2制裁の為に策を巡らす
「先触れもなくお邪魔して申し訳ありません。どうしても夫人にご相談したいことがありましてお伺いいたしましたの」
玄関に迎えに出た家令にそう告げた。
白い物が混じったグレーの髪を後ろに撫でつけた家令は「直ぐに取り次いで参りますので応接室でお待ちください」と言って下がって行った。
暫くすると明るい声がした。
「まあエレンじゃないの。何かあったの?結婚するのが不安になったの?
誰にでもあることだわ。何でも聞いてあげるから言ってごらんなさいな」
「ありがとうございます。メアリー様に聞いていただきたい事がありまして、失礼を承知で先触れもなく伺わせていただきましたの」
涙で潤んだ瞳で夫人を見つめた。
夫人は良い人なのだが噂話が大好きなのだ。隠そうとしているがわくわくしているのが分かる。
メイドがお茶を淹れ退出した。
「先ほど結婚式の最終確認をするために向こうのお屋敷に伺ったのです。帰りに挨拶をして帰ろうと執務室まで行ったのですが……」
私は唇を噛み締めてためらいがちに話し始めた。
「まあっエレンが来ているのをわかっていて不貞をしていたのね。馬鹿なのかしら。馬鹿なのね」
夫人は私の手を握りしめながら共感してくれた。
「父に言うと浮気くらい我慢しろと言われるかもしれないのですけど、結婚前から愛人がいる男なんて気持ちが悪いのです。結婚してある程度経って子供が出来なければ諦めないといけないのかもしれませんが、そうではありませんし……」
夫人はなかなか跡継ぎが出来ずに苦労されたと聞いている。
親族からの圧力は相当凄かっただろう。それから数年経った今では息子さんや娘さんが生まれ地位は盤石だ。
「そうなの、女性ばかり責められるのよ。男に原因があるかもしれないのに。
あらごめんなさい、話がそれたわね。
結婚する前から愛人がいるなんて許せないわね。結婚後の浮気も許せないけど。
はっきり言ってそんな男はクズね。愛人を囲ってエレンを正妻にするつもりなのは間違いないわ。良いわ、任せておきなさい。私が助けてあげる」
「見た時は本当にショックでしたけど結婚する前で良かったと思います」
言いながら涙が出てきた。
「幸せな家庭が作れると今日まで信じていたんです」
涙が止まらなくなってきた。ああ、私はとても悲しいんだ。
時間がないから反撃を考えて動いたけど、裏切られて傷ついていたのね。
ハンカチはぐっしょり濡れてしまった。
「そうね、懲らしめてやらないと。でも本当に良いのかしら、貴女まだ好きなのではなくて?」
「いいえ、あれを見せられたら流石に想いはなくなりました。一生寝取られた妻として侮られるより、今きっぱりと捨てようと思います。傷は覚悟の上です。助けると言っていただけるなんて…。こうして聞いていただいただけでも嬉しいと思っていますのに……」
「お祖父様とか伯父様とか力になってくださる方がいるのかしら?」
もらい泣きかしら、目が赤い。本気で心配してくださっていることが嬉しい。
私の頬に涙が落ちる。
夫人が自分のハンカチで拭いてくれた。
「祖父に手紙を書こうと思います」
「そうね、味方になってくださると良いわね。わたくしが外からエレンは身内から攻めましょう。大丈夫、きっと上手くいくわ。希望を捨てないで」
「ありがとうございます。よろしくお願いします。このお礼は後でお贈りしますね」
冷めてしまったお茶をメイドが淹れ直してくれた。後で最高級の茶葉と人気の焼き菓子を届けさせよう。
屋敷に帰るとドレスのサイズ調整で疲れたと言って部屋に籠り、母方のお祖父様に手紙を書くことにした。夕食も部屋に運んでもらった。
サラが痛々しそうな目で見てくるが覚悟は決めている。
泣くだけ泣いて忘れる事にした。
3年間の楽しい思い出は沢山ある。
だけどそれは偽物だった。ただそれだけだ。
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