豊穣祭
朝から村は慌ただしかった。
狩りで得た大量の獲物がすでに処理され、広場には炭火の香りと賑やかな声が満ちている。
豊穣祭――秋の村で最も大きな催しだ。
野菜、果物、肉の串焼き。
子どもたちの笑い声。
村人同士が酒を交わし合う音。
その熱気に包まれながら、ロイドは静かに辺りを見渡していた。
「ロイドー!焼きたてどうだ?」
レクトが手を振り、串焼きを掲げる。
「……人が多いな」
「祭りなんだから普通だろ?ほら食え食え!」
レクトは笑いながら串を押しつけてくる。ロイドはためらいながらも一口かじった。
「……悪くない」
「だろ?メリーの味付けだからな」
メリーはすぐ近くで、手を振る。
「いつもより表情やわらかいね。祭りは楽しいでしょ?」
「……騒がしいが、居心地が悪いとは思わない」
「全くいつになったら素直に楽しいって言えるのかしらねー?」
メリーが笑うと、ロイドはほんの少しだけ視線をそらした。
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セレナは屋台の合間を忙しく走り回り給仕をしていた。ロイドを見つけると駆け寄ってきた。
「ロイドさん!お祭り楽しんでますか?って言っても、このお肉もロイドさんがとってきてくれたものなんですけどね」
「問題ない。必要なことをしただけだ」
「……でも、あんなに大きな熊まで」
「冬を越すためだ。肉は多い方がいい」
「そう、ですね。でも、前にも話しましたけど無理しないでくださいね!約束ですからね!」
「セレナー!次こっち頼むー!」とセレナを呼ぶ声がする。それにセレナは大きく返事をしてロイドに「約束ですよ!」とだけ言い残すと、その場を後にした。
祭りの熱気に当てられたのか、はたまた心の変化か。ロイドは少し温かさをおぼえた。
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喧騒の中、ロイドはふと周囲を見渡した。
「……これだけ明るく騒いでいれば、ゴブリンも警戒して近づかないな」
場にそぐわない言葉がぽろりと落ちた瞬間――
「そこは“祭りらしいな”だろうが!」
レクトが即座にツッコミを入れ、周囲の村人たちがどっと笑った。
「む……そうか」
「そうだ!」
ロイドは小さく頷いたが、それでまた笑いが起きた。その光景を、ロイドは不思議そうに見つめた。
祭りも落ち着いた頃、ロイドは人混みの少ない端へ歩く。そこにはダリオと、その妹ミラがいた。ミラは花飾りを胸に抱え、楽しげに跳ねている。
「ダリオ」
「お、おう?な、なんだ……?」
ロイドは淡々と告げる。
「お前は視野が広い。俺は肉になるものだけを狩っていたが……お前は野草や果実も採取していた。冬を越すための栄養も考えていたのだろう」
「……っ」
ミラが瞬きをし、兄の顔を見る。
「助かった」
ロイドはそれ以上言わず、短い言葉だけ残して去っていく。
残された兄妹はしばらく動けなかった。
「えっ……い、今のお兄ちゃん褒められたの……?」
「し、知らねぇよ……!」
「すごい!お兄ちゃんすごい!!」
「やめろミラぁ……!!」
褒められたことに対する喜びはダリオにはなかった。それよりもダリオの心の中を占めるのは
まさか訓練の量を増やすとか言い出さねぇよな……?いや、ロイドだし……ありえる……いや、でも……まじで勘弁してくれよ。
祭りの賑わいの中、ダリオの内心の震えだけが妙に小さく響くのだった。
広場の中央では村長が声を上げる。
「これだけ準備が整っていれば、冬も越せるだろう!ロイドたちに感謝だ!」
歓声が上がり、村の夜はさらに明るさを増す。今夜は少し長い夜になりそうだった




