表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/39

夜は明るく、優しく

 夜の帳が落ちるころ、村の中央には焚き火がいくつも焚かれ、素朴な木の机にはパンと肉と果実酒が並べられていた。


「今日は歓迎と報告を兼ねて、ささやかだが振る舞わせてもらう!」


 村長の声に村人と騎士が混ざって拍手が起こる。豪勢な宴ではない。

 騎士たちは最初こそ警戒していたが、次第に村人の素朴さにほぐれ、酒杯を交わし始めた。バルドは焚き火から離れた場所で盃を傾け、ラグナとアリアも近くに腰を下ろしている。


 そして――その焚き火から一歩離れた石の上に、ロイドは静かに座っていた。


 村人に勧められた盃を持ったまま、口には運ばない。ただ炎の揺らぎを黙って見つめている。その隣に、セレナが静かに座っていた。

 距離は近く、けれど決して触れ合ってはいない。その間合いは、妙に自然で、妙に人を落ち着かせる空気を生んでいた。


「ロイドさん、お酒お口に合いませんでしたか?」


「そんなことはない。ただこの雰囲気を感じていた」


「楽しいってことなんだと思いますよ」


 その会話を聞いた近くの村娘たちが、囁き声を立てる。


「やっぱりロイドさんって第一師団の人なんだよね!?」

「セレナさん、玉の輿ってこと……!?」


 それを聞いたラグナが酒杯を置き、わざとらしく咳払いをした。


「……ロイド殿。少し、聞いても?」


 焚き火の火花が弾ける。ロイドは視線をゆっくりとラグナに向けた。


「なんだ」


「あなたとセレナ殿は……その……婚約のご予定か何かあるのですか?」


 その瞬間、セレナの肩が跳ねた。


「ちょっ、え、ええっ!?な、ななにをっ……!」


 騎士たちの数名が「おっ」と声を洩らし、村の若い娘たちも身を乗り出す。完全に“恋愛の空気”が焚き火の周囲を支配し始めた。


 しかし、ロイドは変わらぬ表情で、淡々と口を開いた。


「セレナとは婚姻関係にない。俺は村人としてここにいるだけだ」


 セレナが「うっ」と息を止め、安堵と残念さの入り混じる複雑な表情を浮かべる。そこへ――ロイドの視線が、静かにラグナとアリアへと向かった。


「お前とアリアの方が婚姻には近いだろう」


「――は?」


 ラグナがぽかんと口を開き、アリアは一瞬で頬を染めた。


 ロイドの声は、まるで「今夜は冷える」と言う程度の自然さで続いた。


「お前は訓練がない日の夜、変装してアリアと共に王都の外れへ食事に行っている。帰還の際は手を繋ぎ、人目のない路地で数分立ち止まっている」


「なっっ――!?!?!?」


 アリアの肩が跳ね、ラグナは手に持っていた盃を落とした。周囲の時間が止まる。焚き火の音すら遠くなる。


 ロイドは首をわずかに傾けた。


「王都では二人の目撃情報もある。第一師団団員の名前と行動は全て記憶している。漏れはないはずだ。お前たちは密な関係なのではないのか?」


 バルドの盃が止まる。


――第一師団の記録をいったいどこでどうやって……。


 ラグナは顔を真っ赤にし、アリアは耳まで染めながら立ち上がった。


「ちょ、ちょっと待ちなさいロイド殿!?い、いいつ見ていたのですかそれはっ!」

 

「記録は全て記憶している。王都だけではない。お前たちは座る位置が常に互いの死角にあり、互いが近い距離では心拍が通常時よりもやや早い。訓練された兵士なら、仲間とは一定の距離を取るはずだが……二人の場合は距離が“近すぎる”」


「うわああぁぁっ!!」


 ラグナは頭を抱えて叫び、アリアは顔を覆ってしゃがみこんだ。


 村人たちはぽかんと口を開け、次の瞬間には笑い声が爆発した。


「えぇぇ!?アリアさんとラグナさん、そういう関係だったの!?」

「お似合いじゃないか!」

「ロイドさんすごい!なんでわかったの!?」

「ロイドさんってやっぱり第一師団の人なんだ!」


 セレナはロイドの袖をつまむ。


「……ロイドさん、そういうのは……その……あまり大きな声で言わない方が……」


 ロイドはゆっくりと目を瞬かせた。


「小声にすればいいのか?」


「そ、そういうことではないんですけど!!」


 焚き火の火が高く舞い上がり、村の夜は静かな熱気に満たされていった。


 その光景を見ながら、バルドは盃を口に運び、静かに思う。


 この男はやはり……人という枠には収まらぬ。しかし……なるほど。“普通の生活をしようとしている”とは……こういうことか。


 炎の揺らぎの中で、ロイドをただ静かに眺めるバルド。そして遅れて反応する。


「……恋仲!?ラグナとアリアが!?」


 その日の熱気はいつにも増して温かく、心地よいものだったという。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ