6cs 「チューあるいはキス」
玄関前、ドアの前で立ち止まる。
一日中、街を歩き回り、映画を見て、カフェで笑った。手に汗を握りっぱなしだった。話す勇気も出せず、ただ笑って過ごした時間が頭の中で巻き戻る。
「……じゃあ、またね」
手はつないだまま、少し震える声。返す声も同じくらい震えているのがわかる。胸の奥がじんわり熱くなる。
「あの……」
「えっと……」
「うん」
「……」
息を吸った瞬間、心臓が耳の奥でドクドク鳴るのを感じる。言葉と勇気が一緒に押し寄せ、唇が触れる――短く、でも確かな衝撃。ほんの少し歯があたって、体がびくっと跳ねる。手は自然にぎゅっと握りしめあう。
目を開けると、互いに顔が赤く、笑みがこぼれる。視界の端がほんのりぼやけるくらい、頬が熱く、胸はまだドクドクと拍を打つ。息をするのを一瞬忘れていたことに気づく。
「……じゃ、じゃあ!」
まともに顔が見れず、振り返らずに走り出す。後ろで小さく揺れる。
背中に残る熱、手に残る温もり、唇に残る触れ合い。
玄関の前、小さな影が見守る。




