1話 生贄になった少女
好きなジャンルが少なく、書いてみることにしました。拙い文章ですが、読んでいただけたら嬉しいです。(人外って良いですよね…!)
山々に囲まれた小さな村の隅、ポツンとひとつ小屋があった。
中ではやせ細った少女が高熱に苦しんでいる。
痛い…熱い……
割れるような頭痛によりドクン、ドクンと血管を流れる血液を感じる。
目をつむりひたすら耐えていると知らない情景が頭の中に浮かんできた。
黒い大地、四角い建物、走る鉄の塊、見たこともない大きな鳥…?
濁流のようにに流れ込む情報に耐え切れず、意識を失った。
目が覚めると、熱は下がったようで大分気分がよくなっている。流れ込んできたあの記憶…どうやらここではない世界の情報らしい。
だが記憶といっても知識などの無味乾燥なもので、そこに生きる人の考えや感情などは含まれていなかった。
熱が出る前と比べ、明らかに頭が回るようになった。前までの私はここで横たわっているだけの人形のようなものだったようだ。今は頭が冴えている感覚がする。
急激に増えた情報を処理しようと、頭の中に意識を向ける。だいぶ没頭していたらしく、そのうち外が暗くなり、明るくなった時点ではたと気づく。
…だれも来ないみたい……?
私はおそらく15歳ほどだと思う。なんでこんなところにいるんだろう……
空腹になく腹に耐え兼ね光の差し込んでくる窓に目を向けると、ちょうど人が入ってきた。
「あぁやだやだ、なんであたしがこんな奴の世話をしなくちゃいけないんだい」
「こっちを見るんじゃないよ!ったく、気味悪いね…なんだって村長はこんなやつを生かしてるんだか…」
入ってきた女はブツブツと呟きながらほとんど水のような冷え切ったスープを地面に置いた。
「早いとこ死んでくれればこっちもこんな事しなくてすむんだがねえ」
最後にこんなことを吐き捨て、女は乱暴に戸を閉める。
この態度、なんだか私はこの村の人々によく思われていないみたいだ
今まではこの量の食べ物でも耐えられていたようだが、さっきからお腹の虫が騒がしい。
自我が生じたことで、私は閉じ込められていた小屋から早々に脱出することにした。
木片のつぎはぎでぎりぎり建っているような小屋だったため痩せた体でどうにか通れるような穴がたくさんあった。周りに人がいないことを確認し、近くの物陰に隠れると先ほどの女が数人に話しているのが聞こえる。
「あたしゃもう嫌だよ、あんな気味悪い目をした子供の世話なんて」
「そうは言ってもねえ、 あれの世話は当番制じゃないか」
「あの忌み子を生かしておくなんて村長も酔狂だよなあ」
好き勝手言ってる…、でも忌み子ってどういうことなんだろう?
そろそろと村から離れ、山の方へ入っていく
木々をかき分け、食べられる木の実を探しつつ、川の音のする方向へ進む。
川に映った顔を見て、息をのむ
濡れ羽色の髪の毛に、整った目鼻立ち。ちょっぴり目に光がないくらいでけっこう美人さんでは?
いろんな角度から見ていたら目の色が変わることに気づく。黒い瞳に光が入ると紅く見える。さながらガーネットのようだ。
他は村の人とたいして変わらない。忌み子というのはこの目のことなのかな
他の世界の記憶が蘇ったからだろうか。この状況も、忌み子として扱われることも現実みがない。
川辺で自分の顔をぼーっと見ていると村の方から怒号が聞こえてくる。
どこいった⁉さっさと見つけろ!
ガサガサガサガサ
茂みから足音が近づいてくる。まずい、逃げなければ。
急いで駆けようとするも虚しく、やせ細った体ではここにくるので精一杯だったようだ。足に力が入らない。
「あぁいたいた、ったく手間かけさせんなよ、なッ!!」
「……っ、ぐ……!」
茂みから私を見つけた男はそのまま無造作に顔を殴る。強い衝撃で近くの木に叩きつけられる。
あまりにも強い衝撃と痛みに、私は意識を失った。
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そこからの出来事はあまり思い出したくない。
目が覚めた時には暗く狭い小屋に逆戻りだった。
結局村へ連れ戻された私は、逃げられないよう厳重になった小屋の中で拷問じみたことをされ続けた。
胸や腹はあざで元の色がわからなくなるほど殴られ、骨にひびが入っていたと思う。呼吸すると肺がきしむようだった。
下卑た村人の顔や手慣れた様子を見るに、私に対する暴力は日常的に行われていたようだ。
抵抗心を削ぐのと、退屈な村の娯楽になっているらしい。
「まったく、突然抜け出すなんてな」
「今までのしつけが緩すぎたんじゃないか?」
「っはは、違えねえ。もっと厳しくやるようにしようぜ」
その行為の全てが私の心を折るのに充分なものだった。はじめは抵抗しようとしたが、両手から爪が無くなったころにはそんなこと考えもしなくなっていった。
人形のようだった前までの私がうらやましいと何度も思った。次はどんなことをされるのか怖くて怖くてたまらない。この溢れる恐怖のためか、頭にもやがかかったようだ。
最近は意識のない時間が多くなった気がする。このまま死ねるならどんなにいいだろう。
明日の朝が来なければいいのに、そう願いながら私は瞼を閉じた
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「出ろ」
一か月か一年か、時間の感覚もとうになくなったころ男が戸を開けた。
どうやらここしばらく雨が降りやまないらしく、私を供物として捧げるらしい。
私を生かしておいたのは、このためだったのか、
いつからか、まともに声がでない。
村長らしき人物を先頭に10人ほどで山を進む。
ぬかるんだ地面に足を取られる。
「……っ!」
「チッ、さっさと歩け!」
首と手首を縛っている縄を引っ張られ、ひゅっと首から息が漏れる。
時々滑り、そのたびに縄を引かれながら歩くと開けた場所に来た。
ドン
背を押され、たまらず膝をつく
「神に連なるお方よ。この贄をもって願います。どうかこの地から雨を退け、再び日の光を取り戻して下され」
村長が顔を伏せながら口上を述べる。ほかの奴らも跪き顔を伏せている。
ああ、ここで死んじゃうのかな…、
雨が地面を打つ音が続く。木々のざわめきが収まった、と同時にドッと空気が重くなった。
あたりに緊張が走る。
「随分面白い気配がするわね」
いつからそこにいたんだろう
跪く私の目の前に、ずっとそこにいたかのようにそれは現れた。