『光と闇は表裏一体』
その後は滞りなく進んで体育も終わりを迎えた。屋外に出た柾は先手を打ってグラウンドに転がる事で体操服を泥だらけにし、陸に上がったナマズの称号を知らぬ間に手にしていた。
(素晴らしい機転によってTシャツは守られた。尊い犠牲となったキヨにまたなんか飲み物でも奢ってやろう)
もはや本末転倒とも言える恥を晒し続けている柾ではあったがクソダサTシャツがバレるよりはマシだと割り切っていた。
「遊佐っち、今日ほんとどうかしてるよ……」
「キヨ……」
すまん、と柾は心の中で謝った。口には出さなかった。
「じゃ、キヨ。俺トイレ行くから」
「今日ほんと慈悲がないよね!?」
遊佐っちはどうしちまったんだ……と泣きながら着替え始めた清水を置いて柾はトイレへ向かった。
「さーて、着替えるか。世界一安全な──」「あら会長」
お前は……錦門!
現れたモンスターに柾は心の中だけで警戒の色を示した。
「どうしたんだ錦門」
「会長こそ泥まみれでどうしたんですか……」
「手強いやつがいて、ちょっと、な。……それより、これは何の騒ぎだ?」
柾がそう尋ねると、錦門は「ちょうど良かった」と指を鳴らした。すると錦門の後ろから赤毛の少女が現れた。その瞳は佇まい通り冷めた青色だ。
「どうして虎賀がここに?」
虎賀竜美。錦門学院生徒会の庶務を務める相当なキワモノ。ロングスカートを穿かせたらそのままスケバンになれそうなポテンシャルを誇る。その人相の悪さとは裏腹にお花の世話が趣味で、花道や茶道の家元を母に持つ名家の令嬢である。
(──あれは……!)
柾は虎賀の手にあるソレに気付いた。
「男子トイレに学生服が隠されていたんですよ。イジメなんじゃないかって話があったので、デリケートな問題ですし私たちが先んじて回収しておいたんです」
「そ、そうか……」
柾は知っていた。あれは間違いなく自分の学生服だと。
「では虎賀さん、職員室へ──」
「待った!」
踵を返した二人に柾は待ったをかけた。
「持ち主には俺が返しておくよ。ほら、繊細な問題に先生たちを介入させると大事になってしまうかもしれないし、ここは俺が生徒会長としてだな……」
「……なるほど。それは確かにそうですね」
一考だけして納得してくれる錦門の素直さに感謝した柾。
「ではまず誰のか調べましょう」
「えっ」
その喉から潰されたガマガエルのような声が出た。
「虎賀さん、ポケットに生徒手帳はありますか?」
「ちょ」
「あります」
「待っ──」
「これは……」二人の視線が柾に刺さった。
「いやー、まさか俺のとはな! ……じゃ!」
制服をひったくり、立ち去ろうとした柾の手首を錦門が掴んだ。
「これは生徒会に対する宣戦布告ですよ。生徒総会を開きましょう。徹底抗戦です」
「待て待て待て、大事にしようとするんじゃない!」
「人のツラに泥塗るような真似して、タダで済むと思ったらあきませんよねぇー?」
「つ、ツラ……? 虎賀も落ち着け!」
スケバンというよりもはやヤクザの娘じゃんと思った柾だったが、後輩相手に怯むわけにはいかなかった。
「なんの騒ぎだ」
「愛島先生……」
やってきたのは錦門の担任。
「アイちゃん先生……」「はやてん……」
「ここは天下の往来。アタシの行手を阻む理由──には興味がないからどいてくれ」
やる気、元気、磐城。ありとあらゆるものが無くなったその教師の目は死んでいる。名前に反して愛も希望もない。錦門にも虎賀にもナメられてる、ダメダメな女教師だ。
「あら先生。これでも興味がない?」
──錦門の手元に揺れるそれは……偉人がプリントされた紙幣!
「俄然興味が出てきた。今すぐ話を聞かせてくれ」
「錦門、賄賂を渡すな!」
愛島は買収された!
「こら、もうすぐ授業が始まるぞ、何をやってるんだ!」
人混みをかき分けやってきたのは教頭先生。苦労が実を結んだその頭は光り輝いている。
「教頭先生、実は──」
錦門はかいつまんで状況を説明した。
「……我が校にイジメはありません。遊佐くん、そうだね?」
「はい、ありません、誓って!」
「ちょっ、会長!?」
隠蔽しようとする教頭。それに柾が乗っかると、錦門は戸惑いながらも食い下がった。
しかし、
「解散!」「解散!」
半ば無理矢理、教頭と柾は野次馬たちに撤収を促した。
錦門はそれでもと食い下がった。
錦門は遅刻した。
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