不審な足跡
翌朝。
「……あれ?」
ガルドは身体を起こす。筋肉の軋みも、鈍い痛みも、ほとんど残っていなかった。昨夜、あれだけ地面と抱き合ったというのに。
「……動けないの覚悟してたんだけどな」
同じ部屋の反対側で、フィオが布団の中から顔を出す。
「あたしも~……」
「私もよ」
すでに身支度を整えていたアルウィナが、首を傾げる。
「筋肉疲労も魔力の消耗も……回復が早すぎるわね」
三人は顔を見合わせた。理由を探ろうと思えば、いくらでも考えられる。だが――深く掘り下げるのは、誰もが無意識に避けた。
「……まあ、助かったってことで」
ガルドが苦笑して話を切り上げる。
「今日はやることが多いからね。動けるに越したことはないよ」
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ロイド宅で朝食を簡単に済ませた後、三人は村の外へ向かった。本格的にゴブリン襲来に備えるため罠を設置する。
「この辺り、通り道になりやすそうね」
アルウィナが足跡を確認しながら言う。
「うん、森の陰と草の流れ的にもここは通ると思うよ」
フィオは慣れた手つきで罠を組み、地面に仕込んでいく。ガルドは周囲の警戒を続けながら、配置の間隔を確認していた。罠の設置を終え、改めて周囲の足跡を確認する。
その時だった。
アルウィナが足を止める。
「……ちょっとこれ」
示された地面。そこに残っていた足跡は――明らかに、他より大きいものだった。
「ホブゴブリン……?」
フィオがしゃがみ込んで比べる。
「いや、それより一回り……いや、二回りは大きいな」
ガルドは表情を引き締めた。
「体重だけじゃない。踏み込みが深くて……重い」
三人とも、同じ結論に辿り着く。
「……指揮個体もしくは」
「それ以上ね」
アルウィナが低く言った。空気が少しだけ重くなる。
「罠にかかるとは限らないわね」
「かからない前提で考えた方がよさそうだ」
ガルドは立ち上がり、村の方角を見た。
「戻ろう。早いうちに村長に報告しよう」
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村長の家。事情を聞いた村長は、静かに頷いた。
「……罠を設置してくれたこと感謝します」
「夜間は村の外への出入りを禁止してください」
ガルドがはっきり告げる。
「足跡に通常より大きな個体が混じっています。ホブゴブリンの足跡は確認していますが、それ以上の可能性があります」
村長は一瞬、言葉を失った。そもそも魔物が村に近づくこと自体が稀な出来事だ。今までそういった事がなかったわけではない。しかし、いたとしてもはぐれたゴブリン程度だった。
「何度か村に近づいてた形跡もあり、上位個体を引き連れていた事から、襲撃があるなら――」
「おそらく今日の夜です」
村長はゆっくりと立ち上がり、頷いた。
「分かりました。夜間の外出は禁止。見回りも増やしましょう」
「お願いします」
三人は頭を下げた。外に出ると、空はどこまでも穏やかだった。
だが――その静けさが、逆に不気味だった。




