違和感
森の入口。
ガルドは剣帯を握り直し、フィオは匂いと風を読み、アルウィナは魔力の流れを探る。
しかし三人とも、森よりもまず――ロイドのことが気になって仕方がなかった。
ロイドはただ立っているだけ。しかし普通ではない何かがある、そう三人とも感じていた。
冒険者歴の長いガルドは、無意識に背筋を伸ばしていた。
……療養中の兵士って話だよな?
---
森に踏み入ると、足元の枯れ枝が軽く折れる音がした。
一番前を歩くフィオの軽やかな足取り。中央で索敵魔術を展開するアルウィナ。後方で周囲警戒を兼ねながら歩くガルド。冒険者として長い間パーティーを組んでいる三人の動きは慣れている。
フィオがちらりとロイドを横目で盗み見る。
ぜんっぜん足音聞こえない……小枝も枯れ葉も多いこの道で?
フィオは過去に“音を消して歩く人間”を見てきたが、ロイドの動きはどれよりも洗練されていた。
……まさか、ね。
その考えが胸をよぎり、フィオは黙り込んだ。
---
アルウィナはアルウィナで、別の違和感を抱いていた。
索敵魔術を展開する都合上、あらゆる魔術の流れを感じ取っていた。しかし、そこで不自然なことが起きていたのだ。
なんで魔力感じないのよ。
本来なら微弱でも魔力は体の周辺に“膜”のように漂う。素人でも魔術を使えなくても、生きている限り魔力は漏れ出る。
ガルドにはガルドの魔力、フィオにはフィオの魔力を感じる。しかし、その後ろを歩くロイドからは全くの魔力を感じない。
何か都合があって魔力を隠してる……?……いや、隠すって言っても、これじゃ無さすぎて逆に不自然よ。
魔力を完全に遮断する方法は存在する。魔力を一切通さない材質を使用することでも可能だ。そしてもう一つは、魔力経路の閉塞。魔力を完全に体内だけで循環させ、体外へ一滴も漏らさない――魔力を寸分の狂いなく完璧に制御する。理論上は可能だが、そんな芸当ができる人をアルウィナは一人も知らない。
---
一方、ガルドは足跡を追いながら呟く。
「ここにも足跡……十、いやそれ以上か。完璧に群れだね。それに――」
何か言いかけたところで、ロイドが答える。
「大きい足跡が複数ある。ホブもいる」
「へぇ……」
ガルドは思わず顔を上げた。
「……兵士って聞きましたけど、随分詳しいんですね。兵士は兵士でもかなり前線だったとか?あんまりいないですよ。ゴブリンの足跡だけで種別まで判断できる人」
「ただ見ただけだ」
「いやいや、それだけで判断できたら苦労しませんって」
ガルドは苦笑したが、内心では別のことを感じ取っていた。
足跡で種別判断できるのはかなり慣れてるよな。兵士……最前線で魔物と戦ってたんならまだ理解できるけど、なんていうか……そういう感じじゃないよな。
一行は足跡を確認し、罠の配置を推測し、群れの進行方向を割り出す。
ロイドは終始黙ってついてくるだけだったが、観察している視線だけは終始冷静で鋭かった。
---
調査を終え、村の灯りが見える頃。
「今日はこれで十分だな。助かりました、ロイドさん」
「問題ない」
ロイドは短く返しもう戻る気らしい。だが――ガルドは思わず言葉を掛けた。
「ロイドさん……兵士って聞きましたけど」
ロイドが振り返る。その目には警戒も驚きもない。ただ事実を確認するような視線。
「かなり前線のほうですか?それとも……特殊な部隊とか?」
フィオも横目で言う。
「歩き方とかさ、兵士にしては無駄がなさすぎるしね。足跡聞こえなすぎて怖かった〜」
アルウィナが続ける。
「魔力も隠してますね。隠しすぎて逆に怪しいわ」
ロイドは、ほんの一瞬だけ沈黙した。
「……気にするな」
「いや、気になるでしょ」
フィオが笑いながら突っ込む。ガルドは肩を竦めて明るく言った。
「まぁいいですけどね。ただ……俺たち三人の目はごまかせませんよ」
ロイドは答えなかった。
帰るまで一行からの追求を受けたが不快に感じることはなかった。ただ、ほんの一瞬だけ、口元に影のような微笑が浮かんだ気がした。




