるのさ。どっちかの肩を持ったらどっちかの反発を買うからね。でもあたしはフィエロン族の言っている様に世界に開けた国家になりたい。情報戦を制さなきゃ、またオーシャンは過去の大戦と同じ目に遭う。今のままじゃ駄目なんだ」


そう語ったライナの瞳には力が宿っており、ライナの決意が本物なんだと感じた。

そして申し訳なさそうに振り返ったライナに俺は首をかしげた。


「軍事増強を続けるバルディナ、南下を目論んでいるパルチナ、他国に干渉しないファライアン、鎖国を貫く東天……オーシャンは自力で強くなるしか道が無いんだよ」

「ライナ……」

「悪いねダフネ、本当はあたしはあんた達をじっちゃんに連れていって説明させる道具にしたかっただけなんだ。陥落したアルトラントの王子と御世話係の話くらいは知ってるはずだ。その2人を連れていって真実を知らせたらダナシュ族も動かない訳にはいかないからね」


なんだそんな事か。


「いいよ別に」

「え?」

「お前のお陰でここまでこれた。それで十分だ。後は俺達で何とかするよ。国外に出てファライアンに行けたら、結局は自分たちで何とかするしかなくなるんだ」

「ダフネ……」


最初からそのつもりだった。俺とルーシェルで祖国を奪還するつもりだったんだ。ライナはそれの手助けをしてくれたにすぎない。

ライナにも目的はあり、俺達にも目的がある。利害が一致しただけ。それだけだった。

ライナは俺の隣に腰かけて、空を見上げた。


「なぁダフネ、あんたは祖国に好きな子はいるかい?」

「なんだよいきなり」

「聞いてみただけさ。王子様の為だけじゃないだろう?」

「……そりゃそうさ。城の奴らもそうだし親父とお袋や村の人たちだってそうだ。士官学校の友達も……知り合い全部助けたいって思ってるさ」


国の奴らがどうなってしまったかは分からないけど。

皆無事なのだろうか、セラはちゃんと生き残ったんだろうか。あの時セラが俺を叱ってくれなかったら、俺はそのまま門で奴らと戦ってただろう。

セラがいなかったら俺は今ここにいなかった。

助けなきゃいけない。

いつの間にか強く握りしめていたらしい、拳は鈍い痛みを俺にもたらした。それを見たライナは再び空を仰ぐ。


「これからどうなんだろうね、あたし達は。世界はバルディナの侵略を皮切りに600年前のような世界大戦が起ころうとしてる」

「……」

「簡単に言えばバルディナ対ファライアンだろうね。そしてパルチナがマクラウドを巻き込んで第3国として名乗りを上げる可能性もある。パルチナが出てくりゃ、パルチナと領土問題抱えるヴァシュタンがパルチナを潰すために出てくる。ザイナスに対抗するためにファライアンはエデンを戦争に参加させる。オーシャンも悠長に構えてる場合じゃない」


全ての国も対岸の火事じゃない。1つの国が連鎖して全ての国が巻き込まれていく。ライナの言うとおり600年前の世界大戦が俺たちの時代に起ころうとしてる。何万、何十万の犠牲を払って。

600年前の戦争に勝利した英雄ダレンの様な奴が現れるのか。


船がオルハ島に近づいて行く。ジョーン達とはここでお別れだ。

その後はライナの力を借りて船を借り、ビアナに向かおう。そこからファライアンに向かう。

大丈夫だ。絶対に大丈夫なはずだ。



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