『今日の天気は鯉模様』
「おーい、遊佐っちー!」
「ん、あれは……キヨか」
噂をすればなんとやら。柾たちはランニング中の清水と出会した。
清水はその場で足踏みしながら先行く部活仲間達を尻目に「錦門さんも、やっほ」と百点満点の笑顔で挨拶した。
「どうも」
他人行儀な素っ気ない会釈を一つ。さすがの清水も苦笑した。
「キヨ」
「お、どした?」
「今度飲み物奢ってやるよ」
「えっ、なんで。いや嬉しいけど」
突然の柾の申し出に、清水は困惑した。
「まあ、遊佐っちがいつも通りで安心したよ」
「キヨ……!」
こいつやっぱいい奴だなー、と柾は思った。その次の瞬間、
「あっ、会長!」
名を呼ぶばかりの錦門の短い勧告。袖を引くだけでは間に合わず。
「えっ」
柾の背中にボタっと何かが落ちた。
柾が上を見上げると、快晴の空にはトンビが飛んでいる。
ぴーひょろろー。
「…………遊佐っち、こういうのは運が付くって言って……」
「やめろ、今聞きたくない」
仕方なく柾は上着を脱いで確認する事にした。べっとりと垂れているのは紛れもなく鳥のフンだった。錦門は何故かヘリを要請していた。
「錦門、やめろ……」「会長が、そう言うなら……」
命拾いしたわね、と錦門。
空の平和を脅かしてはいけない。よりも、ヘリが飛べば生徒たちも穏やかに部活などしていられないだろう。
(まあカッターシャツさえ濡れたりしなきゃ問題ないしな)
幸い空は快晴。雨の心配はなかった。
「オレが声かけたから……ごめんな、もう行くわ」
申し訳なさそうに本来の目的を思い出した清水に柾は別れを告げた。
「おう、気をつけ──」「わっ!」
清水の足がもつれた。清水の手が柾のカッターシャツへと伸びた。
──パンッ!
「────は?」
因果応報、と言う言葉が柾の脳裏を掠めた。
柾のカッターシャツは、ボタンに暇を出した。はらりと風にゆらめいて現れた、クソダサTシャツ。その魔物はバタバタと我は顔で名乗りを上げていて。例え今ここで五月が来ても、空へと昇る準備はばっちりだ!
「こ──鯉の富士……!」
揃った二人の声に、柾はうずくまって小さく咽び泣く。
「ゆ、遊佐っちぶへっ!!」
柾は清水の頬に張り手をぶち込んだ。
経験恥を1手に入れた。遊佐の富士の称号を手に入れた。




