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神様の椅子  作者: *amin*
一章
10/64

10 故郷サラディス

「ルーシェル、腹が減っただろ。飯食わなきゃな」


狩ってきた獣の肉をさばいて起こした火で焼いて行く。

ルーシェルは慣れてない今の状況がかなり辛いみたいだ。



10 故郷サラディス



焼けた肉をルーシェルが小さな口でかじりついて行く。喉が渇いた時は取ってきた木の実の汁を使って喉をうるおす。

まさか士官学校で習った知識がこんなとこで役に立つなんてな。

味付けのしてない肉は思った以上に味がなくて油分ばっかりで美味しくなかったが、何も食わないよりマシだ。

ずっと歩き続けて、飯を食ったら休憩せずにまた歩く。

ルーシェルはもう疲れ果ててるだろう。でも文句1つ言わないのは、それ以外に方法がないと幼いながら分かってるからだ。

肉を食べながらルーシェルが呟いた。


「これから俺達どうなっちゃうの?」

「まずは俺の故郷のサラディスに行って馬を借りる。その後はシースクエアまで一気に飛ばして、そこから船でビアナに逃げるつもりだ。ビアナは独立国家だ、あそこにはバルディナも簡単には手を出せない。直接攻撃したらそれこそ世界の貿易が止まってファライアンや東天、パルチナも出て来るからな」

「どうしてビアナなの?」

「あそこは他の国と違って入国審査が緩いんだ。他の国だと領土内に入るのにどこから来たとか、何日いるとか、国からの証明書とか色々いるんだよ。でもビアナはそう言う規制が緩いから、俺たちが許可証も無しに突然入国しても許可してくれるんだ」

「そっか……俺ね、考えてたんだ。クラウシェルが逃がしてくれた意味を」

「……」

「俺、皆を助けたい。国宝石をあいつらなんかに渡さない。バルディナを絶対に追い払ってやる」


力強い言葉にルーシェルも我慢の限界なんだと悟った。そうだよな、家族が人質に取られたも同然だ。気が気な訳がない。

国が今どんな状況なのか、俺達が知るはずもない。もしかしたら国王と后、下手したらクラウシェルとミッシェルも殺されてしまったのかもしれない。そんなことは考えたくないけれど。

セラやジェイクリーナス達は生き残れたのかな、怪我してないのかな。ヤコブリーナスの頼みを果たせなかった。もしこれでジェイクリーナスが命を落とすなんて事になったら、ヤコブリーナスは俺を許さないだろうな。

その時、多分言い返す事なんて何も出来ないと思う。軽はずみにヤコブリーナスの頼みを頷いた自分がいけなかった。状況判断もせずに。


飯を食い終わって、ルーシェルの手を引いてひたすら歩く。コンパスの方向は今の所は思った通りだ。間違った道を歩いてなければ、もう少ししたら俺の見慣れた景色が見えて来るだろう。

アルトラントでの悲鳴や怒声が嘘のように森の中は静まり返っている。ここら辺にはまだ兵も行き届いてないんだろうな、穏やかな光景が広がっている。

兵はいないと読み、思い切って一度森から出て道に出れば視界がクリアになり、丘を越えた先に小さな村が見えた。

良かった……まだあいつらはここまでは辿り着いてないみたいだ。俺は視界にとらえた小さな村を指差した。


「ルーシェル、あれが俺の故郷サラディスだ」

「ダフネのお家?」

「そう、農業と酪農で生計立ててる小さな村だよ。でも飯は美味いよ。今日は美味いもの食べて温かくして寝ような」


ルーシェルが少しだけ嬉しそうな顔をした。

丘を越えて村に入るのは後5時間程度歩いたらつくだろう。

バルディナは1度兵を全て集結させて、城下町の鎮静化を図った後に兵を俺達に向けるはずだ。最低でも3日はかかる。

その間にサラディスで馬を譲り受けて飛ばせば追いつかれる事は無いだろう。俺達は逃げ切れる。向こうも俺達が馬を持ってないのを分かってるはずだから、逃げ切れるなんて思ってないはずだ。

悪いね、ここにコネがあるのさ。

村は見えたけどまだまだ遠い。でも確認できたことでルーシェルは少し早歩きになっている。これならもう少し早くつきそうだ。

疲れたら抱っこしてやればいい。正直俺も腕がパンパンだけどルーシェルはもっときついハズだから。


ルーシェルも頑張ってくれたおかげで5時間かなと思っていた所を4時間で行けた。クタクタになったルーシェルを最後は俺が抱っこして村に入る。

まだ情報が伝わってないのか、村は相変わらず何もなくて、のどかで広場を家畜の豚が走りまわっていた。

ルーシェルは初めて見る豚に興奮してるようだ。


「ダフネこれ何!?」

「これは豚だよ。お前ハムとか好きだろ?これの肉」

「えっ!?こんな可愛いのを食べるの!?」

「こいつはまだ子供だから食えないよ。それより家に行こう」


家に向かっている途中、久々に戻ってきた俺を見つけた村人が歓迎してくれた。小さな村だから村人皆家族のようなものだ。俺が城で働いてるのを皆知ってるらしい、さすが小さい村は情報が回るのも早いな。

久々に帰ってきた俺に今日はごちそうを作ってくれると言われたからルーシェルもこれで英気を養えるだろう。

村人に頭を下げて、自分の実家である小さい家の扉を開けた。まだ朝の9時だったせいか、お袋も親父も飯を食ってて、突然帰ってきた俺に目を丸くした。


「ど、どうしたんだダフネ!まさか首か!?」

「違うわ!わりぃ親父、ベッド貸してくんねぇかな。後風呂も借りていいか?」


とりあえずルーシェルを休ませなければ。昨日からずっと歩き続けて大した休みもとらせないでいた。勿論睡眠時間0分だ。幼いルーシェルは体力の限界だ。それでも我侭1つ言わなかった。

お袋は良く分からないながらも、すぐにベッドを用意してくれた。そこにルーシェルを横にすると、不安そうな顔をされた。


「起きた時、いなくなってたらやだよ」

「大丈夫だよ。起きたら一緒に風呂に入ろうな、そんで今日は御馳走作ってくれるらしいから、一杯食ってゆっくり寝て明日たとう」

「ん……」


安心したのかルーシェルはすぐに眠ってしまった。

俺は説明をしなければならなかったので、不安そうにしている母さんに話すついでに村の人達にも説明しようと思った。

お袋が皆に知らせるために家を出ていく。親父との会話は一切なかった。

2時間後に村を代表する14人が集会所に集まった。何も知らない村人は御馳走を作るだの、祭りを開こうだの陽気に会話をしている。その気持ちはすごくうれしいんだけど、今はそんな場合じゃない。

唯一複雑そうな親父が睨むように俺の目を見て低い声で問いかけた。


「どう言う事だダフネ、あの子は何者だ」

「ルーシェル、国の第2王子だよ」


親父が結論を急かすように聞いてきたから、答えだけを最初に教えた。

その答えに一瞬で集会所がどよめき出した。中には信じられないという声も聞こえるけど、事実なんだからしょうがない。

それにこれからもっと信じられない話を聞くんだし。


「落ちついて聞いてくれ。まだ情報が届いてないみたいだけど、アルトラントはバルディナに侵略されて落ちた」

「なんですって!?」


お袋の悲鳴じみた声を皮切りに、一斉に皆の質問が飛ぶ。


「そんな馬鹿な!なぜ急に!」

「だが友好条約はこの間切れた。まさか切れたのを狙ってきたのか!?」

「あいつらはルーシェルを狙ってる。ルーシェルの世話係の俺は国王にルーシェルを連れて逃げろって言われたんだ。俺はルーシェルを守らなきゃいけない」

「ダフネ……おめぇが」

「俺は絶対にルーシェルと祖国奪還をする。でもまずは国外に出る事を最優先に考えている」

「シースクエアからビアナに逃げるのかい?」


貿易関係に詳しいシン爺ちゃんが俺の考えている事を的中させた。

頷いた俺にシン爺ちゃんがゆっくりと立ち上がった。


「じいちゃん?」

「シースクエアに知り合いがいる。そいつは船も持ってる、シースクエアに行っても船を出してくれる奴がいなきゃ意味ないだろう。わしが書状を書いてやる」

「有難うじいちゃん!後は馬を1頭貸してほしい。あいつらも俺とルーシェルが国外逃亡すると睨んでる。馬がなきゃ逃げ切れない」

「それなら俺の馬を使え!一番いいのを用意してやる!」


村の酪農をしてるギャバが馬を貸してくれると言ってくれた。良かった、やっぱりここに来たのは正解だった。

皆俺の言った事を信じてくれた。それぞれが肩を落としていたけど、でも日持ちする食い物を持たせるとか、水を持って行けと色々提案してくれた。

確かにここから城は近いけど、ここからシースクエアは遠い。馬を使っても1週間はかかる。途中で村によるとしても、日持ちする食料と水は絶対に必要だ。


とりあえず今日はここに泊ると言った俺に、皆が飯を一杯食って行けと言ってくれた。

それぞれが準備をする為、出ていってしまい、俺も親父とお袋と一緒に家に戻った。親父は帰ってひと眠りしようとした俺を引きとめて、引き出しを開けた。


「親父?」

「おめぇどうせ無一文だろうが。どうやって生活する気だ」

「動物を狩って角やらなんやら売る気でいた」

「馬鹿が、動物狩る暇があったら逃げろってんだ。これ持ってけ」


親父がくれたのは袋に入った金だった。結構な額が入ってる、数えた所十万ギリアはある。

俺が士官学校に行きたいと言ったから、元々金の無い家からお袋と親父は金を作って行かせてくれた。全部俺の好きにやらせてくれた。

その親父がなけなしの金を全て俺に渡してくれる。


「でも、こんな……」

「金は働いたらまた貯まる。でもおめぇはそう言う訳にはいかねぇだろうが……絶対国外に逃げ切れ。死んだら承知しねぇ」


親父の言葉を皮切りにお袋が泣き出した。それにつられて俺も泣いて、親父も声を押し殺して泣いた。

奥の部屋でルーシェルがそれを聞いていたのを俺は全く気付かなかった。


夜になってルーシェルを起こして一緒に風呂入って、御馳走を作って歓迎してくれるという村人に手を引かれて広場に行ったら、そこには結婚式とか子どもが生まれた時にしか食えない様な御馳走がたくさん並んでいた。

ルーシェルも郷土料理は初めてだろう、目を輝かせてる。

味のしない獣の肉を食っただけだったから飯はめちゃくちゃ美味しく感じた。ルーシェルも沢山食べて美味しそうに微笑んでいた。

皆はずっと俺達をもてなしてくれて、あらかた食い終わった俺達にすぐに寝ろと促してきた。ベッドは俺が使ってたのと、後はお袋と親父のしかない。

親父のベッドにルーシェルを寝かせてる間に、お袋は俺のベッドの布団を干しててくれた。ルーシェルと一緒に入ったら太陽の匂いがして安心した。


「ダフネごめんね、ダフネは俺が巻き込んだんだよね」


申し訳なさそうに寝る前に話しかけてきたルーシェル。確かに言われてみればそうかもな。でもそんなの関係無いよ。


「俺は御世話係だからな」


そう返せばルーシェルは安心そうにした。今日寝れば夜が明けて朝になる。そしたら馬を借りてシースクエアまで逃げるんだ。

絶対に諦めない。



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