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8話 赤い女神

「ここが王都…!」


次の日、家を出てすぐに灰さまに抱き上げられそのまま一気に森を抜けた。かなり森の奥から出発したけど灰さまが歩くと不思議なことに周りの景色がどんどん後ろに過ぎていって走っていないのにすぐに王都に着いてしまった。



王都の周りには関所のように門があって、衛兵がその前に立っている。森を向いて立っていた数名の衛兵が突然出てきた私たちを見てぎょっとした。警戒されたのか剣を握り直しているのが見える。


「さてと、此処は通れるのかしらね」


立ち止まって(かい)さまがそう呟く。なにやら関所の中が騒がしい。「なっ、近衛騎士団長!」「あーすまんな、ちと通らせてくれ」「あの、実は先ほどから不審な者がいるのですが…」「彼女たちは俺の客人だ。詮索はするなよ」「しっ、失礼しました!」



衛兵たちの間を通って見覚えのある騎士がひとり近づいてくる。ジャックさんだ。差し出された手を灰さまがとり握手をした。


「2人とも、来てくれて感謝する。待たせたようですまんな、もっと時間がかかると思ったんだが」


「そうねぇ、この程度の距離ならさほどかからないわ」


「流石だな」


ジャックさんは苦笑いした。話しながら王都へ入っていく。衛兵たちは両端に立って敬礼していた。よく見ると細かく震えていたようだけど、私は王都に夢中で全く気が付かなかった。暗い石造りの門を抜けると光とともに町の喧騒が聞こえてくる。


「ようこそ、ここがクレオール王国の誇る王都だ」


「わあ……!」


眩しさから目を細め、見開いた。そこには沢山の人が行き来して活気で溢れている。


「ここは市場だな。陛下の謁見まで時間がある。まずは宿まで案内すっから」


そう言って私たちを連れて人ごみのなかを歩いていく。ひ、人が多い…、はぐれちゃいそう。パタパタ小走りで付いてくけど人とすれ違うのが大変で、さっきから何回かぶつかってしまっている。

人ごみに溺れそうになっていると、灰さまが声をかけてくれた。「緋奈、手を繋ぎましょうか」「ありがとうございます…」


そんな私たちに気づいたのかジャックさんが振り返る。


「おっと、悪い悪い。嬢ちゃんは王都初めてだもんな。この先に広場があるからそこで休憩するか」


「そうしましょう」「すみません、お願いします…」


灰さまに手を繋がれたとたん歩きやすくなった。なんでだろ?周りを見てみるとみんななぜか灰さまを避けて歩いてる。誰も意識してないのに自然とそうなってるみたいだ。



すいすい進みすぐに開けた場所に出た。石で作られた立派な噴水や像が飾られている。

「ここが広場だ。嬢ちゃんはそこに座ってな、ちょっと飲みもんでも買ってくる」



そう言ってどこかに行ってしまった。ありがたく灰さまと座らせてもらおう。


「…ふう」


「大丈夫?緋奈」

「はい…でもちょっと疲れちゃいました」


灰さまが心配そうに尋ねてくる。あんまり心配してくれるのも悪くて笑って答えた。実際、人の多さにびっくりしたけど、村と違ってみんな私のことを気味悪がらない。気にしてる暇が無いだけかもしれないけど、その空気が心地よかった。

…そういえば、ジャックさんたちは私の目を見てるはずなのになんにも言わなかったな。



「待たせたな。ここらで人気のレッドベリージュースだ。カイ殿も」

ジャックさんが両手に木のコップを持って帰ってきた。

「ありがと」

「ありがとうございます………、おいしい」


ほのかな甘みと爽やかなすっぱさが通り抜ける。光に反射して綺麗な赤色が瞬く。………赤、あか…。


「…あのっ」


「うん?どうした」


「あ、えっと、その…わ、私って、こんな目の色じゃないですか。気持ち悪いって思わないんですか」


「緋奈…」


思わず口走ってしまった。どんな顔してるのか、見るのが怖い。ジャックさんの顔を見れず俯いてしまう。



「嬢ちゃんの目は珍しい色してるもんな」


優しい声がかけられて顔を上げる。


「前になんか言われたことがあるのかも知れねえが、気にしなくていい。この国じゃあ赤は神聖な色とされてるからな」


あそこを見ろ、と指を指した方に目を向けると一際大きな像があった。古いものなのか細かい造形は薄れてしまっているけど、かろうじて女の人ということはわかった。



「あれはこの国に伝わる伝承にある女神様の像だ。その女神は燃えるような赤い髪と目をしてたらしい。この国の奴らは信心深いからな、この国で嬢ちゃんの目を悪く言うやつはいねえと思うぜ」


ま、赤い目はこの国でも見たことないがな、と笑いながら教えてくれた。…そっか、女神様と同じ色なんだ。


「……」


「灰さま?」


ぼーっと像を見てる灰さまが気になって声をかける。


「っ、何でもないわ。それより、ジャックが言うように気にしなくていいのよ。少しでも何かしてくるような奴がいたら私がオハナシするから」


「はい…!」


「…おいおい、程々で頼むぜまじで」


そんな会話をしながら王都中心部にある宿に案内された。宿と言ってもほとんど高級ホテルのような面持ちでロイヤルっとした雰囲気が全面に出ている。


「あの、ここですか…?」


「表向きには俺の客人ってことになってるが、本当は国王陛下の客人だからな、陛下の客人をそこらの宿に泊まらせるわけにはいかねぇんだ」


あまりの高級感に尻込みする私と異なり、灰さまはふうん、と辺りを見回して、

「まあ悪くないわね」

と言った。余裕そうで羨ましいです…

「っははは、頼もしい限りだ」


ゴーンと遠くで鐘がなる。


「おっと、もうこんな時間か。そろそろ城へ向かうとしよう。荷物はここに預けてくれ」


「お預かりいたします。」


ささっと寄ってきたホテルの従業員らしき人たちが、灰さまから荷物を受け取った。



それからいつのまにか来ていた馬車に乗って、あっという間に応接間らしきところまで案内されてしまった。ジャックさんは国王さまを呼びに行ってしまった。

流れで付いてきてしまったけど、わたしはここにいても良いのかな…。そわそわと落ち着かず横を見ると何故かゆらゆら揺れてる、隣にいる灰さまの長い裾が目に入った。人の姿になっているとはいえ、灰さまの背が高いから、わたしの体なんてすっぽり覆えそうだ。よしっ


そーっと裾に潜り込んでみるとあら不思議。とっても快適。なんでか外の光が全く透けてこないけど、いつも灰さまの足元で蠢いてる目が1つ2つのぞいてる。

んふふ


楽しくなって灰さまによっかかると、なんか小刻みに揺れてる?あ、止まった。気のせいだったのかな。



ドアが開く。誰かが入ってきたようだ。


「お待たせした、よく来てくれたな。我の名前はレオ・パイア・クレオール。この国の王をしている」



…うん、完全に出るタイミング失った。

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