12cs 「横断歩道」
青に変わって、何人かが先に歩き出す。
僕は、少し遅れて足を出す。
靴音が重なって、ほどけていく。
クラクションが一度鳴った。
振り向かない。
視線は下。
アスファルトじゃない。
白だけを見る。
横断歩道の白は、どれも同じ幅だ。
そう決まっている。
縮んだり、伸びたりはしない。
それでも、一歩目は近くて、
真ん中あたりの白は、少しだけ遠く感じる。
人の流れが、左右に分かれる。
追い抜かれる足音。
背中をかすめる風。
自分だけ、半拍遅れている。
呼吸が、少し早くなる。
真ん中で、一度だけ立ち止まる。
次の白は、さっきと同じはずだ。
同じ長さで、同じ位置にある。
頭ではわかっている。
それでも、
ここで踏み出すかどうかは、
毎回、少しだけ迷う。
「……大丈夫」
声に出すほどのことでもない言葉。
誰に向けたわけでもない。
白。
白。
白。
足が動きだす。
いつもそうだった。
僕は、振り返らない。
読後に感じたことを、一言でも残していただけたら嬉しいです。




