5cs 「はじめての部屋」
段ボールに囲まれた部屋で、父が最後の棚を組み立てる。母は台所で、食器や消耗品を並べている。服や本はまだ段ボールの中、壁際に積まれたまま。
「じゃあ、私たちは帰るけど、残りの荷物は大丈夫?」
母が笑いながら声をかける。
「あとは服とか本やから、大丈夫!」
少し強めに返す。声が部屋の隅々まで響くのを感じる。
父は段ボールを抱え、肩を軽く叩く。
「困ったら、電話するんやで」
二人の笑顔に、安心と少しの寂しさが混ざる。胸の奥がざわつく。
玄関で靴音が響き、ドアが閉まる。
カチリ――空気が断ち切られ、胸の奥がきゅっと縮む。
「静かだ……」
声に出して、少し間を置く。手が自然と机の縁に触れ、指先でぐっと握る。
窓へ駆け寄り、急いでカーテンを開け、外を見下ろす。
誰もいない。
目は、無意識にさっきまでいた影を探す。映るのは、段ボールと立ち尽くす自分だけ。
段ボールに手を置く。机、ベッド、棚――触れるたびに、少しずつ現実を確かめるように。
深く息を吸い、吐く。胸の奥でざわめきが渦巻き、鼓動が少しずつ早くなる。
視線を巡らせ、指先を段ボールに沿わせる。まだ完成してないけど、ここが自分の世界になるんや――そんな予感に、思わずふるえる。




