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穏やかな夜、危険な条件

 ロイドの家に戻ってくる頃には、空はすっかり夕色に染まっていた。扉を開けると、あたたかな空気がふわりと流れ込み、三人はほっと肩を落とす。


「は〜……疲れた……」

「でも、調査はいい収穫だったわね」


 それぞれが思い思いに息をつきながら席に着くと、ロイドは何も言わず台所へ向かった。


 鍋を置き、薪に火をつけ、野菜を刻み、肉を切る。その動きはやけに手際が良かった。


 そして数分後。


「……できたぞ」


 ロイドがテーブルに置いた皿を見て、三人は同時に固まった。


 茹でただけの野菜。焦げ目のついた肉。焼いただけのパン。


「ロイドさん……これ料理じゃなくて、素材じゃ……」


 フィオが遠慮気味に言う。ガルドが苦笑する。

 

「いや、まあ……食えるけど……」


 アルウィナは額を押さえて立ち上がった。


「もういいわ。貸しなさい。素材を食べさせるって何よ……火加減から間違ってるのよ。料理できないなら、できないって言いなさいよ」


「……食えるだろう?」


「美味しくはないのよ!」


 そう言いながらアルウィナは鍋を奪い取り、魔力で火加減を調整しながら手際よく味付けをしていく。さっきまで無味だった湯から一変、食欲をそそる匂いが広がった。


「やっぱアルウィナってすごいな〜」

「助かる……ほんと助かる……」


 ガルドとフィオは感嘆し、ロイドは静かにその様子を見つめていた。

 表情は変わらないが、どこか穏やかな色が差しているようにも見えた。


---


 食事を終え、片付けに入る。フィオが皿を重ねようと手を伸ばした時、棚の奥に何かが光った。


「あれ?あそこにあるのロイドさんのナイフ……?触ってもいい?」


「構わない」


 何気なく取り出し、手に乗せる――


「っ、重っ!?え、なにこれ!?」


 片手で支えきれず、落としかけてフィオが慌てて両手で持ち直す。


「腕取れるかと思ったんだけど……!」


「俺もいいですか?」


「好きにしろ」

 

 ガルドが受け取る。持った瞬間、目を細めた。


「なんというか……バランスが異様というか。投げるにも斬るにも中途半端……いや、中途半端じゃない。これを完璧に扱える筋力と技量があればその両方を成立できるのか……」


「ロイドさん、普段こんなの腰に下げてるの?」


 フィオの問いに、ロイドは平然と答える。


「村に来てからはあまり使ってないが、基本そうだ」


 今日、森で見た足音ゼロの歩き方。

 魔物の足跡だけで種別を判断した異常な観察眼。

 そしてこのナイフ。


 興味と疑念と高揚が胸に混ざる。


---


「ロイドさん」

 

 片付けが終わったところで、ガルドが真剣な声を出した。


「……もしよかったら、一度手合わせしてもらえませんか?」


 ロイドの動きが止まる。短い沈黙。


「……いや、俺は――」


 断ろうとして口を開いた瞬間、ガルドがまっすぐ言葉を重ねた。


「今日、森で見た動き……かなり熟練したものでした。俺はもっと強くなりたいんです。こういう機会、冒険者としては逃したくないんです」


 フィオも明るく口を添える。


「なんかロイドさん、教えるの上手そうだしね〜……怖そうだけど」


 その言葉に、ロイドはわずかに目を伏せた。


 ダリオに訓練をつけたとき悪くないと感じたが……。


 気づけば、断ろうとしていた言葉は喉の奥で静かに消えていく。


「……わかった。だがいくつか条件がある」


 ガルドの顔が一気に明るくなった。


「よっしゃ!それで条件ってのはなんです?」


 ロイドはガルドからナイフを軽々と受け取ると、扉を開けた。


「アルウィナによる身体強化魔術を受けること。ここでの内容は他言しないこと」


「もちろ――」


「殺す気で来ること」


 その言葉を落とした瞬間、ロイドの気配が沈む。


 形も大きさも分からない未知の何かがそこにいると感じてしまうそんな圧力。三人の視界に映るロイドは変わらない。ただ背を向けて扉へ向かっているだけなのに、思わず息を止めていた。


 未知の化け物が、海底からゆっくりと水面すれすれまで浮かび上がった――そんな錯覚すら覚える。


 ロイドは何も言わず、静かに外へ出た。


 その気配だけを残して。

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