表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/39

豊穣祭

 朝から村は慌ただしかった。

 狩りで得た大量の獲物がすでに処理され、広場には炭火の香りと賑やかな声が満ちている。


 豊穣祭――秋の村で最も大きな催しだ。


 野菜、果物、肉の串焼き。

 子どもたちの笑い声。

 村人同士が酒を交わし合う音。


 その熱気に包まれながら、ロイドは静かに辺りを見渡していた。


「ロイドー!焼きたてどうだ?」


 レクトが手を振り、串焼きを掲げる。


「……人が多いな」


「祭りなんだから普通だろ?ほら食え食え!」


 レクトは笑いながら串を押しつけてくる。ロイドはためらいながらも一口かじった。


「……悪くない」


「だろ?メリーの味付けだからな」


 メリーはすぐ近くで、手を振る。


「いつもより表情やわらかいね。祭りは楽しいでしょ?」


「……騒がしいが、居心地が悪いとは思わない」


「全くいつになったら素直に楽しいって言えるのかしらねー?」


 メリーが笑うと、ロイドはほんの少しだけ視線をそらした。


---


 セレナは屋台の合間を忙しく走り回り給仕をしていた。ロイドを見つけると駆け寄ってきた。


「ロイドさん!お祭り楽しんでますか?って言っても、このお肉もロイドさんがとってきてくれたものなんですけどね」


「問題ない。必要なことをしただけだ」


「……でも、あんなに大きな熊まで」


「冬を越すためだ。肉は多い方がいい」


「そう、ですね。でも、前にも話しましたけど無理しないでくださいね!約束ですからね!」


「セレナー!次こっち頼むー!」とセレナを呼ぶ声がする。それにセレナは大きく返事をしてロイドに「約束ですよ!」とだけ言い残すと、その場を後にした。

 祭りの熱気に当てられたのか、はたまた心の変化か。ロイドは少し温かさをおぼえた。


---

 

 喧騒の中、ロイドはふと周囲を見渡した。


「……これだけ明るく騒いでいれば、ゴブリンも警戒して近づかないな」


 場にそぐわない言葉がぽろりと落ちた瞬間――


「そこは“祭りらしいな”だろうが!」


 レクトが即座にツッコミを入れ、周囲の村人たちがどっと笑った。


「む……そうか」


「そうだ!」


 ロイドは小さく頷いたが、それでまた笑いが起きた。その光景を、ロイドは不思議そうに見つめた。

 

 祭りも落ち着いた頃、ロイドは人混みの少ない端へ歩く。そこにはダリオと、その妹ミラがいた。ミラは花飾りを胸に抱え、楽しげに跳ねている。


「ダリオ」


「お、おう?な、なんだ……?」


 ロイドは淡々と告げる。


「お前は視野が広い。俺は肉になるものだけを狩っていたが……お前は野草や果実も採取していた。冬を越すための栄養も考えていたのだろう」


「……っ」


 ミラが瞬きをし、兄の顔を見る。


「助かった」


 ロイドはそれ以上言わず、短い言葉だけ残して去っていく。


 残された兄妹はしばらく動けなかった。


「えっ……い、今のお兄ちゃん褒められたの……?」


「し、知らねぇよ……!」


「すごい!お兄ちゃんすごい!!」


「やめろミラぁ……!!」


 褒められたことに対する喜びはダリオにはなかった。それよりもダリオの心の中を占めるのは

 

 まさか訓練の量を増やすとか言い出さねぇよな……?いや、ロイドだし……ありえる……いや、でも……まじで勘弁してくれよ。


 祭りの賑わいの中、ダリオの内心の震えだけが妙に小さく響くのだった。


 広場の中央では村長が声を上げる。


「これだけ準備が整っていれば、冬も越せるだろう!ロイドたちに感謝だ!」


 歓声が上がり、村の夜はさらに明るさを増す。今夜は少し長い夜になりそうだった

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ