7話 王都からの騎士
ルブロンさまがいなくなってから、灰さまに料理を一緒に作らないかと誘われた。
「どうかしら、嫌なら断ってくれて構わないけど…」
「ぜひ!お願いします!」
「そ、そう?じゃあ今日は簡単に作れるスープにしましょうか」
台所に立つと、灰さまはどこからか肉と野菜を取り出した。あれ?この肉どこかで見覚えが…
「この肉?この前狩ったあのドラゴンのものよ。良質な魔力が宿っているからきっと美味しいわ」
「なるほど…!」
手際よく肉と野菜を切っていく灰さまの横で肉を上手く切れず悪戦苦闘していると、
「刃をまっすぐ立てて、引くときに切るように意識しなさい」
「はい!」
言われた通り切ると、スッと刃が通った。できた…!灰さまを見上げると
「それじゃ残りもこの調子でいきましょうか」
と微笑んだ。
全ての具材を切り終えたら鍋に入れて煮込み始める。灰さまがよくわからない香草をパラパラと入れて蓋をした。
「少し待ちましょうね」
そう言われて灰さまと一緒に椅子に座る。
「緋奈、もし良かったらこれからも一緒に料理作ってくれないかしら」
「もちろんです!灰さまとお料理とっても楽しかったです。でも、私料理下手なのでお邪魔じゃなければですけど…」
言ってるうちにどんどん自信がなくなってきて声が細くなっていく。
そんな私を見て灰さまは笑いながら言う。
「何言ってるのよ、これから覚えていけばいいの。わたしだって、初めは何もできなかったもの」
「灰さまも?」
「ええ。見よう見まねで練習したわ」
はえー、完璧に見える灰さまにもそんなときがあったんだ。失礼かもしれないけどちょっと親近感。
「そろそろ良い頃ね」
お皿にできたスープが盛られた。光りあたり黄金に輝くスープに肉の油が溶け出している。
「いただきます!」
さっそくお肉を頬張ると、ほろほろと身が口の中で崩れていく。
「〜〜っ!美味しいです!」
夢中で食べ進めているとふと視線を感じて顔を上げる。灰さまが頬杖をついて私をすっごく見つめていた。
「灰さまは食べないのですか?」
「わたしは食事を必要としないのだけれど…」
そっかあ…、一緒に作ったスープだからちょっぴり残念に思っていると、
「んん…、食べれないとは言ってないわ。一口もらえるかしら?」
そう言って面布を横にずらして口元を見せて、
「食べさせてくれる?」
と笑ってくれた。
「はい!」
そーっとスプーンで口へ運ぶ。
「…うん、美味しくできたわね」
そう微笑んでくれた灰さまの薄く色付いた唇は、とても美しかった。
◆
今日は野草を使ってサラダにしよう。1人で森を歩く。ここにきて少し経ったからだろうか、植物が青々としてきれいだ。木漏れ日の中を進んでたくさん生えている場所へ来た。
えっと、確かこれとこれ、これも食べられるとか…
夢中で採っていると、近くの林から物音がした。なんだろう?と顔を上げると騎士の格好をした男の人が数人ゾロゾロと出てきた。
「お嬢ちゃん、ちょっと聞きたいんだが」
「…っ!」
「あっ、ちょっと!!」
突然話しかけられて驚く。そのまま一目散に林の中へ駆け出した。後ろから声が追いかけてくる。
「お〜い、待って〜」
「どこ行ったんだ?足はえぇな」
「隊長が急に話しかけるからっすよ!」
なんか話してるみたいだけど、早くにげなきゃ!捕まったらまた…!
村であったことが蘇って心臓がバクバクと音を立てる。木の根や枝葉に引っかかりながら来た道を走る。
一際盛り上がっていた根っこに足が引っかかった。次の足が出ない。転ぶ瞬間ってなぜかスローモーションみたいになるよね、なんて関係ないことを片隅で考えながら身体が投げ出される。
転ぶ!!と目を瞑ったらトンと柔らかく受け止められた。
「緋奈、大丈夫?」
心配そうな声で私を呼ぶ。
「灰さま!」
「遅くなってごめんなさいね、」
返事をしようと口を開くとまた私を探す声が聞こえてくる。
「お〜い、嬢ちゃ〜ん」
だんだん声が近くなってきた。
「人間か」
いつもと違う冷たい声で呟いて立ち上がり、右手を下ろす。パキパキパキと音を立てて鋭く、大きくなっていく右手を見て不安になり
「あの…」
左手をそっと握る。灰さまは息を飲みこちらを見下ろすと、ゆるゆると左手を私の肩に置き
「ちょっとお話をするから、後ろに隠れてなさい」
とささやいた。
慌てて灰さまの後ろに回り込んで着物をちょんとつかむ。
灰さまは長く息を吐いたかと思うとシュルシュルと音を立てながら身体を変化させていく。
あっという間に頭の横の耳が無くなり、人と同じ姿になった。ここからでは見えないが足も生えているのだろう。
「すごいですね…!」
声を潜めて言うと、振り返って笑ってくれた。あ、でも面布はそのままなんだ。
「お〜い、こっちかぁ?」
私の後を追って騎士たちが林から出てきた。
「あなた達、この子を追っていたようだけれど何か用かしら」
突然現れた灰さまに面食らったように目を見開くが、隊長らしき人がいち早く気を取り直して口を開いた。
「あー、俺たちはクレオール王国の騎士だ。最近になってレッドドラゴンが倒されたって言うんで殺ったやつを探してたんだが、そこの嬢ちゃんが何か知ってそうだったんでな」
「ち、ちょっと隊長!それ言っていいんですか!?」
「話さねえ方がやべえぞ、たぶんな」
後半はヒソヒソと話していてうまく聞き取れなかった。
「それで、」
絶対零度の声にピンッと空気が張り詰めた。
「それがこの子を怯えさせた理由になるのかしら?」
殺気の混じった威圧に、咄嗟に剣に手をかける部下を手で制し、
「…ならないな。手がかりに焦っていたとはいえ、嬢ちゃん、追いかけて悪かった」
そう言って私に頭を下げた。
「は、はい…!」
私が返事をするとその場の空気が少し軽くなった。
「一つ聞きたいんだが、あのレッドドラゴンを倒してナワバリに住んでるのはあんた達か?」
「ええ、そうよ」
「…そうか。すまないが頼みがある。国王陛下がドラゴンを倒した者から話が聞きたいそうだ」
「それは…わたし達が従う義理は無いはずよ」
…王様?ひょこっと灰さまの影から出て話を聞く。そんな私の様子を見て部下の1人が続けて言う。
「王都で観光もできますよ!色んな商品が各地から集まる市場もありますし」
王都!興味あるかも。また一歩前に出て話を聞く。
「そうそう!それに綺麗なねーちゃん達が揃ってる娼館もあるっすよね!」
いや、それはいいかな…。ス…と灰さまの後ろへ戻る。
「おいてめぇ!!」
「うわっ!?」
隊長さんがチャラい部下の人を拳で殴った。
「他にも、珍しい品がたくさん売っていますよ」
物腰柔らかい騎士の人がそう言う。なるほど、ちょっと気になるかも…。灰さまをちらっと見上げると、
「行ってみたいの?」
と聞かれた。ためらいがちにうなづくと、ぽんと頭に手を置かれる。
「分かったわ、せっかくだし観光しましょうか」
「ほんとか、助かるぜ!自己紹介がまだだったな、俺はジャック。この件を任されてるもんだ。早速だが明日王都まで来てくれないか?こっちが招いてて悪いんだがここまで使いの馬車を出せねえんだ」
「明日?随分と早いわね」
「ああ、ちょっと火急の要でな。それと、他言無用でたのむ」
…思ったより大事な要件みたいだ。灰さまもそう思ったのか少し考え込んでいる。
「…構わないわよ」
「すまねぇな。それじゃあ俺達は国王陛下に報告しに行くからここらで失礼するわ」
邪魔したな、と言葉を残しジャックさん達は嵐のように去っていった。
「すみません、ありがとうございます…!」
「いいのよ、わたしも今の王都は少し気になっていたしね。それじゃあ、家に帰りましょうか」
「はい!」
そう言って差し出された手を取り、家へと帰る。
「野草は採れた?」
「たくさん採れましたよ!早くサラダにしましょう」
王都ってどんなところなんだろう。ちょっと楽しみかも。




