『休符が必要ないタイプ』
(第一関門突破ッ、ここは余裕だぜ!)
傍目に見れば満身創痍だが柾の中ではバレなきゃセーフ。心の中でガッツポーズをした柾は一つ、二つと呼吸を挟んでから教室のドアをガラガラ引いた。
「お、遊佐っちおはよー!」
「おっす、おはようキヨ」
最初に出迎えたのはクラスメイトの清水だ。柾は親しみを込めてキヨと呼んでいる。
道すがら内心の冷や汗をひた隠しながら自分の席へと近づいていく柾は、そこを侵犯している女子生徒と目がかち合った。
「あらマサキ、おはよう」
「錦門、下の名前で呼ぶな……」
「あらマサキ、生憎だけど──」
いけしゃあしゃあと柾の席に座っているその女子生徒の名は……錦門環奈。何を隠そうと錦門学院の理事長が溺愛する孫娘だ。
濡鴉の髪に白磁の肌。異国の異彩を放つその翡翠の瞳は視線を逸らす事を許さない。
立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。可憐にして聡明。その人気は男女の枠には収まらず見た者全てを振り向かせる圧倒的美。神に愛された造形をその顔に宿すその少女は、
「──いつかは二人とも遊佐か錦門になるのよ今のうちに練習しておかなきゃいざという時にお互いを呼ぶ時に不便でしょう? そう言わばこれは予行演習であってまだ本番ではないのだからこの程度で恥ずかしがってたら仕方ないわよそもそも二人が出会ってしまった時点でこうなる事は必然で予定調和を準えているだけなのだから何も恥ずかしがる事はないのよそうこうなる事は必然起こるべくして起きた事なのよ──!」
死ぬほど残念な中身をしていた!
限界オタクが得意分野についてペラペラと思う限りの情報で叩きつけるが如く、水を得た魚のように言葉の洪水を起こす錦門環奈は見る者全てをドン引きさせる!
「エックス=わたしとした時マサキ =ワイで──」
そしてよくよく聞けば1=1であるところを壊れたテープよろしく虚ろに飾り立てている。その様相はまさに、蛇足の暴風雨だ!!
「錦門、錦門」
「つまりその運命の方程式は──って何ですか!」
人の言葉を遮ってはいけません。そんな古き教えを訴えかけるような眼差しに射抜かれた柾は呆れたまま立ち尽くし、明後日の方向を指差した。
錦門がその指示す軌跡を視線でなぞると、その先は教壇。
立ち尽くすは教師。見せつけるは闘志!
「もうホームルーム始まるけど、お前、別のクラスだろ」
「ふっ、しくじったわね……」
錦門は遅刻した。
札束がログアウトしました。




