2話
昼休み、教室の隅。
タケルは、友人のユウスケとカズマに相談していた。
声は小さめ。内容は大きめ。
「バスでさ、女子校の子見かけてさ…なんか、気になるんだよね」
ユウスケは、ポテチを口に入れながら言った。
「名前は?」
「知らない」
「話した?」
「してない」
「目、合った?」
「たぶん」
カズマが言った。
「それ、恋じゃなくて…たぶん、錯覚」
タケルは、机に突っ伏した。
「でもさ、なんか…なんか、気になるんだよ」
ユウスケは、真顔になった。
「恋ってさ、名前知らなくても始まるもんなの?」
カズマが哲学的に言う。
「“好き”って言葉は、どこから有効になるんだろうな」
タケルは、心の中で叫んだ。
(俺、今、恋愛哲学に巻き込まれてる!)
「てかさ、バスってさ、話しかけるタイミングなくね?」
「降車ボタン押す瞬間に“あ、君も降りるんだ”って言えば自然じゃね?」
「それ、ナンパじゃん」
会話は迷走していく。
でも、タケルの心は、少しだけ整理された。
(俺、恋の知識ゼロだ)
(でも、なんか…なんか、楽しい)
その日の帰りのバス。
彼女はいなかった。
でも、タケルは窓の外を見ながら思った。
(俺、今、恋の準備してるかもしれない)




