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運命を取り戻すために

 公爵という地位を捨て、隣国で商会を興し、莫大な財を成したレオン・コルトレイクが、十八年ぶりに故国の土を踏んだとき、真っ先に感じたのは喉を焼くような「熱気」だった。



 王都は、かつてない活気に満ちていた。

 街の至る所にサリュート侯爵が広めた新種のお茶を供す店が並び、人々はカフェのテラスで晴れやかな顔で談笑している。


 また店内の壁や街角には、ニズール山を描いた小綺麗な絵が飾られており、人々の暮らしに深く浸透しているようだった。

 

 街は人々の笑い声にあふれ、誰もがこの景気の良さを謳歌していた。



 だが、レオンの手元にある新聞記事の切り抜きは、その輝きとは真逆の影を伝えている。


 サリュート侯爵邸での侍女の不審死。そして、国の中枢を担っていた宰相ジグルドと財務長ギルバートの凄惨な相打ち。



「……この繁栄の裏で、一体何が起きているんだ」


 レオンは重い足取りで、かつての学友であった貴族の屋敷を訪ねた。





「レオン、懐かしいな! まあ座れよ。そうだ、ちょうどサリュート領の茶が手に入ったんだ。飲んでみるか?最近この街で大流行しているんだよ」


「久しぶりだな。……いや、ありがたいけれどお茶は結構」


 友人は血色の良い顔で、機嫌よくレオンをもてなした。サリュート、という名に拒否反応を覚えたレオンは、丁重に茶を断った。



 しばらく懐かしい笑い話に興じたが、レオンが当時の「エリュシオンの断罪」や「最近の変死事件」に触れた瞬間、友人の笑顔が仮面のように剥がれ落ちた。


「……その話はやめてくれ。兄のお前には酷だろうが、あれはもう終わったことだろう。それに、宰相たちのことだって、泥酔した末の口論が原因で起きた事故だと報道されていたさ」


「事故で宰相と財務長が殺し合うものか。何を知っている」


「俺は何も知らない! 本当に知らないんだ!」


 友人は突如として震える手を口元にやり、自らの爪をガリガリと噛み始めた。


「……十八年前、君が国を出た直後だ。王都通信社のモーリスという記者が、君の家について嗅ぎ回っていた。当時、彼は何人かの貴族に聞き取りをしていたよ。俺も色々聞かれたが、大したことは話していない。だが……彼はその後、海で死んだ。足を滑らせたのだと。……すまない、これ以上は何も知らないし、話すことはないんだ。帰ってくれ」



 レオンは、何かに怯える友人の様子に言い知れぬ不安を覚えながら、邸宅を後にした。




 賑わう大通りを抜け、彼は今も残る王都通信社へと向かう。

 妹エリュシオンの消された真実を、海に消えた記者の足跡の中に探し求めるために。



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