第4話 迷惑な没落貴族様
数日後、月影商会の最上階でカインはけたたましく鳴り響く黒電話に頭を抱えていた。
なぜカインが電話の前で頭を抱えているのかというと、――10分前に遡る。
カインがいつものように融資の最終調整を行っていると、電話がかかってきた。部下思いのカインは電話は全て自分1人で受けている。グレイヴが早速月影商会でアポを取ろうと電話をかけてきたのだ。
――しかし、内容は…。
「こちら月影商会。何の用だ」
『加護!!良いから加護を寄越せって!!』
「すまないが、今の俺には――」
『この俺をなんだと思ってる⁉勇者の血縁者グレイヴ・天照寺様だぞ!』
思わずカインは無言で受話器を叩きつけるように戻した。
(あの人の話を聞かずに自分の都合のいい方に持っていく性格。直ってないな…。)
カインは気を取り直してパソコン型魔導端末に体を向けると、また黒電話が鳴った。
「…はぁ、またか」
カインは重いため息をついて電話を取る。
『あの~、通りすがりの可愛い狸です。その~加護を~』
「…気持ち悪いな。なんだ、そのラジオ番組の匿名ゲストみたいな喋り方は?」
グレイヴの猫撫で声でカインの神経は逆撫でられて、カインは笑顔を引きつらせながら静かなツッコミを入れる。
『だから~この可愛すぎて罪な狸くんを~助けてくださ~』
「さっきと偽名変わってんぞ。この話は終わりだ。」
――ガチャン!
カインはまた同じように受話器を戻すと今度は寸暇も与えず電話が鳴った。
「…あー!クソッ!」
こうして現在に至る。
カインは仕事机に目をやる。そこには大量に舞い込んでくる仕事の山。国家プロジェクトや政府、さらに魔導装置の責任者でもある彼には日常茶飯事で特にこの日は多忙だった。
「…ったく、しょうがないな」
カインは舌打ちをして受話器を手に取る。
「グレイヴ…と言ったか?今週末、俺がアポローンに向かう。そこで話そう」
受話器越しに「くー」というグレイヴの声が聞こえる。
『言ったな?そんじゃ、週末に天照寺邸に来い。ぜってーに来いよ⁉約束だからな!?』
(…命令かよ)
「はいはい、迎えはいらないからな。」
カインはグレイヴの幼子のような歓喜の言葉をさらりと受け流し、”大人の対応”でこの迷惑電話を終わらせた。
カインは椅子にもたれかかり、部屋の大きな窓からリアーナのビル街を見下ろす。
「…まさか、こんな形でアポローンに行くことになるとはな。」
昼間の青いビルの反射光がカインの瞳に写っていたが、彼の瞳は黒いままだった。
――そのとき、再び黒電話が鳴った。
何のためらいもなく、カインは受話器を取る。
「こちら――」
しかし、――いや、やはり相手は…。
『なぁ、服ってお前何なら好き?』
――ブチッ!!
グレイヴの敬わないマナーのないくたびれた言葉にカインの中で何かが切れた。
「「知るか!?」」
その瞬間、受話器を握るカインの手から小さな紫の光の筋が現れて受話器から本体までコードを通して瞬時に伝わった。その後間もなく――
――グシャッ!
黒電話が紙くずのように潰れて壊れた。カインは表情の変化があまりないのでわかりにくいが顔面蒼白だ。
(…しまった。つい怒って破壊魔法を…)
カインは部屋の壁で指をなぞると壁の一部が開き、中には大量の黒電話が入っている。
「…今年で5回目だな」
”5回目”にカインは魔法で感情のままに物を破壊した。黒電話1つを取り出してそれを見つめる。
カインは黙って自分の機械義肢に映る、自分の暗い表情を見ていた。
※この物語はフィクションです。




