1 初めてのお勤め
拝啓、田舎で農作業している母さん父さんへ。
貴方方が頑張って稼いだお金のお陰で、俺は士官学校を落第ギリギリですが無事卒業する事が出来ました。
就職先もなんと城に決まり、俺の将来は順風に行くと思われていました。
少なくとも3時間前までは。
1 初めてのお勤め
「貴方が今日から働くダフネ様ですね。お待ちしておりました」
「あ、いえ……王子、姫様の御世話係兼教育係を任命されて歓喜の極みであります」
深々と頭を下げれば、俺の目の前にいる金髪の髪の女も礼儀正しく頭を下げた。
無機質で表情を崩さないで淡々と仕事内容を語る女を見ていると、やはり城と言う所は緊張感が漂う場所なんだと思ってしまう。
女のような名前だけど、俺は今日から城で働く事になった。この国の王子2人と姫1人の御世話係としてだ。
給料ももちろんいいし、なんたって世間体的には最高じゃないか。
今日がその初勤めの言う訳だ。
目の前の女は自分の事をセラと名乗り、王子と姫に会う前に城内を案内すると提案してきた。
「失礼ですが王子と姫を待たせてよろしいのですか?」
「あの御三方はただいまティーブレイク中です。邪魔をすることはできません」
「あ、そうですか。失礼しました。ではお願いします」
「かしこまりました」
セラが歩いて行った後を着いて行こうと追いかけようとした時ドアが開いた。
ドアの中から出てきたのは3人の子どもだった。
子ども達はキラキラと目を輝かせて、俺の周りをグルグルと回りだす。
「あれが今度の駒使い?」
「いっぱい遊んでくれるかなぁ」
「馬鹿そうな顔だな。僕のレベルを下げる様なことはしないだろうな」
何だか癇に障る事を言われた気がするが、目の前にいる身なりのいい子ども3人がもしかしたらそうなのか?
ピンク色の髪にこれまた白とピンクで統一された可愛らしいドレスを着た勝ち気そうな少女と白で統一された清楚な服に身を包んでいる幼い少年とメガネをかけた厭味ったらしく笑う子どもが。ってかこのメガネ見た事ある。第1王子にそっくりだ。
何が何だか分からずに目を点にさせている俺にセラが頭を下げて俺に言う。
「ダフネ様、この御三方がこの国の王子と姫です。名前はご存知ですよね?」
「あ、あぁ。姫がミッシェルで第1王子がクラウシェル、第2王子がルーシェルだよな」
「呼び捨てにすんじゃないわよ駒使いの癖に!」
なんだと!?
ミッシェルは目をつりあがらせて俺に罵声を浴びせる。その横にいるメガネをかけている奴が多分第1王子だろう、クラウシェルもやれやれと言い、第2王子のルーシェルはワタワタ慌ててるだけだった。
まぁ確かに世話係の俺が呼び捨てなんて悪かったと思う。でも駒使いって何だ!?余りにも失礼じゃないか!そういうのは心の中でしまっておくものじゃないのか!?
ミッシェルはあくまでも俺に文句を言ってくる。
それを聞き流そうとしてるけど、その口調は余りにもひどい。姫がこんな言葉遣いをしてもいいのか疑いたくなるほどだ。
その時、俺の服の袖をルーシェルが掴んで俺を見上げてきた。
「ねぇねぇパパに挨拶した?」
「え、国王に?世話係の俺が呼ばれでもしない限り挨拶はできませんよ」
「じゃあしに行こう!こっちだよ!」
ルーシェルに引っ張られて走り出した俺をセラは止めずにただ見ている。
助けてくれと視線を送ったが、無表情な彼女は特に気に止めた様子もなく冷たく言い放った。
「王子の言葉は絶対です。ダフネ様、反抗はしないように」
「ガキか俺は!!」
どうやらセラは止めてくれる気はないらしい。どうしよう、国王に会うとか緊張して小便ちびりそうだよ!
「ルーシェルあいつ気に入ったのかな」
「さぁな、あいつはいつだってあんなんだろう。それよりお茶の続きだ。セラ、ケーキを追加してくれ。ミッシェルに全部食われてしまった」
「はい、かしこまりました」
「パパー!新しい御世話係さんが来た!」
なんと国王のいる部屋にノックもしないで、ルーシェルは勢いよく扉を開けた。
その先には誰もが知る、この国の国王が座っていた。
威厳溢れる姿に引き気味になったけど、ルーシェルのせいで逃げる事も出来ない。
台座に座る国王の周りには3人の男が立っていた。
1人は年老いた男、この方を知ってる。国王の腹心の軍師、ダイナス様だ。有名な人だから多分国内の人間ならだれもが知ってる奴だ。
その横にいるオールバックの厳格そうな御方が、この国の軍団長であるノーヴァ様、向かい側にいる金髪の柔和な笑みを浮かべている御方が最高評議委員のフレイ様。
まずい、とんでもない人達に囲まれたぞ。
ノーヴァ様がいかつい顔を更にいかつくさせて、俺の腕を掴んできた物だから悲鳴をあげそうになった。
「貴様、関係の無い者が立ちいる事は出来ん!早く出ろ!」
「は、はい!すみません!」
「待ってよノーヴァ!ダフネは俺が連れてきたんだよ!」
ルーシェルがノーヴァ様の腕をポカスカ叩いて俺を放す様に言っている。ハッキリ言って全く痛くなさそうなパンチだけど。
ノーヴァ様はルーシェルの話を聞いて、掴んでいた俺の服から手を放した。
「ルーシェル様もお分かりになりましょう。ここはたやすく入る事は許されていません」
「パパに会いに来たんだもん。ねぇパパ!ダフネって言うんだ!新しい世話係!」
あぁもう早く出たいのに!国王に声をかけられたら何て答えればいいんだよ!?
でも聞こえてきたのは荒い呼吸だけ。
「る、ルーシェルマジ天使……」
「は?」
「国王!この場は他の者もおります!素を出している場合ではございませぬ!」
ノーヴァ様に諭されて、鼻血を出していた国王の顔が急にキリッとした俺の見知ってる顔になった。
今のは何だったんだ?幻覚?
国王は咳払いをして、威厳のある声で俺とルーシェルを咎めた。
「ルーシェル、我は執務中だ。関係の無い話を持ち込む出ない。ダフネと言ったな、お前も世話係ならば止めるのが道理だろう」
「は、はい!すみません!」
「なんかパパ違うよ。気持ち悪い」
「ルーシェルに嫌われたっ!」
「国王!今はそのような事を言ってる場合ではありませぬ!」
「そ、そうじゃ。おぬしら早く部屋から出るのだ」
国王に諭されて、ルーシェルは渋々俺の手を握って部屋を出た。
あー怖かった。心臓止まるかと思ったし。
そのまま2人で歩いていると、声がかかり振り返った先にはフレイ様がいた。
「あ、あの俺何か忘れものでも……?」
「違うよ。国王の面白かったでしょ?でも他の人には言っちゃ駄目だよ」
「なんで?パパいっつもあんな感じだよ」
ルーシェルが首をかしげたのを見て、フレイ様は微笑ましそうに笑っている。
「ダフネ君の知ってる国王は言ってみれば外行きの顔だ。素の性格は子どもを溺愛してるパパなんだよ」
「え」
「でもそんなの公にしてたら国民から引かれそうだろ?だから普段はああやってキリッとしてる訳。心の中は常に子どもの事しか考えてないからね」
「はぁ……いいんですか?俺にそんなこと言って」
「君、かなり気になってそうだったからね。でも他言は駄目だ。こっちも面白い物を見せてもらったよ」
フレイ様はノーヴァ様と違って温和な人みたいだ。
手を振って去って行ったフレイ様に頭を下げる俺にルーシェルは兄弟達の所に戻りたいと言った。
俺これからこんな風に振り回されていくのかな……
「遅いわね、あんたの分のケーキとかもう無いわよ。あたしが全部食べちゃった」
「え!?なんでのけといてくれないのミッシェル!」
「馬鹿だな。食い意地の張ったミッシェルに何を言っても無駄だろう、諦めろルーシェル」
「う、うあぁぁああぁぁぁああ!!」
「誰かセラを呼んで来てくれ!ケーキを持ってこさせろ―!」
もうやだ。なにここ……