11cs 「卒業式」
体育館の床は、朝から何度も拭かれた匂いがする。
ワックスと、少し湿った空気。
外より寒くはないが、じっとしていると指先が冷える。
椅子が並ぶ。
背もたれのない椅子が、きれいに揃えられている。
座ると、体重がそのまま床に伝わる感じがする。
正面には壇上。
国旗と校旗。
見慣れているはずなのに、今日は少し遠い。
名前が呼ばれていく。
一つ、二つ、三つ。
返事の大きさはまちまちで、間の取り方も違う。
次が近づく。
胸の奥が、理由もなく詰まる。
立ち上がる音がする。
椅子の脚が床をこすり、どこかで咳払いが重なる。
拍手はそろわない。
でも、止まらない。
名前が呼ばれる。
一瞬、時間がずれる。
喉が鳴る。
息を吸う。
返事をする。
声は、思っていたより普通だ。
震えていない。
通るわけでもない。
前を見る。
壇上の人が、何かを読み上げている。
言葉は耳に入るが、意味は追わない。
賞状を受け取り、席に戻る。
横を見る。
目を伏せている人。
まっすぐ前を見ている人。
ハンカチを握りしめた手。
動かない背中。
拍手。
立つ。
また座る。
それを、何度も繰り返す。
「楽しかった修学旅行!」
「修学旅行!!」
終わりが近づく。
でも、終わった感じはしない。
立ち上がる。
通路を進む。
出口の向こうは、いつもと同じ景色のはずなのに、少しだけ眩しい。
振り返らない。
理由はない。
ただ、ここで一区切りがついたことだけは、体が先に知っている。
どれも、誰かの一日で、気づけば過ぎていく時間です。
切り取ったのは、意味ではなく、なんとなくの手触りです。
誰のものでもあり。
誰のものでもありません。
1章目(1cp)はここまでとなります。
最後までお読みいただき、本当に、ありがとうございます。
引き続き、遊びに来てくれると嬉しいです。




