3話
朝のバス。
タケルは、いつもより早く乗った。
理由はない。いや、ある。
彼女に、また会えるかもしれないから。
バスが停まり、乗ってきたのは――いた。
制服の違う、あの女子生徒。
タケルの心臓が、少しだけ跳ねた。
彼女は、前と同じ席に座った。
タケルの斜め前。
距離はある。
でも、近い。
目が合った。
たぶん、ほんの一瞬。
でも、確かに合った。
タケルは、すぐに目をそらした。
窓の外。
住宅街。
何もない。
でも、見ているふり。
(俺、今、逃げた?)
(目が合ったのに、そらした。これ、逃げたよな?)
(でも、見つめたら、それはそれで変じゃない?)
(てか、俺、何してんの?)
心の中が、ぐるぐるする。
目が泳ぐ。
心も泳ぐ。
(俺、今、恋してるのか?)
(いや、違う。これはただの…ただの…)
(なんだっけ?)
バスは、静かに進む。
彼女は、スマホを見ている。
タケルは、イヤホンのコードを指でいじる。
(俺、今、どうすればいいの?)
(どーにも、こーにも、なにがなんだか…)
その日も、何も起きなかった。
でも、目が合った。
それだけで、タケルの一日が少しだけ変わった。




