4. お母さんに言ってみる
今回のお話は「家族へのカミングアウト」について。
同じような悩みを抱えた方にも、少しでも届けばと思っています。
あかりの家はいつも暗い。4LDKの賃貸マンションはいつも灯りをあまりつけない。
両親はもう目も合わせてくれないし、妹は姉を軽蔑している。自分の引きこもりのせいだとその事実からは目を逸らしたかった。
今日は自助グループの日だ。五割行くつもりだったが、まだ知らない人に会うことも外に出ることも怖い。何かいいことが起きて背を押してくれないかとあかりはリビングで母を待っていた。
(決めた。お母さんに言おう。お母さんが私が悪くなかったって言ってくれたらまたあの人に会いに行こう)
もしかして許してもらえるのではないかと思った。
引きこもって迷惑をかけていることだって、障害のせいだと分かれば笑いかけてくれるのではないだろうか。
時計を見ると十一時。母は買い物に出掛けていて、いつもならこの時間に帰ってくるはずだ。
玄関のドアの音がする。あかりは緊張のあまりリビングの小さな鏡を前に寝癖がないかチェックし始めた。
「ただいま……あかり? どうして外にでているの?」
母だ。髪を切って痩せていてたらあかりと母はよく似ていただろう。服装を気にする人で買い物に出かける時もきちっとしている。
母の表情が優しいものではなく、嫌な物を見るようなものだったがあかりは期待を込めて衝動のまま半ば叫んでいた。
「お母さん、私、発達障害だったんだよ!」
「はあ? 発達障害……?」
「そうなの! 病院で診断してやっと分かったんだよ! 今までのことは全部障害のせいだった。私のせいじゃないんだよ!」
母から表情が消えた。
「あかり……そのこと近所の人に言ってないでしょうね?」
「え?」
「恥ずかしい」
母はあかりを振り返る。その目は見たことがある。母がゴミ出しをうんざりしながらしている時の目だ。
「うちの障害者がいるなんてみっともない。ご近所に知られたらなんて言われるか。あんた絶対外でその話するんじゃないわよ」
「……そ、そんな。私は私だよ。今までと何も変わらない。聞いて! 発達障害って薬もあるんだって。それを飲めばきっと私も良くなるよ!」
母は無表情のままだが眉根が上がっていく。
「大体、発達障害って障害じゃないでしょ。ただの怠け者。テレビが障害だと言ってるだけ。あかりが障害者なわけない。そんな存在がうちの家族にいるわけない。あかりが家族を苦しめてきたのはあんたのせいじゃない」
「どうして……そんなこと言うの? 障害者ってそんなにダメなの?」
「家族に障害者が欲しい人なんていないわ」
十年以上引きこもってきた負い目のあるあかりは期待していた。家族に忌み嫌われていることは知っている。
けれど自分には障害があった。自分が長い間、家族のお荷物だったのは自分のせいじゃなくて発達障害のせいなのだと受け入れてくれると希望を持ったいた。
「何が発達障害よ。ただの怠け者の自己責任でしょ」
「な、怠け者じゃないよ、発達障害だよ!」
「いつまでも引きこもって、あんたのせいで私たちまで変人扱いされて……この上、ありもしない障害の話をしてうちに恥をかかせないで! いつまでもあんたのせいで世間に顔向けができないじゃない!」
目の前が真っ暗になった。あかりは家族の恥なのだ。今だって母はそう思っている。
「お、お母さんなんて、大嫌い! 二度と顔も見たくない!」
気がつくと衝動のまま家を飛び出していた。
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次回は「初めての自助グループ」を書く予定です。ぜひまたお立ち寄りください。
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