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第6話 お昼時

「さて、イント、次の現場に着くぞ」


「そうだな」


 二人は再び、芝刈りを始め……そして、作業を完了する。


 その後、最後の現場である学生寮の近くに移動し……、


「はぁー、終わった終わった!」


 イントは上機嫌に言う。

 芝刈り機の活躍もあり、昼前には今日のノルマが完了していた。


「さてさて、飯にしようぜ」


「あぁ……」


 イントとユキは昼食を取ることにする。


 すると……、


「これ……!」


「ん……?」


 見ると、イントが自身の昼食の一部をユキにすっと差し出していた。


「え? いや、大丈夫だって」


 ユキは断る。

 恐らく自分が物乞いに恵んで減った分をくれようとしているのだろうとすぐに分かったからだ。


 だが……、


「気にすんな。ユキのおかげで仕事がさくっと終わったからだよ」


 イントは取り下げない。


(……)


「……ありがとよ」


 ユキは受け取る。

 仕事がさくっと終わったからというのは建前という奴だろうが、それでもこれ以上、断るのは野暮であるとユキは感じた。


 その時であった。


「おい、お前ら……!」


「「……!?」」


 食事を取ろうとしていたユキとイントは後ろから声を掛けられる。

 あまり穏やかとはいえない口調で声を掛けたのは、ガタイのいい先輩職員こと……ジェイソンであった。

 ジェイソンは今朝方、本来、洗濯当番であったはずのユキとイントに草刈り当番を交替させてきた男だ。


「ユキくん、イントちゃん、何で学生寮(ここ)にいるのかな?」


 ジェイソンは最後の現場であるはずの学生寮にユキとイントがいて、加えて、すでに芝が刈り終っていることに疑問を抱いていた。


「え? 終わったからっすけど」


 イントはそのように答える。


「終わっただと? この短時間に!?」


「えぇ、そうですが? 本日の業務終了です」


 イントは交替させられたのを根に持っているからか、やや挑発的に笑みを浮かべながら答える。


「……っ! お前ら、手抜きしてるだろ?」


「手抜き? この芝生を見てくださいよ」


「っっ……!」


 そこには綺麗に刈り取られた芝生があった。


「っっ…………」


 ジェイソンは険しい顔をする。

 が、何かを思い付いたのか急に笑顔に戻る。そして……、


「ほーん、そうか。もう仕事終わったんだね? だったら、ユキくん、イントちゃん、僕たちの洗濯も手伝ってくれないかな?」


「っ……!?」


「ね? 終わったんでしょ? いいよね? ユキくん」


「いえ、お断りします」


「っっっ……!?」


 朝は担当の交替をあっさりと受け入れたユキであったが、今回はきっぱりと断る。


「え? なんで?」


「この現場は時間給じゃなくて、成果給ですよね? 要するにノルマ終わったら業務終了です。交替ならば建前上は等価交換ですが、あなたたちの仕事を受けるのは違いますよね」


「っっっ……!」


 ジェイソンは一瞬、言葉を失う。


 だが……、


「あ゛ー、あ゛ー……なんだ、お前ら……新人のくせに生意気だな……!」


「「っ……!?」」


「お前ら、あれだろ? 俺たちが温厚だから安心しちゃってるんだろ?」


「ど、どういう……」


「すこーしばかり身体に教えてやる必要がありそうだな」


(な……!?)


「〝炎よ――弾丸となりて敵を討て 炎弾(ファイア・ボール)〟!!」


「うおっ……!」


 ジェイソンはなんとユキとイントに魔法で攻撃を仕掛けてきたのである。


「ジェイソンさん……どういうつもりですか?」


 ユキが静かに尋ねる。


「どうもこうもねえよ、さっき言った通り。すこしばかり身体に教えてやるんだよ」


(……全く……血の気の強い世界だな……)


 前世で言えば、かなり理不尽……というか暴力に訴えかけることは犯罪クラスの所業である。


 しかし、この世界では、魔法による決闘(決闘というには、いささかしょうもない事であるが……)は割と日常茶飯事であった。


 この世界における〝人間同士の魔法が及ぼす作用〟は、物理的なものではなく、〝精神的なもの〟であると言われている。


 要するに炎の魔法で焼かれたとしても、身体が実際に焼かれるわけではないのだ。

 ゆえに大怪我を負うわけではない。


 しかし、精神的には炎で焼かれるわけなので、苦痛はある。

 強い魔法を受ければ、当然、失神し、行動不能に陥る。


「ユキ、どうするよ?」


「……向こうがその気ならやるしかないよな」


 そう言って、ユキは杖を構える。


 と……、


「「…………?」」


 その姿を見たジェイソンとその後ろにいる連れの二人は顔を見合わせるようにして、一瞬、唖然とする。


「え……? なにそれ、ギャグ……?」


(……)


 ユキはジェイソンの言いたいことはわかったが、答えない。


「え? それって、魔法補助具だよね? え……え……?」


 ジェイソンは驚いた顔を見せた後、にやりと嫌な笑みを浮かべ、確認する。


「え? ひょっとしてだけど、ユキくん……〝無才〟……あ、ごめんごめん……魔生成不可者?」


「……そうですが」


「「…………だはははははははは!!」」


 ユキがそうであると答えると、ジェイソンとその連れは大笑いする。


(……)


「あ、ごめんね……いや、でもまさか無さ……あ、いや、魔生成不可者のくせに、こんなに粋がってたのかと思うと、なんか無性にむず痒いというか……こみ上げるものがあって……」


「なぁ、ジェイソン。俺の中等部にも魔法補助具使ってる奴がいたが、成長もしない魔法を馬鹿の一つ覚えみたいに卒業まで使い続けてたぞ」


「あぁ、あぁ、違いねぇ」


「「だはははははははは!!」」


 ジェイソンとその連れはなおも嘲笑する。


「お前ら……! 許されねぇぞ!」


 大笑いするジェイソンらに対し、イントが怒りを向ける。


「許されない? 許されないのはお前らだろ? 五連弾炎弾(ファイア・ボール)!!」


 ジェイソンが前に出した右手の周辺に五角形の陣形を組む炎の弾が発生する。


「くっ……!」


 イントは歯を食いしばる。


「くらえ……!」


 ジェイソンがそう叫ぶと五つの炎弾がユキとイントに向けて容赦なく放たれる。


「うぉっ……!」


 ユキとイントはなんとかそれを回避する。


「おらおら、こんなんじゃ終わらねえぞ! もういっちょ五連弾炎弾(ファイア・ボール)!!」


 再びジェイソンの手の平の周囲に、五角形の陣形を組む炎の弾が発生する。


 と、ユキは杖を構え、ぼそりとつぶやく。


「……実行(エグゼ)


「「……え?」」


 すっとんきょうな驚きの声をあげたのはジェイソンらであった。


 ユキの杖の先端付近に、水の塊が生成され、その塊が次第に巨大になっていくからである。

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