『いつだって教師は冷静』
「屋内は次のシャトルランがラストか」
タイムリミットを知らせる音が一つの節を知らせるまでに二〇メートルを往復し続けるという地獄の項目。閻魔様がこのシステムを知らば、真っ先に地獄へ導入するだろうと思えるほどの苦しさがこれにはある。体力テストの花形とも言えるこの項目に、男子生徒たちは皆自信満々だ。それが束の間ではあろうとも。
「じゃあ……はじめ!」
ピーッとホイッスルが鳴るのと同時くらいに焦燥感を煽る音がゆっくりと流れ出す。白線を踏めば休む時間ができるが、柾は知っていた。
走るのと立ち止まるのとを繰り返すと、人間は余計に疲れるということを!
(つまり、シャトルランはギリギリを計算して白線を踏むのがベスト!!)
白線で気楽に休むクラスメイトたちの姿に、柾は勝利を確信した。
脱落者は次第に増えていき、気がつけば柾と清水だけになっていた。
「き、きついぃー……!」
柾の背後で清水が愚痴をこぼす。確かに柾も既にきつかった。
──そして。
(な、なにぃー!?)
柾は気付いた。離脱した同級生の体操服が、すこし透けているという事に!
(バカな! では俺は!?)
ハッと視線を落とせばまだ首の皮一枚。しかし限界への代償はとても重かった。浮いた汗を吸った体操服は柾の肌上に潜む赤い魔物の姿を浮き彫りにせんと努め、白の色素はすこしずつ半透明に汚染されていた。
(このままではマズイ、しかし手を抜けばバレるだろうし、普通に転けては生徒会長として示しがつかない……!)
肩で息をするようになってきた柾に残された数少ない正常な判断力は……果たして、そこで使い尽くされたようだった。
「も、限界……!」
(あれは──!)
はくせん。
しみず。
柾は思った。これならいけると!
すまん清水──、
「──俺と一緒に死んでくれッ!」
「どぅふッ⁉︎」
二人で転んだ。ホイッスルが終了を告げた。
友情も終了を告げそうだった。
「ごめんて清水。転けそうだったから……」
「遊佐っち、オレもうお婿に行けないよ……」
計算通り柾は転けそうになった時、清水のズボンを掴んだ。清水の柄物パンツお披露目会は体育教師の「騒ぐな」の一言で終わりを迎えた。
清水の社会的なダメージと引き換えに、ドス鯉Tシャツは守られたのだ!




