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名探偵モーリス

「わかった。……ああ、わかったぞ」



 深夜二時。王都通信社の編集局は、静まり返っていた。使い込まれたデスクの上、インクの染みと重なった何十枚もの資料を前に、モーリスは自身の震える両手を見つめた。


 これまで彼が数ヶ月にわたり実地調査を続け、集めてきた断片的な情報。それらが今、パズルの最後のピースが嵌まったかのように繋がり、一つの醜悪な、あまりにも巨大な真実を形作っていた。


 モーリスは喉の乾きを覚え、飲み残しの冷めたコーヒーを流し込もうとしたが、カップを持つ手が激しく震えて断念した。


「これを発表すれば……この国は根底からひっくり返る大ニュースになる」


 脳裏をよぎるのは、この事実が世に出た瞬間に巻き起こるだろう大混乱だ。

 民衆の怒号、崩れ落ちる権威、そして――真実を握り潰そうとする勢力の冷徹な眼光。背筋に氷を押し当てられたような恐怖が、じわりと彼を侵食する。


 しかし、その恐怖のすぐ隣には、何にも代えがたい記者としての狂おしいほどの喜びが鎮座していた。

 歴史の転換点に、今、自分一人が立っている。この真実を解き放つのは自分なのだという高揚感が、恐怖を上回る熱を帯びて全身を駆け巡った。



「だが……俺一人の判断で動くには危険すぎるな。不用意に動けば、記事が出る前に消されかねない。明日、所長に相談してみるか……」


 モーリスは深呼吸を繰り返し、高ぶる鼓動を無理やり抑え込んだ。慎重に、散乱した資料をまとめ上げる。それらは黒い表紙のファイルへと一冊に綴じられた。

 そして彼は机の奥の引き出しにそのファイルを仕舞い込んだ。



 コートを羽織り、ガス灯の消えかけた階段を降りるモーリスの足取りは、いつになく力強かった。

 

 近い将来、自分の名が国中の新聞に躍り出る日が来る。真実を暴いた『名探偵』としての名声。それは、一介の通信社記者が夢見る最高の栄誉だ。




 家路を急ぐ彼の背中に、湿った夜風が吹きつけた。






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