『時すでに瀕死』
一時限目に思わぬ奇襲を受けて、柾は疲弊した。しかしその後は滞りなく授業を済ませ、あるいは休み時間は昼寝をしているフリをし、あの手この手でやり過ごした。
もはや柾の任務を阻めるものなどいない。柾は心の中で勝利に笑った。──しかし、
「そういえば午後は体育あったっけ。体操服忘れなくて良かったー」
(な、にぃ……!?)
昼休みのチャイムに混ざって聞こえたクラスメイトの言葉。
ばかな、と柾が時間割を確認すると本日の予定には確かに体育がある。そして、クソダサTシャツが忘れさせただけで、荷物の中には当然のように体操服もある。
(嘘だろ……ただいるだけで執行猶予者の気持ちにさせられてるのに、服を、脱ぐ……?)
そう。体育があるということは、人の目があるときに学生服を脱ぎ捨て、体操服に着替えなければならないということだ。それは諸行無常の理で、天地開闢より決まっている規則。優秀な成績を残す柾が汚点を残さずにいるには避けては通れぬ道だ。
そして。それは鉄壁を誇る学生服という牙城を捨て去る愚行に他ならない!
(俺は……体育しなきゃいけないのか?)
人生で初めて抱いたその疑問にワナワナと震える柾。そこへ、
「遊佐っち昼いこーぜー!」
清水が肩を叩いて昼食を誘った。
「うぉわあああッ!!」「どええっ!?」
ホラー映画を見た女子さながらにビビり散らかした柾に清水もたまげて声を張り合った。
「え、遊佐っち?」「な、なんだキヨかよ。脅かすなよ!」
「いやこっちのセリフなんだけど……」
引きつる笑みを見せる清水に胸を撫で下ろした柾は気付いた。
「すまんキヨ、生徒会の行事があるんだ。またな」「お、おう……」
ちなみにそんなものはない。柾の口から出まかせだ。
スタスタと教室を後にした柾は思った。
(思わず奇声を上げてしまった。あんなに視線を集めて、さらに食堂でも視線を集めたら、きっとオレは疑心暗鬼で死んでしまう!)




