豊穣祭準備
季節は夏の終わりを越え、すっかり秋の気配が濃い。
村の暮らしそのものは大きく変わらない。
しかし、ロイドの生活は、以前よりわずかに“人の色”を帯びていた。
レクトの畑仕事を手伝い、メリーの作るスープの味がわかるようになり、セレナの雑貨屋には薬を買う以外の理由でもたまに顔を出すようになった。
その三人の姿を見ると、ほんの少しだけ呼吸が軽くなる。
……よくわからないが、これは悪い変化には感じない。
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その日の昼前。
ロイドが村の通りを歩いていると、レクトが両手を振りながら駆け寄ってきた。
「おーいロイド! 祭りの準備、手伝ってくれないか?」
「わかった」
「おー助かるよ!」
レクトは笑ってロイドの肩を軽く叩く。
ロイドはほんのわずかに目を細めた。
他の村人には見せたことのない、微かな緩みだ。
広場に行くと、村の女衆が忙しなく行き来していた。
豊穣祭、来年の収穫を願う秋の祭りの準備らしい。
「ロイドさん、運搬お願いできます?」
セレナが手を振ってくる。
ロイドは木材を軽々と持ち上げると、セレナは目を見張った。
「何人かと手伝ってって言おうと思ったのに……いえ、助かります!」
「問題ない。これくらいなら1人の方が効率がいい」
「こ、効率って……そうじゃなくて普通そんな丸太1人で運ばないですよ……」
ロイドは一瞬考える。
「重い気がしてきた。誰か手伝っ――」
「遅いですよ!もう……ふふ、ロイドさんにとっての普通がそれならそれでいいんですよ。無理に合わせる必要はありませんから」
すると、メリーが笑いながら近寄ってきた。
「ほんと相変わらず力持ちね〜!ロイドさん、終わったらこっちの飾りもお願いね」
「わかった。どう配置すればいい」
メリーの笑みにロイドは一瞬だけ視線を細めた。
自分でも、この三人に対してだけ反応が違うのを自覚する。
悪いことではない。むしろ好ましく感じる。
ロイドは飾りを支える柱を固定しながらも、不思議とあたたかさを感じていた。
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作業を進めていると、突然レクトが声を上げる。
「ロイド! せっかくだし、ちょっとこっちも手伝ってくれ!屋台の骨組み運ばなきゃいけないんだ」
そう言われ、小屋の横に置かれていた大きな梁をロイドは片手で持ち上げる。
「すげぇ……」「一人で持つのか……」
手伝っていた若者たちがぽかんと口を開けている。
ロイドはそれに特に気づかない。
ただ、梁が落ちないよう角度を調整しながら言う。
「これでいいか」
「お、おう……十分すぎる……」
ふと風が吹き、乾いた落ち葉が視界を横切る。
空気は澄んで、雲は高い。
ロイドは空を仰ぎ、季節の移り変わりを感じ取った。
この村で秋を迎えるのは初めてだ。
「なぁロイド! 秋祭りの狩り、一緒にどうだ?」
レクトが笑いながら声をかけてくる。
「同行しよう」
「狩り好きなんだろ?村に来て間もない時も狩り好きそうだったよな」
「そうだな。嫌いではない」
「嫌いじゃないならいいんだ。この村だってそうだろ?嫌いなようには見えないしな」
ロイドは返事をしない。
だが、その沈黙は拒絶でも冷淡でもなかった。
……嫌いでは、ない。
胸の内でそっと呟く。




