交わらない距離
「ロイド!開けなさい!」
夕暮れの村に、村長の焦った声が響き渡った。ロイドが扉を開けると、村長は両手を腰に当てて仁王立ちしていた。背後には冒険者三人が気まずそうに立っている。
「なぜ閉める!冒険者殿だぞ!?助けに来てくださったのだ!」
「……説明は聞いた。ならば頑張ってもらえばいい」
「そうじゃない!話を聞け!」
村長が頭を抱える。フィオは口元を手でく押さえ、笑いを堪えていた。
「えっと、ロイドさん、事情があってね?」
ガルドが苦笑しつつ、丁寧に言葉を繋げる。
「泊まる場所がなくて困ってて。なんとかよろしく頼めないですか?」
ロイドは村長をひと睨みした後、小さく息を吐いた。
「……ここで良ければ勝手に使え」
「助かります!」
ガルドがすぐさま頭を下げると、フィオも無邪気に家の中を覗き込んだ。
「へぇ~!片付いてるし、いい家じゃん!」
「男の部屋ってもっと汚いのかと思ってたけれど。ガルドも見習ったら?」
アルウィナがなんとも意味深な事を言うがそれについては誰も追及しなかった。
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村長と別れ、ロイドと冒険者三人。
「ここに来る途中聞いたのですが、ゴブリンの痕跡を見つけたのもロイドさんらしいですね。よければ今からでも案内してもらってもいいですか?」
ガルドが尋ねた。
「断る」
まさかの拒絶にガルドは言葉を失ったが、ロイドは続ける。
「痕跡を見つけたのは俺じゃない。レクトが見つけた。レクトの家までは案内する。森の探索はレクトにしてもらえ」
そういうと、ロイドは扉を開けてスタスタと歩き始めてしまった。
「な、なんていうか人付き合い苦手にも限度があるくない?」
アルウィナもそんなフィオと同意見だというように首をすくめている。
「ま、まぁまぁ。案内してもらえるらしいしついて行こうか」
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ロイドがレクトの家の扉を叩く。すると、中から血の気の引いたレクトの顔が現れた。
「ろ、ロイド?わ、わりぃなちょっと立て込んでて……あ、でも用事ってんならすぐ行くぞ!!いやほんとお前が来るってことは大変な用事なんだろ!!」
何かにビクビク震えるようなレクトの姿にロイドはチラッと家の中を覗き見る。
そこには鬼の形相で椅子に座るメリーと、空になった酒瓶が何瓶か机の上に乗せられていた。メリーは腕を組み足をトントンと鳴らしている。
なんとなく事情を察したロイドはレクトを見る。
「健闘を祈る」
「ろ、ロイ――」
言い終える前にロイドは扉を閉めた。無言でガルドたちに視線を戻した。
「案内は俺が行く」
三人はなんとも言えない表情になりつつもロイドについていく。
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森の入口まで案内したところで、ロイドは立ち止まった。
「痕跡はこの先だ」
「助かります。ここからは、俺たちの出番だな」
ガルドが頷き、アルウィナとフィオもそれぞれ装備を整える。
「罠の準備頼んだ」
「はいはーい、任せて!」
軽口を叩きながらも、動きは迷いがない。素早く周囲を見渡し、配置場所を判断する様はまさに冒険者のそれだ。
アルウィナが屈み、指先で痕跡のあった場所をなぞる。そして次の瞬間、眉がぴくりと動いた。
「……魔力の痕跡があるわ。術式は探索型ね。……これ三等級魔術の魔力よ」
警戒するように視線を森の奥へ向ける。
「魔物以外にも脅威が?」
状況を引き締める言葉。だがロイドは淡々と返した。
「数日前に魔獣騒動があった。その際に騎士団が派遣されその中に魔術師がいた。その時の痕跡だろう」
「……そう。なら良いけれど」
アルウィナは一応納得した様子だが、疑念を完全には消さなかった。感知した魔力痕跡はまだ新しいものだったからだ。
彼女は立ち上がった。
「ともかく、危険度は高いわね。油断せずに行きましょう」
「了解」
ガルドが短く応じ、森へと進む。
「頼んだ」
ロイドは短い言葉だけ置いて、森から離れようとした。だがガルドは振り返り、笑って言った。
「こういうのは慣れてますからね。村は俺たちが守りますから安心してください」
それは人を安心させるための笑顔。社会を渡っていくうえで必要なスキルの一つともいえる。ロイドにはまだ持ち合わせていないものだった。
ロイド自身それが必要だと思ったことはなかった。しかし、村での生活を通しそういったスキルはある越したことはないとも考えれるようになっていた。
考えるロイドをよそに、冒険者たちはそれぞれ調査のために準備を始めるのだった。




