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4話 新たな土地へ

翌朝、(かい)さまの声で目覚めた私は出立の準備をした。といっても私の持ち物は全然無いから着物を着てすぐに終わってしまった。


「灰さま、準備できました」


「あらそう?早かったわね」


灰さまに話しかけると何か用意している。


「こういう術は苦手なのよ。だから道具を用意しないとね」


そう言うと古いくわを取り出した。


「くわ…?それ使うんですか?」

「ええ、長く使われた道具にはそれだけ力が宿るものだから。それじゃ、こっちに来なさい」


灰さまの隣に寄ると腰に手がまわされる。


「わたしから離れてはだめよ?」


片手で軽々とくわを持ち、ふうっと息をはくと周りの木々がざわめいた。


「驕薙r髢九¢繧」


灰さまの口から奇妙な音が出る。その瞬間、目の前に道が現れた。ところどころ炎が灯され、奥に進むに連れて暗くなっている。今は日の高い午前のはず、なのに奥は真っ暗で何も見えない。


ちょっぴり心細くなって灰さまに近づく。頭上でくす、と笑う声がした。バレてる…。


「大丈夫。でも逸れてしまうと大変だからくっついていてね」


「ええ…は、逸れたらどうなるんですか?」


見上げて尋ねると、笑みがほんの僅かに深まった。


「…知りたい?」

「い、いえ!まったく!!」


ギュンと顔を前に戻す。またくすくすと笑われてる…。


「では行きましょうか」


心臓がバクバクいってる。灰さまにぴったりくっついて進んでいく。あたりはどんどん暗くなって、周りに浮かぶ炎だけがちらちらと光を放っている。


スタスタ…スタスタ…


カラカラカラ…リンリンリン………


私たちの足音に混じってどこらかともなく音が鳴っている。音の出どころが気になって暗闇をじっと見つめるが、吸い込まれそうな感覚に慌てて目を逸らした。





「そろそろね」


地面に落としていた視線を前に向けるとずっと続いてきた暗闇に一つの光が見えた。

足を進めるごとにその光は大きくなっていき、やがて私たちを包み込んだ。


「こ、ここは……?」


目を開けると先ほどまでとは全く違う景色が広がっていた。崖の上だろうか。眼下に広がる景色は豊かな緑に覆われて、見知らぬ生物が空を飛んでいる。



「ここはクルオッテ大陸ね。久しぶりに使った術だったけど、いいとこに飛べて良かったわ」


「クルオッテ……?」


「ええ、昔この辺りに住んでいたの」


爽やかな風が吹く。故郷の森より木々が茂っているみたいだ。

……気持ちいいな

胸いっぱいに空気を吸い込む。


「住処をつくりましょうか」


景色に見とれていると、灰さまの言葉でさっそく住む場所を探すことになった。

灰さまに続いて森の中を進む。灰さまは日が当たるところが好きらしい。……意外だな。開けた場所を探していると、そこだけぽっかりと空いたスペースを見つけた。


「ここ!ちょうど良いんじゃないですか?」


中央へ走っていって灰さまの方へ振り返り大きく手を振る。

離れたところで手を振り返してくれた灰さまは、突然手を止めて————————————


「緋奈!!」


影がかかった、と思ったらぐんっと身体が持ち上げられる。強い浮遊感に目を閉じ、恐る恐る開くと地面がかなり遠くなっている。

なに!?何が起こって、

頰に風を感じ上を向くと、巨大なドラゴンがいた。分厚い鱗が日の光を反射し赤く光っている。


 「ギャオオオォオォォオオオ!!!!」


「っ、ひぇ」


口から情けない声が出る。爪が身体に食い込み鈍い痛みが走った。恐怖でじわっと涙が滲む。勝手に灰さまから離れたせいだ。私のばか……!



瞬間





手を、離しなさい


「その子は」


すぐ近くで灰さまの声がする。


「グルァアァアアアァアアアア!!!」

威嚇するようにドラゴンが咆哮した。




「わたしの」




足元から黒い影が大量に出ている。面布に紅く輝く紋様が浮かび上がる。蠢く影が収束し一本の黒い槍に変化する。




「ものよ」



一閃


振るわれた槍は黒い軌跡を残しながら、硬い鱗ごと首を断絶した。

首を断たれたドラゴンは力無く落ちていく。

と、いうことは私も落ちている。


「ひゃああぁあーー「っと」」



空中で灰さまに受け止められた。いつもの姿に戻った灰さまはそのまま地面に着地した。


……ドドォン!


近くにドラゴンの身体も落ちてきた。


「このドラゴンがいたからここら一帯開けてたのね」


腕の中にさっぱり収まった私の頭を撫でながら言う。


「っ、あ、灰さま…!」

「ごめんなさい、怖い思いをさせたわね」


……心なしかしゅんとしている気がする。撫でる手がいつもより遠慮がちだ。

うーん…、頭を撫で続けている大きな手をつかまえて両手で握る。


「よく確認せずに灰さまから離れたのは私です。だから、そう謝らないでください。助けてくれて、ありがとうございました…!」


感謝の意を込めて手をぎゅっと握る。


「……っ!」


息を呑む声がした。面布ごし、灰さまと目が合う。


ふわり、笑った気配


「…どういたしまして」


紡がれた言葉はとろけるようで、私の脳を痺れさせた。

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