39cs 「フレンチレストラン」
気取らないオシャレなレストラン。
テーブルクロスの白が少し黄色く見える。
カトラリーが並び、グラスが光を受けて揺れる。
椅子の下で足が少し触れ合う。
「……これ、頼もうか」
「うん……そうだね」
声は小さい。遠い。
ワインのグラスに指をかける。
カチッ、と控えめに音が響く。
二人の間に間ができる。
周囲の声は遠く、耳に届かない。
ナイフを握り直す。
お皿に当たる音が耳に刺さる。
小さな動作なのに、緊張を運ぶ。
「……うん」
短く頷く。
目が合わない。
隣のテーブルのカップルが笑う。
誰もこちらを見ていないのに、胸が少し締めつけられる。
フォークを置き、ナプキンを軽く叩く。
その瞬間、心臓が跳ねる。
「……もう食べた?」
「うん……」
声のトーン、微妙に揺れる。
何を考えているのか、わからない。
ワインを一口。
グラスの中で赤が揺れ、光を受けて瞬く。
口に運ぶたび、沈黙が増す。
お皿にナイフが当たるカチカチ、グラスの微かなぶつかり、椅子の軋み。
全部、静かに胸に響く。
「……そうだね」
言葉は途切れ、先を続けられない。
微妙な距離に日常の緊張が浮かぶ。
窓の外、街灯が揺れる。
遠くで車のライトが流れる。
光がテーブルのワインの赤とクロスする。
夜は柔らかく、冷たい。
時間だけが止まったように流れる。
口に運ぶ動作は続くが、感情は途切れ途切れ。
呼吸の音、ナプキンの擦れる音、フォークのカチッ、どれも些細だが耳に残る。
「……おいしいね」
「うん……」
過去の記憶がちらつく。
料理を半分ほど食べ終える。
ワインを少し注ぐ。
手がぶつかる。
微かな笑い声が漏れる。
ぎこちなさは少し和らぐが、消えない。
「……明日、仕事だね」
「うん……」
互いに触れ合わず、存在だけを確認する。
夜は続く。
微かな振動と間のなかで、何かがそっと揺れている。




