40cs 「地球の夢」
文字が消えたのは、それが意味より先に、恐れを運ぶようになったからだった。
声は次に消えた。
同じ言葉が、同じ温度を持たなくなった瞬間、音はただの振動になった。
電力が不要になった時、人類はようやく理解した。
伝えるための装置よりも、伝わってしまう感情のほうが、はるかに強く、逃げ場がないことを。
こうして人類は、こころとこころでのみ通じ合う種になった。
誰か一人の不安は、薄い霧のように群れ全体へ広がり、小さな欲望は、波紋のように世界を震わせた。
嘘は消えた。
同時に、言い訳も消えた。
地球はそれを、ずっと感じていた。
海の底でうずくまる恐れ。
大陸の奥で膨らむ焦り。
空気の中を漂う、「まだ足りない」という衝動。
地球は怒らなかった。
怒りは、かつて何度も使った感情だった。
悲しみもしなかった。
悲しみは、もう重すぎた。
地球が選んだのは、感情を手放すことだった。
それは宣言でも、裁きでもなく、ただの生理反応に近かった。
地球と人類の最終決戦は、武器も敵意もなく始まった。
人類は初めて、自分たちの感情が、地球と同じリズムで鼓動していないことを知った。
増えたい。
残りたい。
特別でありたい。
その微かなズレは、こころとこころでつながった世界では、隠しようがなかった。
地球は、そのズレを拒絶したのではない。
ただ、一緒に夢を見続けることができなかった。
地殻は静まり、海は境界を忘れ、風は意味を運ぶのをやめた。
そして地球は、長い一日の終わりのように、静かに眠りについた。
――人類は、消滅した。
「一緒にいたかった」
それは地球の夢だった。
そして夢を見る地球も、まだ誰かの夢の途中だった。




