8cs 「授業中」
教室で黒板の文字を写すふりをして、つい隣の席を見てしまう。
英語のノートを開くけど文字は頭に入らない。
「I have a pen……」も、「She likes apples……」も、全部あの子に伝えたい言葉に見えてしまう。ページの端の小さな文字まで、まるでラブレターの一部のようにキラキラしている。
隣の席の彼女がペンを動かす小さな音、ページをめくる音に目が吸い寄せられる。
視線がふと合う。彼女は小さく微笑む。胸がドクドク跳ねる。
またページをめくる。僕の心臓も一緒にめくられるみたいだ。
勇気を出して小声で言う。
「……あのさ、さっきのプリント、拾ってくれて……ありがとう」
彼女の瞳が少しだけ笑う。小さく息を吸って、
「うん、いいよ。大丈夫だった?」
その声に胸がぎゅっとなる。
慌てて頭をかく。
「う、うん……ちょっと……」
言葉が途切れて目をそらす。
でも耳に残る彼女の声に、心臓がドクドク跳ねる。
髪を指で押さえるしぐさ、鉛筆の音、ノートのめくれる音――全部が妙に鮮明で、胸が熱くなる。
文字は全部、あの子への手紙に変わっている。
話したことで少しだけ世界が明るくなった気がして、授業はまだ半分なのに、心はもう彼女でいっぱいだった。




