5話 新しいお家
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「それじゃあドラゴンを解体しちゃうわね」
「あっ…は、はい!」
しばらく呆けてたが話しかけられて慌てて返事をする。
灰さまは大きなドラゴンに近づくと手をかざした。足元から黒い影が這いずりだし、死骸をぞるっと飲み込んだ。
しばらく伸び縮みモゴモゴしたかと思うとぺっと何かを吐き出した。
「えっ」
出てきたのは鱗、爪、牙、角、など、すでにバラバラになり綺麗にまとまっている。
「人間は確かこれを利用していたはずよね。機会があれば売りましょう」
灰さまはなんでもないかのように言うけど、これが普通なのかな……?
しゃがみ込んで、できたドラゴン素材をまじまじと見る。爪だけで私の顔の倍以上ある。鈍く光を反射するそれは鋭く、先ほど掴まれていたかと思うとふるりと身体が震えた。
こんなのを一瞬で倒してしまうなんて、灰さまお強い……!
尊敬の眼差しを送っていたら、こちらの視線に気づいたのか振り返り首を傾げている。
「家を建てましょうか。こっちに来なさい」
「はいっ」
駆け寄ると、影からドドドッと大量の木々や鉱石を出した。
「こんなに沢山……!いいんですか?」
「昔取って放置していたものなの。足りなくなったらまた取ってくるから大丈夫よ」
おおげさね、と笑っているけど、どう見ても貴重なものにしか見えない。直径1メートルもありそうな丸太はまっすぐで良い香りがするし、鉱石は色とりどりで薄く光を放っている。
率直に言って超高そう。
「部屋は4つくらいでいいかしら」
おもむろに腕を伸ばすと、柏手を一回した。パァンと大きな音が響く。すると出した材料が勝手に組み立てられていく。
「え?ええ!?」
「うーん、こんな感じかしらねえ」
ちょいちょいと指先を動かしているだけで次々に形ができている。
あっという間に家が建ってしまった。こ、これがこの世界の建築方法なのかな?
「いえが、できちゃった……」
「それじゃ、中に入ってみましょう。ほら来て?」
空いた口が塞がらない。手を引かれて扉をくぐると、木の香りが鼻を通り抜けた。中は和洋折衷といった感じで、木の板や石畳に洋風のイスや机が置かれている。
「すごい!とっても素敵です!」
「気に入ってくれて良かったわ」
よく見るとライトには光る石が使われているみたい。知らないものだらけだ。柱には植物の葉を模した装飾がなされていて、宝石が埋め込まれている。
「他の部屋も見てきて良いですか?」
灰さまに駆け寄って尋ねる。
「いいけど、まだ何もないわよ?」
「だいじょぶです、行ってきます!」
夢中で家の中を探検する。順番に部屋を見ていくことにしよう。灰さまは4つ部屋があるって言ってたよね。
初めの扉を開けると、そこは客間のようだった。家具には彫刻が彫られ、シンプルながらも品の良い雰囲気になっている。中に入るとふわっと木の香りがした。
次の部屋は窓にベッド、机など簡単な家具が備え付けられていた。やはり精巧な彫刻が彫られている。2つとも同じようなつくりになっていた。
最後の部屋は、1番奥にあり他のとは違い扉が暗い色になっている。何かあるのかな?少し期待して開けてみると、がらんとした何もない部屋だった。少しがっかりしながら2、3歩中に入る。…あれ?この部屋窓がないみたい…?
中は暗く、一応照明はあるみたいだが今は明かりがついていないようだ。
部屋から出ると灰さまが廊下で待っていた。
「緋奈、見終わったの?」
「はい!でも灰さま、あそこの部屋だけ窓がないみたいですけど…」
「あそこはそれで良いの。まあ、普段は使わない物置みたいなものね」
確かに物置ってあると便利だもんね
「なるほど!灰さますごいですね、こんなに早く家を建ててしまうなんて」
「だてに長く存在しているわけじゃないもの」
そう言って顔を背けて歩き始めるが、声は弾んでるし足元から覗く目玉もニコニコしている。
…顔が見えなくてもわかりやすいですね、灰さま
◆
そうしてここでの生活が始まった。部屋の一つを私の部屋に、ともらって日中は灰さまと一緒に散歩したり、森にいる強そうな獣の退治について行ったりして過ごす。
村にいた時とはまるで違って、あたたかいご飯や寝床があり、だれも私を殴らない。
でも数日経つと、ちょっとずつ不安な気持ちになってきた。ずっとこのままでいいのかな、私…。
「私になにかすることはありませんか?」
「ここにいればそれでいいわ。退屈かしら?近くに綺麗な花畑があるの、行ってみましょうか」
「それは、はい…でも、」
「どうかした?」
「…いえ、なんでもないです」
灰さまを困らせたくない。でも、なんだかもやもやする。なんでこんな気持ちになるんだろう…。
ぼんやりと机に頬杖をついて外を眺める。
トントントン!
ドアを叩く音がする。誰か来たのかな?勝手に開けていいのかな…。灰さまを探すが奥の部屋にいるのか姿が見えない。
トントントン!
「っ、はーい!」
つい反射的に返事をしてしまう。…しかたない、ちょっとだけ開けてみよう。
「どなたです…か、」
「突然申し訳ない、懐かしい気配がしたものでね。灰殿はご在宅かな」
高級感あふれる背広を着た、低く響くの男性の声。しかしその顔を見て呆気に取られてしまう。
品の良い杖をついて軽く帽子を上げている。そのひとは、蜘蛛の頭をしていた。