表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/16

『真実の愛は身分差を越えて〜悪辣な公爵令嬢に命を狙われましたが、王太子と側近の皆様に守られて幸せを掴みましたわ〜』

♪ マドモアゼルマリー ♪ 作



「――つめたい冬を越え、ついに入学式ですのね。わたくし、少しだけ緊張してしまいますわ」


 わたくし、マリアン・ボーモン伯爵令嬢は花の十六歳。


 本日はローディウム王立学園の入学式です。王族や高位貴族の方々が集うこの国で最も格式高い学び舎に、わたくしは「成績優秀者」という栄えある特待生として足を踏み入れることになりました。


「大丈夫ですよ、マリアン様なら。式辞の練習も完璧でしたもの。きっと生徒会でもご活躍なされることでしょう」


 控えていた侍女が、わたくしの薄灰色の髪を丁寧に整えながら微笑みました。


「そうかしら……。けれど、今年の生徒会長はアレクサンダー王太子殿下だとうかがっていますわ。殿下の治世に、わたくしのこの知性を以て少しでも貢献できたら……それは、何よりも素晴らしいことですわね」


 わたくしは桃色の瞳を輝かせて、高潔な展望を語りました。

 わたくしにとって学問とは義務ではなく、国を良くするための情熱そのものですの。しかし、侍女の表情は一瞬だけ曇り、声を潜めました。


「……ですが、マリアン様。くれぐれもお気をつけください……!あのエリュシオン・コルトレイク公爵令嬢も、同じ学園にいらっしゃいますので」


 その名は、アレクサンダー様の婚約者でありながら、王都で最も「傲慢で身勝手な令嬢」として知られていた方でした。


 ◆


 学園生活が始まると、侍女の懸念は最悪の形で現実となりました。


 わたくしがその知性を認められ、生徒会の一員としてアレクサンダー様やその側近のジグルド公爵令息、ジン侯爵令息、ギルバート伯爵令息と交流を深めるようになりますと、エリュシオン様のいじめは日に日に苛烈さを増していったのです。


 最初は、些細な嫌がらせでしたわ。


 登校すれば机に「泥棒猫」などという、伯爵令嬢のわたくしには似つかわしくない罵倒の言葉が彫り込まれ、わたくしが丹精込めて書き上げた論文の束は、翌朝には中庭の噴水に無惨に浮いていましたの。


「……あら、ごめんなさい。あまりに卑しい紙が落ちていたから、くずかと思って捨ててしまいましたわ」


 取り巻きを引き連れたエリュシオン様は、扇で口元を隠しながらわたくしを冷たく見下ろしました。

 燃える炎の色の髪をした彼女の周囲には、いつも嫉妬に狂った醜い空気が渦巻いていました。


 いじめは次第にエスカレートしていき、わたくしのドレスに汚水がかけられ、ついにはわたくしを慕う下級生までもが、エリュシオン様の手の者によって理不尽な罰を受けるようになりました。


 アレクサンダー様は何度も彼女を窘めましたが、彼女はそれを「愛ゆえの嫉妬」として片付け、聞き入れるどころかわたくしへの憎悪を募らせるばかり。


 そして、運命の日が訪れました。


 放課後の夕闇が迫る学園の中庭。人目を忍ぶはずの死角に、エリュシオン様はわたくしを呼び出したのです。


「あなたのせいで、私は殿下に疎まれる……。あなたの存在が、私の完璧な人生を壊すのよ!」


「やめてください、エリュシオン様! あなたはそんなことをなさるべき方ではありませんわ!」


「うるさい!」


 エリュシオン様の手には、鈍く光る懐刀が握られていました。


「きゃあっ!」


 わたくしが絶体絶命の窮地に陥ったその時、茂みをかき分けて現れたのは、アレクサンダー様と若き側近の精鋭たちでした。


「そこまでだ、エリュシオン! 貴様の暴挙も、もはや看過できん!」


 アレクサンダー様の凛々しい怒号が響き渡ります。

 ナイフを取り押さえられたエリュシオン様は、その場に崩れ落ちました。


「マリアン、大丈夫か?」

「はい、アレク様……」

「マリアン、良かった、君が無事で!」

「ギルバート様、ジグルド様、ジン様……」


 皆様がわたくしを心配してくださって、わたくしは本当に救われましたわ。


 それからエリュシオン様は修道院に入れられ、亡くなられてしまいました。……きっと、心が寂しい方だったのですわね。



 それからわたくしは、アレクサンダー様をお支えするために必死に駆けずり回りました。

 エリュシオン様の取り巻きだった令嬢たちも、「命令されていたのです」と涙ながらに謝ってくださいました。わたくし、もちろん彼女たちを許してあげましたの。


「マリアン、君のことを、愛している」

「アレク様……実は、わたくしもですわ」


 そうしてわたくしは、図らずもエリュシオン様の空いた穴を埋めるように、王太子の婚約者の座に座ることとなりました。


 最初は伯爵家ということで反対もされましたけれど、わたくしが公務を通じて一緒に働くうちに、皆様認めてくださったようです。




 こうしてわたくしは国民に慕われ、理想の王妃になったのでした。




【奥付】

 書名 :『真実の愛は身分差を越えて〜悪辣な公爵令嬢に命を狙われましたが、王太子と側近の皆様に守られて幸せを掴みましたわ〜』

 著者 :♪ マドモアゼルマリー ♪(王宮付き記録官編纂)

 発行日 :聖教暦416年 11月吉日

 発行所 :ローディス獅子冠出版社

 検閲 :王立情報局 検閲済

 備考 :本書は王室の公式な記録に基づき、国民の道徳的模範として出版されました。本書の複製・転載を禁じます。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ