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重箱の隅をつつく者、あるいは歴史の綻びを暴く者

 王都の喧騒から少し外れた路地裏の古びた建物に社を構える「王都通信社」の一室には、今日もインクの匂いと湿気た紙の香りが居座っていた。



「……やっぱり、座りが悪いな」


 モーリスは、ひび割れた椅子の背もたれに体を預け、机に広げた古い新聞の切り抜きを指で弾いた。



 二年前、国中を熱狂させた「公爵令嬢による、伯爵令嬢殺害未遂事件」。


 当時は誰もがこのスキャンダルに飛びつき、悪女エリュシオンの断罪に快哉を叫んだものだ。だが、改めて紙面を並べてみると、どうにも喉に小骨が刺さったような違和感が消えない。


「一週間、か……」


 モーリスの視線は、事件発生日から公式発表日までの空白の七日間に止まった。


 王立学園という、血気盛んな貴族の子弟がひしめく場所で起きた事件だ。本来なら翌朝には噂が街の端まで駆け巡っているはずなのに、この時は当局の発表があるまで、不気味なほどに静かだった。まるで見えない巨大な蓋をされたみたいに。


「その割に、出てきた話は出来すぎてるんだよな……」


 モーリスは煙草に火をつけようとして、マッチを擦る手を止めた。



 公式発表の内容は、あまりに完璧な筋書きだった。正義感あふれるアレクサンダー王太子が、か弱いマリアン令嬢を救い、嫉妬に狂った悪女をその場で裁く。


 あまりに綺麗に整えられたその台本は、読み手側に裏を取らせる隙さえ与えない。


 極めつけは、その後の処分の速さだ。

 発表時にはすでにエリュシオンは北方の修道院へ。そしてわずか一ヶ月後には、新聞の隅に「病死」という三行ばかりの訃報が載った。



「天下のコルトレイク家の一人娘だぞ。それが、大々的な葬儀もなしに土に還される。……親ならせめて、遺体を引き取って公式に葬儀を決行するくらいの意地は見せそうなもんだが」


 しかし公爵家は沈黙を守り、娘を裏切り者として切り捨てた。



 世間の関心はすぐに、悲劇を乗り越えた王太子とマリアンの「真実の愛」という眩しい光に吸い寄せられ、エリュシオンの名はぬかるみに沈むようにして消えていった。


 だが、記者の性分だろうか。モーリスはその眩しすぎる光の背後に落ちている、どろりとした影が気になって仕方がなかった。


「……ちょうど、伯爵家の資産隠しのネタも片付いたところだしな」


 モーリスは机に散らばった資料を乱雑に鞄へ押し込むと、よれよれのジャケットを羽織った。



 エリュシオンは本当に「悪女」だったのか。

 そして、今や理想の王妃と称えられるマリアンは、本当に「聖女」だったのか。


「お宝の匂いか、それとも火薬の匂いか……。どっちにしろ、確かめないことには今夜も眠れそうにないな」


 モーリスは事務所の鍵を閉め、重い足取りで階段を下りていった。


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